消費者契約法検討会WGが初会合 契約解除・無効や配慮義務のあり方を検討
消費者庁は2日、「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会ワーキンググループ(WG)」の初会合を開催し、脆弱性への対応を中心とした制度見直しの議論を開始した。デジタル化や高齢化の進行により、従来の取消権や無効規定だけでは救済し切れない事例が顕在化する中、事業者の配慮義務や契約拘束力からの解放など新たな枠組みの必要性が示された。WGは年度内に集中的に議論を進め、春ごろに取りまとめを行う予定である。
「脆弱性」の3類型と課題整理
会合では、第1回検討会で確認された検討事項のうち、消費者の多様な脆弱性への対応として必要な規律、各規律導入時の実効性確保の仕組み(横断的事項)が議題とされた。事務局は「資料2」に基づき、検討テーマの総論と基本的な考え方を説明した。
消費者の脆弱性として、類型的・属性的脆弱性(年齢、教育水準等)、限定合理性による脆弱性(認知バイアス等により合理的判断が困難)、状況的脆弱性(切迫、疲弊、不意打ちなど状況依存)――の3類型を提示している。全ての消費者は程度の差こそあれ脆弱性を有し、環境や関係性により多様に変化することを前提とする考え方を整理した。
現行の消費者契約法は取消権と契約条項の無効を中心とするが、これらは要件が限定的で、取消権に至らないが問題性があるケースや、事業者の行為によってはない脆弱性由来の不利益には十分対応できないと指摘した。このため、新たな規律の検討が必要とされた。
新たな規律の方向性:配慮義務・解除・生活維持
今後検討すべき具体的方向性として「事業者による脆弱性への配慮を促進する仕組み」、「脆弱性の影響が特に強い場面で契約の拘束力から消費者を解放する仕組み」、「消費者に依拠する者の生活維持を困難にしないための仕組み」――の3つを示した。これらは従来の取消権・無効規定では対応が困難な範囲を補完するための枠組みである。
検討事項では、事業者が脆弱性に配慮する義務を法的に位置付けるか、行動指針の共同策定をどう行うかなどが提示された。また、脆弱性が強い場合には解除権や契約無効を視野に入れる方向性、取消権に該当しない事案について不法行為責任を基礎とする損害賠償の在り方なども論点となる。
解除権・無効の射程と他制度との整合性
脆弱性に基づく契約の解除権・無効規律の導入に関する論点にも話が集中した。委員からは、資料に示された「生活を危殆化する」、「生活維持を困難にする」という2つの表現の違いが明確でないとの指摘があり、また「修復不能で深刻な結果」とは具体的に何を想定するのかとの質問が出た。事務局は、参考事例の5・6のように生命・身体に関わる場面が典型例だが、あくまで例示であり限定する趣旨ではないと説明した。
また、解除と無効の整理に関し、無効は公序良俗違反の具体化ではないか、また事業者側の悪質性をどのように位置づけるかが重要であるとの意見が示された。さらに、契約内容による深刻性が問題となる場合、事業者の行為に悪質性が認められないケースでどこまで規律を及ぼすべきかという懸念も挙げられた。
一定額以上の契約において第三者(例:家族)を関与させる仕組みが可能かどうかについても議論が行われたが、類型的脆弱性を有する消費者が事前に指定する仕組みの実現性に疑問が呈された。事務局は、例示であり固定的な案ではないと回答した。
複数の委員から、他制度との整合性、とくに成年後見制度の見直しとの関係について意見が出た。後見制度の利用が縮小方向にある中で、消費者契約法側で脆弱性に対応した救済を整備する必要性が指摘された一方、事業者が消費者の脆弱性を事前に把握できない状況で拘束力を否定できるのか、事業者負担の正当化が課題となるとの声もあった。
「無効」に関する議論では、深刻な結果をもたらす契約であっても、事業者の行為が問題でない場合にどこまで無効を導けるのか、消費者側の事情だけで無効を認めれば、従来の公序良俗違反から大きく踏み出すことになるとの懸念が示された。
ある委員は、美容医療の高額契約などに見られる「恐怖心のあおり」や「当日限りの強引な勧誘」などが組み合わさる実態に触れ、事業者側の配慮義務違反を強く評価することで無効との整合性が取り得るのではないかと述べた。
年度内に4回の集中的議論、春に取りまとめへ
多様な議論は2時間40分にも及んだ。次回の開催は今月9日。来年1月前半にかけて計4回開催し、まず「脆弱性対応」、「高齢者等の家計に関する事項」、「改悪論」に関する3つの内容論点を順次検討する。この後、ハードロー・ソフトローに関する議論を行い、最終回では横断的検討事項を扱う予定。
議論は1巡後に検討会へ報告し、意見を踏まえて2巡目の議論に進む。最終的なWGとしての取りまとめは春ごろを想定している。
【田代 宏】
配布資料はこちら(消費者庁HPより)











