環境省に聞く、シャボン玉社の誤情報発信 PRTR制度を巡る議論と要望書提出、誤情報拡散の背景は?
環境省化学物質安全課に、シャボン玉石けん㈱(福岡県北九州市、森田隼人社長)によるSNSへの誤情報発信ならびにPRTR制度における石けんの成分の取り扱いについて聞いた。
石けん成分、過去に候補物質として議論
環境省によると、石けん成分(脂肪酸塩)が第一種指定化学物質の候補として議論された事実は過去にあるという。これは「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行令」を巡り、2021年(令和3年)に行われた議論で、飽和脂肪酸ナトリウム塩および同カリウム塩が見直し対象物質の候補として上がった。
2021年10月15日、環境省は「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行令の一部を改正する政令案」に関するパブリックコメントの結果を公表した。
一定数の意見が寄せられ、業界内関係者の間でも議論が高まったことが確認されている。当時、NPO団体などからも指定を外すように要望が相次いでいたようだが、結果として、政令改正において脂肪酸塩の指定は行わないこととなった。
指定は見送り、科学的知見不足を指摘
当時、「石けんの含有物質について、科学的知見が不足していたため引き続き検討が必要だというので指定は見送られた」(環境省)という。今も有害か無害かの結論は出ておらず、物質の見直しスケジュールも決まっていない状況。10年に1度の見直しにおいて、今後、追加的な検討が将来的に行われる可能性はあるが、現段階で具体的な動きはないと話している。
ただ、環境省によると、シャボン玉石けんからは環境大臣宛てに要望書が提出されたことが確認された。要望書には「最新の科学的知見に基づくリスク評価の再検討」が盛り込まれており、環境省は要望書を受領したとしている。
今回、シャボン玉石けん側がX上に、「有害物質に指定された」との誤った記載を行ったことで、環境省が同社をつぶそうとしているなどの歪められた情報がSNSで拡散した。環境省は、「関心が高いことは事実」と認めつつ、同社が訂正記事を出したにもかかわらず誤情報が広がったことが混乱の背景にあるとしている。一方でこの件に対して、環境省として広報や情報発信を特別に強化する予定は現時点でないと述べた。
WDN編集部がシャボン玉石けんに質問
ウェルネスデイリーニュース編集部では、今回の事案について、シャボン玉石けんに今後の対応や要望書の内容について確認した。質問とその回答は以下のとおり。
<投稿内容と誤記の経緯について>
Q:投稿文中の「第一種指定有害物質」と「第一種指定化学物質」の混同が生じた原因はどのように分析しているか。
A:PRTR制度について「PRTRとは、有害性のある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表する仕組み」と理解していたが、文章作成の中で混同が生じたものと考えている。最終的に誤記載のまま情報を発信してしまったことは、チェック体制の不備が原因だ。
Q:投稿前に法令用語や表現についての確認体制はどのように整備されていたのか。また、今回の件に関して、社内の担当部署やチェックフローに改善の余地があったとお考えか。
A:運用部門、関連部門において複数回確認、承認する体制を敷いていたが、今回発生した事案を鑑みても体制が不十分であり改善すべきと考えている。法令に関わる表記のみならず、政治、信条、宗教などに触れるような表現、誹謗中傷、不適切表現など、チェックシートを見直し強化し、また、これまで以上に関連部門、専門部署との連携を強化していく。
<SNS上での反響と対応について>
Q:投稿後、「シャボン玉石けんが有害物質に指定された」といった誤解がSNS上で拡散したが、この点についてどのように受け止めているか。
A:「石けんは、化学物質排出把握管理促進法 (化管法) の対象候補物質として検討された結果、令和 3年10月の政令改正では見送られたものの、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 (化審法) においては、現在もなお優先評価化学物質に指定されていることに対し、最新の科学的知見に基づいたリスク評価の再検討のため、環境省へ要望書と有害性報告書を提出した」今回の投稿はこのような主旨のもので、ご指摘を含めさまざまなお声をお寄せいただいた。用語の誤記載について事実を真摯に受け止め、改善に努める。
Q:誤解による風評被害が生じた場合、貴社としては今後、どのような対応策(広報・顧客対応)を検討しているか。
A:チェック体制の見直し、構築、強化に努めている。なおその中には、事案によって第三者機関との連携、および迅速な対応(生活者皆様、メディアへの情報発信等)も含まれている。
Q:今回の件で消費者や取引先から具体的な問い合わせや懸念の声は寄せらたか。その件数や主な内容は?
A:さまざまなお声をいただいた。真摯に受け止めるとともに、お声をお寄せいただいたことに感謝申し上げる。
<環境省への要望活動について>
Q:環境省に提出された要望書の主な趣旨と目的は?
