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まだ続く紅麹サプリ事件(1) 「プベルル酸」特定の根拠は小林製薬の提供データだった!?

 小林製薬が引き起こした紅麹サプリ事件は、多数の健康被害と死者を生み、社会に大きな衝撃を与えた。厚労省は原因物質を「プベルル酸」と特定したが、その毒性評価は小林製薬自身のデータに依拠していた事実が明らかになった。さらに相乗毒性の可能性や情報公開のあり方など、未解明の課題が山積している。本稿は連載の第1回として、行政と企業の対応に潜む謎を検証する。

事件発覚と原因物質の特定

 2024年3月、小林製薬の紅麹サプリメント『コレステヘルプ』などを摂取した多数の消費者に健康被害が生じ、死者まで出たと報じられた。この衝撃的な事件は、今なおその全容が明らかになったとは言い難い。
 厚生労働省は、早期の段階で原因物質を「プベルル酸(Puberluric acid, PA)」と特定し、国立医薬品食品衛生研究所(国立衛生研)により、プベルル酸の毒性を確認する動物実験が実施された。7日間および28日間の反復投与試験が行われたというが、それらの詳細は長らく公表されることなく、ようやく9月4日に開始された消費者庁の部会で報告された。

 それ以前の段階で、厚労省は「プベルル酸による腎毒性を確認した」として、同様の被害を防ぐための行政措置を次々と講じてきた。しかしその一方で、「モナコリンK」との相乗毒性の可能性や、他の副産物の影響など、複数要因による複合毒性の可能性については、検討が進められた形跡が乏しい。

 事件の核心は、紅麹サプリメントの中に混入していたとされるプベルル酸が、本当に健康被害の主原因であったのかという点にある。仮に主たる原因の1つであったとしても、プベルル酸だけに罪を着せてよいのかということだ。特に注目されるのは、厚労省が「未知の物質Y、Zには毒性が確認されなかった」と発表した点だが、その毒性試験の実施主体や、使用された試料の入手経路について、明確な説明は行われて来なかった。

依拠したのは小林製薬のデータ

 筆者が今月9日、厚労省に対して行った取材では、「プベルル酸に関する7日間の毒性試験は、小林製薬が提供したデータを利用した」との説明を得ている。つまり、事件の加害企業である小林製薬が提出した試験データに基づき、プベルル酸の毒性が評価されたということである。少なくとも昨年11月5日に行った情報開示請求によって入手した資料には、試験委託者が小林製薬であるとの記載はあったものの、実施主体は黒塗りにされていたために分からなかった。しかし今回、小林製薬が主体となって実施した試験であることが明らかになったわけである。しかもこのマスキングは、小林製薬自身が行ったものらしい。

 この点において、事件の構図は大きく転換する。行政機関が自らの手で採取・分析を行わず、加害企業に依拠したデータに基づいて被害の主因を特定したというのであれば、その手続きの正当性や中立性には疑義が残る。しかも、その毒性試験の詳細は長期間にわたり伏せられ、少なくとも今年7月に厚生労働科学研究成果データベースに報告書が公開されるまでは、関係者の間でも「7日間試験しか実施されていない」との誤解が広がっていた。

 筆者は情報公開請求を通じて、この点を含めた事実関係の確認を続けてきた。厚労省が「7日間試験は小林製薬によるもの、28日間試験は国の科学研究事業」と説明する一方で、詳細についてはいまだに確認中の情報もある。

未解明の毒性と今後の検証課題

 また、プベルル酸が単一要因として健康被害の全てを説明できるかどうかについても、科学的な裏付けが乏しい。実際、厚労省の幹部は取材に対し、プベルル酸とモナコリンKの相乗作用について頭ごなしに否定しているわけではない。
 今後、本連載では以下のような観点から、事件の本質に迫る。
・小林製薬による毒性試験データの信頼性と行政の対応の妥当性
・相乗毒性や複合リスクの検証がなぜ行われなかったのか
・情報公開のあり方と行政調査の限界

 本稿は、あくまで「はじまり」にすぎない。次回からは、厚生労働省および関係機関の対応を1つ1つ検証しながら、なぜこのような対応に至ったのか、そして何が見落とされているのかを明らかにしていく。

(つづく)
【田代 宏】

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