消費者契約法の見直しへ初会合 デジタル取引と高齢化を踏まえ制度横断で課題整理へ
消費者庁は25日、第1回「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」を開催し、デジタル化の進展や高齢化、取引基盤の変容など現代的課題を踏まえた制度見直しに向けた議論を開始した。広告・契約・解約を通じて新たな問題が顕在化するデジタル取引、脆弱性への配慮が求められる契約類型、解約料の実務上の課題、ソフトロー活用のあり方など、多方面から論点が示された。今後は学識者WGや特商法等検討会と連携し、来夏を目途に中間取りまとめを目指す。
現代の消費者取引に対応した制度見直しを進めるための検討会には、大学教授、弁護士、消費者団体、事業者団体、労働組合、医療・福祉などさまざまな分野から委員が選任された。また、最高裁、法務省、国民生活センターがオブザーバーとして参加した。
事務局は冒頭、消費者取引を取り巻く近年の環境変化について説明した。デジタル取引では、広告、契約、解約の各段階で新たな課題が生じており、従来型取引においてもレスキューサービスや連鎖販売取引で問題が散見されることを示した。さらに、個人情報・時間・アテンション(注意・認知資源)など、金銭以外の資源が取引構造の中で重要性を増している現状を指摘し、消費者法制度を横断的に見直す必要性を提示した。
デジタル化と脆弱性を踏まえた課題整理
今後検討すべき論点を整理した。まず、取消権中心の現行制度では、判断能力が十分でない高齢者や、生活基盤が損なわれる可能性のある契約類型に対応し切れない場面があるとして、脆弱性に配慮した規律の必要性を示した。その際、努力義務や配慮義務など、多段階の規範構成が有効となる可能性を指摘した。
また、サブスクリプション型契約のように契約終了時点で消費者の不利益が顕在化する類型を踏まえ、契約の締結場面だけでなく、継続・終了を含むライフサイクル全体を視野に入れた制度設計が必要であると説明した。併せて、消費者の自律性を損ねるUI(ユーザーインターフェース)設計や、解約阻害につながる手続構造など、デジタル特有の課題を契約法の中でどう扱うかという論点が示された。
解約料など新たな対応が必要
さらに、事務局はハードローとソフトローの適切な組み合わせも検討対象とした。抽象度の高い規定を法律に置きつつ、行政指針や業界基準などを活用し、予見可能性を確保する考え方を提示した。ソフトローの策定過程への多様な主体の参画を確保する仕組みも併せて検討する必要があると説明した。
解約料に関しては、平均的損害を基準とする現行法の枠組みでは、価格差別の一環として利用される場合や、手続的理解が不十分なまま契約が成立する場合に対応が困難であると指摘した。解約料の呈示方法のわずかな違いが消費者の納得度を大きく変える実証結果を紹介し、手続的観点を組み込んだ新たな対応の必要性を示した。
委員からは、脆弱性概念の範囲、デジタル取引の位置付け、ソフトローの正当性確保など多岐にわたる意見が出され、事務局はこれらの論点を精緻化するため、学識者ワーキンググループ(WG)の設置を進める方針を説明した。来月にも第1回目のWGを開催する予定だ。
両制度を並行検討し中間まとめへ
消費者庁は、消費者契約法およびデジタル取引・特定商取引法の両制度について、今後の検討スケジュールを示した。現代社会における消費者取引の変化を踏まえ、制度の在り方を整理するため、並行して検討会やワーキンググループ(WG)を運営し、令和8年度中に中間的な取りまとめを行う見通しだ。
消費者契約法関連では、前述したとおり、12月以降は学識経験者WGが具体的な論点に踏み込み、議論を深める予定。来年春頃には、WGによる取りまとめを実施する計画で、その結果を踏まえて、夏頃に中間的まとめを公表する方針だ。
一方、デジタル取引・特商法関連では、来年初頭から「デジタル取引・特定商取引法等検討会」を開催し、その後、消費者契約法側と同様に、夏頃を目途として中間的な取りまとめを示すとしている。
両制度の検討が並行して進むことを踏まえ、必要に応じて合同検討会の開催も視野に入れている。制度横断的な課題を共有し、消費者取引全体のルール形成を一体的に検討する狙いがある。
【田代 宏】
掲載資料はこちら(消費者庁HPより)











