東大教授の高額接待強要疑惑に思う 国立大学に問われる研究倫理と公的資金の適正運用
東京大学大学院の教授らが、共同研究先の業界団体に対し、銀座の高級クラブや風俗店での接待を求めたとされる疑惑が週刊誌やテレビで相次ぎ報じられた。接待総額は約1,500万円に上り、1回あたり50万円〜100万円の費用を団体に負担させたという。
大手メディアに出演した著名な弁護士は、「国立大学の教授は公務員。贈収賄の疑いも出てくる」と説明している。公務員は職務と金品の提供に対価関係が認定されれば、収賄罪が成立する。今のところ東大側はメディアの取材に一切応じていないものの、阿部俊子文科相によれば「東京大学は現在、調査を進めている」とされている。
贈収賄罪の可能性も浮上
大学教員が企業から金品の提供を受け、その見返りとして特定の医薬品を優先的に使用したり、研究に便宜を図った場合、それが「職務行為と対価関係にある」と認定されれば収賄罪、贈った側には贈賄罪が成立する。
また、本人が直接金品を受け取らずとも、「第三者供賄罪」として、大学などの組織が金品を受け取った場合でも、職務との関係が認定されれば処罰の対象となる。かつて、三重大学医学部事件などで問題となった。
処分としては、刑事罰(懲役・罰金)に加えて、大学側からの懲戒処分(停職・免職)や、行政機関からの補助金返還命令、研究停止処分などが科される。
「公的機関における贈収賄は、公共の信頼を著しく損なうため、厳格な対応が取られる傾向にある」(法曹関係者)
今回、接待した側の(一社)日本化粧品協会(JCA)の引地功一代表理事はテレビのインタビューに答えて、自らが罰を受けることも覚悟していることをほのめかす発言を行っている。
では過去において、国立大学ではどのような不祥事が起き、どのような処分が行われたのか?――。
三重大学医学部の贈収賄事件、第三者供賄罪の適用例
三重大学医学部附属病院の元教授が2018年、製薬会社から医薬品の優先使用を依頼され、その見返りとして、大学名義の口座に200万円を寄附させた事案が発覚した。この行為は第三者供賄罪に該当するとして、元教授は起訴され、名古屋高裁により懲役2年6カ月、執行猶予4年の有罪判決が下された。
京都大学における研究不正、霊長類研究所を中心に
京都大学霊長類研究所では、2011~2014年度にかけて約11億円もの研究費が不正に支出された。特にA特別教授(当時)とB教授(当時)は、それぞれ約2億3千万円、約4億8千万円の不正に関与し、懲戒解雇処分を受けた。
論文捏造と実験の虚偽報告(2014年~19年)
京都大学のC元教授は、大麻の成分「カンナビジオール(CBD)」を用いた実験を行ったと論文で報告したが、実際には実験の実施が確認されず、論文は捏造と認定された。元教授は、懲戒解雇相当の処分を受けた。
岡山大学での不正受給、論文捏造と補助金返還
D元教授は、虚偽の研究内容に基づく論文を提出し、「次世代がん医療創生研究事業」の名目で、日本医療研究開発機構(AMED)から2,145万円の研究費を不正に受給していた。この事実を受け2023年、岡山大学は元教授を懲戒解雇とし、AMEDは大学に返還と加算金の支払いを求めた。
事態の早期解明と再発防止策を
国立大学における研究倫理と公的資金の適正運用が厳しく問われている。今回、東京大学と日本化粧品協会(JCA)との間で浮上した高額接待疑惑は、教育・研究現場の信頼性を揺るがしかねない事案である。
「臨床カンナビノイド学講座」の継続を求めるJCA側と、沈黙を続ける東京大学の教授らとの対立は長期化しており、JCAは今週にも東大側に対し損害賠償を求めて提訴する構えだ。教授らは美容家電メーカーとのコラボ動画にも登場しており、説明責任を果たさぬままでは、不要な疑念や憶測がさらに広がる恐れがある。事態の早期解明と再発防止に向けた対応が強く求められる。
【田代 宏】
※本文で示したアルファベットと本名との関連性はありません。
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