A:当社が提出した要望書の主な趣旨と目的は、最新の科学的知見に基づき、石けんのリスク評価を改めて行っていただくことにある。これまで多くの学術研究により、石けんが「すみやかに分解される」、「水生生物への毒性が低い」などの優れた特性が示されているにも関わらず、現状の法制度における扱いが、「石けんはリスク懸念のある化学物質」という誤解を招く可能性を深く憂慮しているためである。
この誤解は、安全で環境適合性の高い石けんの利用を妨げ、かえって安全性評価が不十分な他の化学物質への代替を促すという事態につながりかねない。このような状況を踏まえ、当社が新たに得たデータを提出し、これまでの知見を補完する形で、改めて評価を実施していただきたく、要望に至った。
Q:「最新の科学的知見に基づくリスク評価の再検討」を求められているが、具体的にどのような科学的根拠や研究成果を重視されているのか。
A:石けんに関連する生態毒性のデータは決して多くはなく、環境省も情報収集をされていたものと考えている。当社としては、外部の専門家の協力のもと、グローバルスタンダードに基づき、生態毒性のデータを収集し、査読付きの科学論文によって社会に公表することで、科学的な根拠に基づいた情報を提供できるものと考えている。
Q:今回提出された「有害性報告書(石けん成分と製品)」の内容は、社内での調査結果に基づくものか、それとも外部の専門家や学術機関の協力を受けたものか。
A:外部の専門家による実験結果であり、グローバルスタンダードに基づき試験を実施している。
Q:貴社としては、PRTR制度における石けん成分の扱いについて、どのような点が過大評価もしくは誤解を招いているとお考えか。
A:石けんは、環境中に含まれるカルシウムなどの金属イオンと直ちに反応し、石けんカス(金属石けん)に変化し、界面活性作用を失う。このように石けんは、環境中で別の物質に変化するにもかかわらず、この点を考慮したリスク評価が行われていないことが、誤解を招いている大きな点だと考えている。この点を考慮し、どのようなリスク評価を行っていくのが適切なのか、科学的な視点に基づき検討することが必要だと思う。
Q:環境省や学術界との対話は今後どのように進めていく予定か。例えば、共同研究や意見交換の場を設ける考えはあるか。
A:外部の専門家に協力いただきながら石けんの生態毒性のデータを取得し、学術的な視点から査読論文等にまとめ、社会に公表していく。また、取得した科学的なデータを環境省に報告し、意見交換を行いたいと思っている。
<再発防止策と今後の広報体制について>
Q:貴社は「再発防止体制を構築する」と発表しているが、具体的にどのような施策を導入する予定か。また、今後、PRTR制度や環境省への要望活動などについて情報発信する際、どのように「正確性」と「分かりやすさ」を両立させる考えか。
A:今後、以下の改善策を通じて、コンテンツ制作および発信体制の一層の強化に努めていく。
・投稿フロー、レギュレーションの見直し
・法務チェックの強化
・チェックリストの見直しと強化
Q:今回の件を踏まえ、今後のSNS活用方針や社内ガイドラインに変更はあるか。
A:活用方針に見直しはないが、社内ガイドライン(投稿フロー、レギュレーション等)の見直しを図り、シャボン玉石けんの理念や姿勢、歴史、また、無添加石けんの魅力や合成洗剤との違いなど、生活者皆にとって有意義な情報発信に努める。
Q:環境省によれば、石鹼を巡る議論は令和3年のことだという。4年を経てこの問題について要望書を提出した意図は?
A:石けんは、化審法における優先評価化学物質に指定され、令和3年(2021年)に化管法の対象物質からいったん取り下げられたが、現在も継続してその検討が行われている。環境省では、石けんを含む化学物質の審議を26年以降に行う予定としており、リスク評価のための有害性情報の収集を行っていた。
関連URL:https://www.env.go.jp/chemi/kagaku/teikyo_00001.html
:https://www.env.go.jp/chemi/kagaku/teikyo.html
我々のグループは、外部の専門家の協力のもと、石けん成分の水生生物に対する毒性データを取得し、これらの結果をまとめた論文を25年6月に発表しました。発表した論文の生態毒性データを指定様式にまとめた報告書を提出させていただくとともに、これらのデータを使用したリスク評価等の再検討を要望するため。
Q:環境省によれば、査読論文を入手したからではないかとのことだが、それは貴社によって投稿した論文か? 投稿誌名、投稿時期は?
A:我々のグループで投稿した論文であり、論文の情報は下記のとおり。
投稿誌名:PLOS One
投稿時期:2025年1月25日
以上
【田代 宏】
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(冒頭の画像はイメージ)