東大医学部不祥事が示す医療界の欠陥 奨学寄付金の不透明運用と大学ガバナンスの脆弱性に焦点
YouTube チャンネル「郷原信郎の“日本の権力を斬る”」では、東京大学医学部に関わる相次ぐ不祥事と、医療機器・製薬業界を取り巻く構造的問題をテーマとした議論が公開された。ゲストは医療ガバナンス研究所の上昌広医師。東大病院整形外科准教授の収賄事件を切り口に、医療界のガバナンス不全について多角的な分析が行われた。
発端となったのは、東大病院整形外科准教授が医療機器メーカーから奨学寄付金名目で約80万円を振り込ませ、約70万円を賄賂として受け取った疑いで逮捕されたケースである。奨学寄付金は大学を通じて支払われ、大学が一部を管理したうえで研究者が使う「表の金」であるにもかかわらず、今回のように私的用途「パソコンや子どもの参考書などに流用していた」ことが、収賄認定の根拠となったと説明されたという。
上医師は、製薬企業が透明性ガイドラインに基づく支払い公開を進めた一方、医療機器メーカーの開示は遅れており、営業部門の裁量で扱われる奨学寄付金が販促手段として温存されてきた構造を指摘している。また、奨学寄付金の賄賂認定は、三重大学麻酔科教授事件(2021年)を契機に立件のハードルが下がったと解説した。
対談では、東大医学部が抱える組織問題にも踏み込んだ。独法化以降、教授が無期雇用で強い権限を持つ一方、若手教員は3年更新となり、教授会の力関係が硬直化している点が挙げられた。また、昭和40年代卒業世代が学生紛争期に国家権力と対峙した価値観を持つのに対し、現在の教授層の世代では、企業や行政への従順さが強まり倫理観が弱体化しているとする見解が示された。
さらに、東大医学部では近年不祥事が続発しており、同医学部が抱えるコンプライアンス体制の脆弱さにも議論が及んだ。郷原弁護士は、東大教授による性風俗接待強要問題に触れ、自身の事務所が長年委託されてきたコンプライアンス相談窓口契約が大学側の判断で突然打ち切られた経緯を説明。その数か月後に同事件が起きたとのエピソードを語った。同氏は、通報への対応が適切に行われなかった事実は、大学の自浄能力に疑問を投げかけるものだと指摘した。
こうした不祥事が続発する背景として、上医師は、医学部における教育体制の問題に踏み込んだ。特に、教授・准教授といった指導的立場に立つ者に対し、一般企業では当然のように行われているコンプライアンス研修が体系的に導入されていない点を挙げ、その根本要因として「倫理観は本来、幼少期からの教育で育まれるべきものだが、そこが欠落したまま専門職として成長した場合、後から改善する仕組みがない」と述べた。
医療界全体についても、幽霊病床問題をはじめとした不信の広がりが言及され、ガバナンスの抜本的再構築が不可欠だと結論付けられた。上医師は刑事摘発だけでは不十分であり、医学部組織全体の倫理教育・監査機能の強化が求められると述べた。
対談では、医療機器メーカーの販促手法、奨学寄付金の制度的欠陥、大学のガバナンス不全、さらに医療者教育の課題に至るまで、現在の問題構造を的確に分析している。
【田代 宏】
(冒頭の写真:東大赤門前)
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