消費者庁食品表示課保健表示室に聞く 改正・機能性表示食品制度の運用実態と課題(中)
昨年生じた健康被害問題で揺らいだ信頼の回復に向けて大きく改正された機能性表示食品制度の運用が4月から本格的に始まった。サプリメントのGMP基準遵守、システマティックレビューのPRISMA2020準拠、新様式への対応、そして「自己点検」などが届出者に求められる中、制度を所管する消費者庁は「責任ある届出」と「継続的な情報収集」を呼びかけている。同庁食品表示課保健表示室の今西保室長(=写真)に現状と課題を聞いた。全3回のうち第2回。
PRISMA2020準拠、不備が多いのはどこ
──4月1日から新規届出について実質的に義務化されたシステマティックレビュー(SR)のPRISMA2020準拠に関わる差し戻しが多いと届出者などの事業者から聞きます。実際、不備が多いのでしょうか。
今西 指摘させてもらっている不備はそこに限りませんが、PRISMA2020に係る不備として多いのは、「PRISMAチェックリスト(2020)」の5番(#5)、「方法」のうち「適格基準」のところ。「レビューの組み入れ基準と除外基準、及び統合のために研究がどのようにグループ化されたかを記載する」とされていますが、グループ化について記載されていない場合が多くなっています。
また、バイアスリスク評価に関する11番(#11)も同様です。「使用したツールの詳細、各研究を評価したレビューワーの数、独立して作業したかどうか、該当する場合はプロセスにおいて用いた自動化ツールの詳細を含め、組み入れた研究におけるバイアスリスクを評価するために用いた方法を記載する」とされていますが、それが記載されていないケースが目立っています。
──今年3月、健康食品業界団体らが「機能性表示食品制度の届出資料におけるPRISMA2020声明システマティックレビュー記載の留意点」の第1版を発行しました。これは消費者庁との意見交換を踏まえて作成したとされています。要するに業界団体と消費者庁で目線合わせしたということだと思いますが、発行後、消費者庁の目線が変わったということはありませんか。
今西 ありません。ただ、PRISMA2020は旧来のPRISMA2009に比べてチェックポイントが増えています。そのため、2020に初めて取り組むような場合は慣れるのに時間がかかると思います。ただ、我々が差し戻しの際に付けるコメントを理解し、ご対応いただければ、2回目以降の届出では不備を解消できるはずです。
──機能性に係る事項を取りまとめる様式5のほかに不備の多い様式はありますか。
今西 やはり、新しい様式に不備が多い傾向が見受けられます。チェックされているべき項目がチェックされていなかったりします。我々としても、誤りが多い箇所であったり、正しいチェックの仕方であったりを届出者の皆さんに伝えていく必要があると考えています。
──現在は何人くらいで届出資料を確認しているのですか。
今西 新規届出と変更届出で担当を分けていて、新規届出に関しては全体で10人程度、変更届出は見るべきポイントが少ないですからそれよりも少ないです。1つの届出を必ず複数で見るようにしています。1人で判断することはありません。
容器包装表示の新ルールと120営業日ルールの運用状況
──容器包装上の表示ルールも大きく改正されました。来年8月31日までの経過措置が設けられていますが、「早く切り替えて欲しい」というのが消費者庁の本音ではありませんか。
今西 来年9月1日以降に製造される機能性表示食品の容器包装表示は必ず、新ルールに則っていないとならないのです。すでに7,000件近くの届出がある中で、経過措置期間の終了間際に集中してしまうと、我々も事業者の皆さんも大変なことになってしまう。そのため、届出者の皆さんには早めの対応をお願いしています。現状をお伝えしておきますと、変更届出に関しては表示見本の変更が非常に多くなっていますし、新規届出も大半が新ルールに則した表示見本になっています。
──表示見本に対する不備指摘も多くなっているのではありませんか。
今西 現在は経過措置期間中ですから、新規届出について新ルールに則っていないからといって差し戻すことはありません。ただし、新ルールに則って届出されたと思われるものに関しては、新ルールに照らして不備があれば差し戻します。変更届出も同様です。
商品の情報が正しく伝わること、機能性表示食品である旨の視認性を確保することなどといった新ルールの趣旨や目的を正しく理解した上で、事業者の責任として正しい届出を行っていただきたい、というのが我々の思いです。健康食品産業協議会、日本抗加齢協会、日本通信販売協会の3団体がまとめた自主基準(「機能性表示食品」適正広告自主基準第3版)には広告だけでなく容器包装表示に関する考え方も盛り込まれていますから、そちらを参考にしていただくことも大事だと思います。
――新規の機能性関与成分などについて専門家に意見を聴く仕組みも4月1日から導入しました。いわゆる「120営業日ルール」です。どのように運用していますか。
今西 届出から2週間程度のタイミングで、120営業日を適用する場合はその旨を届出者にお伝えしています。導入したばかりですから、原則、届出実績のない機能性関与成分の全てに適用させてもらっています。届出実績はある一方で、組み合わせが新規の場合も同様です。ただし、先ほどの60営業日の規定と同じように、120営業日を目一杯使うということでは決してありません。専門家に意見を聴く前に形式上の不備で差し戻す場合もあります。
──事業者にとって、確認期間が最大2倍に延長されることの影響は大きいはずです。専門家に意見を聴く仕組みを導入した理由を改めてうかがいます。
今西 小林製薬の事案を受けた機能性表示食品制度を巡る検討会での議論と関係閣僚会合の取りまとめを踏まえた、制度の見直しの中で導入しました。新規の機能性関与成分については、安全性などの課題について科学的知見を有する医学や薬学などの専門家の意見を聴く仕組みを導入する必要があるという意見がありました。この制度に対する信頼性を高めるためにも、届出実績のない機能性関与成分についてはとくに安全性を慎重に確認しなければならないということです。専門家の意見を聴きながら医薬品との相互作用や疾病との関係などを慎重に確認するためには60営業日では足りません。そのため、それよりも長い期間をいただくことになりました。
―─専門家に確認を求めるポイントは。
今西 届出資料に記載の医薬品との相互作用などの内容が表示見本上の「摂取をする上での注意事項」に適切に反映されているかをはじめ、届出された安全性情報を全体的に確認してもらいます。ですから、新規の機能性関与成分や新規の組み合わせを届け出る場合は、安全性に限りませんが、情報をしっかり揃えていただくことが大事です。確認のための情報が不足していると判断すれば、差し戻すことになります。
(後編に続く)
【聞き手・文:石川太郎、取材:2025年8月28日】
前編はこちら
【プロフィール】今西保(いまにし たもつ):消費者庁食品表示課保健表示室長。2004年厚生労働省入省。基準審査課で農薬等のポジティブリストなどを担当。その後、監視安全課乳肉安全係を経て、内閣府食品安全委員会事務局評価第2課を担当。24年4月、食品衛生基準行政の移管で消費者庁食品基準審査課課長補佐に着任。今年4月から現職。
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