消費者庁食品表示課保健表示室に聞く 改正・機能性表示食品制度の運用実態と課題(前)
昨年生じた健康被害問題で揺らいだ信頼の回復に向けて大きく改正された機能性表示食品制度の運用が4月から本格的に始まった。サプリメントのGMP基準遵守、システマティックレビューのPRISMA2020準拠、新様式への対応、そして「自己点検」などが届出者に求められる中、制度を所管する消費者庁は「責任ある届出」と「継続的な情報収集」を呼びかけている。同庁食品表示課保健表示室の今西保室長(=写真)に現状と課題を聞いた。3回に分けて掲載する。
届出番号の付与で終わりではない
──改正制度の本格的な運用を始めてからまだ半年足らずですが、実際に運用してみて課題を感じたり、届出者にもっとこうしてもらいたいと思ったりすることはありますか。
今西 小林製薬の事案によって低下した機能性表示食品制度に対する信頼性を高める目的もあって制度の見直しを行いましたが、この制度の基礎は事業者責任であることに変わりはありません。ですから事業者の皆様には、制度見直しの目的、そしてこの制度の趣旨を正しくご理解の上で、自信をもって商品を作り、責任をもって正しい届出を行っていただきたいと考えています。
そのうえで、制度の見直しで導入した自己点検を含む遵守事項にしっかりご対応いただきたいと思っています。年に1回、自己点検結果を我々にご報告いただくという規定になっていますが、遵守事項とは届出以後に日常的に行っていただくものです。
もともと機能性表示食品制度には「事後確認」という考え方が取り入れられていますが、機能性表示食品は届出番号が付与されたら終わりではないということを改めてご理解いただきたい。届出を維持するためには、継続的に安全性や機能性の情報収集などを行っていただくことが大事です。そのためにも届出者は、届け出ている1つひとつの商品に係る原材料メーカーやOEMメーカーなどと普段から連携を取っておくことが必要です。
──消費者庁に報告した自己点検の結果は公表される。報告しない場合は機能性表示食品として販売できなくなる。そういう理解で正しいですか。
今西 そのとおりです。報告された自己点検結果は届出データベース上で誰でも確認できるようにしますし、報告しない場合は、機能性表示食品としての要件を欠くことになります。つまり、食品表示法に基づく行政上の措置を講じられる状態になるということです。ですから届出者には、自己点検結果の報告が遅れることのないようお願いしたいと思います。昨年度末(今年3月末)までに届出番号が付与された届出は、来年3月末までに初回の報告を行っていただく必要があります。意外と時間がありません。
25年度「K」シリーズ、届出公開件数が少ない理由
──4月1日以降に提出された新規届出の情報公開が7月から始まっていますが、例年と比べて数が驚くほど少ないですね。なぜでしょうか。
今西 制度の見直しで4月1日から届出の内容が変わりました。システマティックレビューにPRISMA2020を導入したり、届出を行う際の様式を変更したりと大きく変わっています。また、届出データベース自体も更改されています。変わる前、年度末の3月終わりぐらいに届出件数が増えました。それに、様式や届出データベースが変わったことで、届出者の皆さんも新しいデータベースに対応し、新しい様式を用意するのに時間がかかったと思います。
そういった理由で、公開件数が少なく見えているということだと思います。ですが、昨年の事案(健康被害問題)以降も公開件数が急激に減少するということはありませんでした。いずれ例年どおりの数に戻っていくと現時点では考えています。
──駆け込み的に届出が増えた反動と様式変更の影響で、そもそも新規届出の件数が例年よりも少なくなっていると。
今西 4月、5月は届出件数自体が少なかったです。また、事業者の皆さんがこれまでに経験したことのない新しい様式ですから、当然、差し戻しの件数が従来よりも多くなっています。「ここが入っていませんよ」、「ここが抜けていますよ」などといった理由で差し戻しをさせてもらっています。中には、古い様式で届出してくる事業者もいらっしゃる。
──届出資料の確認期間の目安を「60日」から「60営業日」に変えたことの影響は。
今西 そこも4月1日から変わった点の1つですが、60営業日というのは我々の確認期間の上限ではありません。あくまでも届出者が販売開始の60営業日前までに届出をしなければならない、という法的な要件です。ですから届出資料の確認のために60営業日を目一杯使いますよという話ではありませんし、実際、現時点では45~50営業日程度で確認し、不備がなければ、届出番号を付与して公開しています。
(中編に続く)
【聞き手・文:石川太郎、取材:2025年8月28日】
【プロフィール】今西保(いまにし たもつ):消費者庁食品表示課保健表示室長。2004年厚生労働省入省。基準審査課で農薬等のポジティブリストなどを担当。その後、監視安全課乳肉安全係を経て、内閣府食品安全委員会事務局評価第2課を担当。24年4月、食品衛生基準行政の移管で消費者庁食品基準審査課課長補佐に着任。今年4月から現職。
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