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新団体発足のサプリ受託製造業界 信頼回復に向けた大手の取り組みと戦略、三生医薬・今村社長に聞く

 サプリメント受託開発・製造大手の三生医薬㈱。健康食品業界全体に影響を与えた、機能性表示食品のサプリに生じた健康被害問題(紅麹事案)をどう乗り越え、一層の成長を図ろうとしているのか。今年1月設立のサプリ受託開発・製造事業者の業界団体、(一社)日本健康食品工業会の専務理事も務める今村朗社長(=写真)に聞いた。(取材日:2025年2月18日)

市場全体の再成長に尽力

──成長戦略を伺うに前に、まずは紅麹事案で受けた影響と、今回の問題に対する受け止めについて。

今村 健康食品の国内マーケットは約5%シュリンク(縮小)したと言われています。ただそれは市場全体の話であって、通信販売はもっと大きいだろうと見ています。当社は通販の比率が多いこともあり、大きなインパクトを受けました。3月に決算を迎えますが、国内の健康食品事業に関しては極めて厳しい数字になりそうです。

 原因は未だはっきりしていませんが、紅麹問題は食中毒だと見られています。そうだとすれば、特定の製品に生じた固有の問題です。それが健康食品全体の信用、信頼の問題に飛び火してしまったことは極めて遺憾に受け止めています。

 ただ、もともと健康食品が国民にどれだけ信頼されていたのかと考えると、それほど信頼されていたわけではなかった。そのことは、米国では利用率が7割を超えているのに対し、日本は3割程度であることからも明らかです。そう考えると、このマーケットはまだまだ伸びしろがあって、食品全体の安心・安全に国民のフォーカスが当たっている今の状態は、むしろマーケットを大きく広げていくチャンスなのではないかと考えています。

──チャンスとはどういうことでしょうか。

今村 国内の健康食品マーケットは低成長が続いています。2015年に機能性表示食品制度が始まった後も、90年代後半に起きたような爆発的な成長は見られていません。その意味では、成長の鈍化が続いてきた。その中で紅麹事案が起き、市場規模がシュリンクした。当社の国内健康食品事業もそうです。そうした中で私たちが目指すべきは、紅麹事案による影響からの復活ではありません。健康食品に対する消費者からの信頼を抜本的に高めることで、マーケット全体を「再成長」させられるのではないか。そんなふうに考えています。

──市場全体をどのように拡大させますか?

今村 再成長のための三生医薬の打ち手としては、大きく2つあると考えています。1つは、国内の健康食品マーケットそのものを拡大させることに私どもも直接力を尽くすことです。

 当社も発起人となって、日本健康食品工業会(日健工)を設立した理由とも関連するのですが、我々のようなCDMO(受託開発・製造企業)はずっと黒子で、表には出ずにやってきました。ですが、健康食品全体のバリューチェーンの中で我々が担っている範囲は非常に広い。品質管理の大半をCDMOが担っています。そうすると、健康食品の安心、安全を確保するために、あるいは健康食品に対する本当の信頼を勝ち取っていくために、我々だからこそできることがあるはずです。それを通じてマーケットの拡大に貢献していきたいと思っています。

 具体的には、これはまさに日健工設立の大きな目的となったのですが、アカデミアなどとも連携しながら、CDMOとして消費者に健康食品の安心、安全を訴求していくこと。それに、健康食品の存在意義や必要性、あるいは活用の仕方などを伝えていくこともそうですし、健康食品は健康寿命延伸のための必需品なのだということを訴え、実際にそうなっていくような状況を作っていきたいと考えています。

 去年の夏ごろ、消費者インタビューを行いました。消費者目線の健康食品の安心・安全とは実際どのようなものなのかを知りたかったからです。例えば、我々はGMPを訴求します。しかしGMPについて知っている消費者はそう多くはないはずで、そうであれば、消費者から見た健康食品の安心・安全とは何だろうかと。インタビューの対象は、健康食品を利用したことがある人、かつ、紅麹事案以降に利用をやめた人、あるいはやめようとしている人でした。

 その結果は予想どおりGMPの存在を初めて聞いたという人ばかりでしたし、我々のようなCDMOが健康食品の大半を製造していることも知りませんでした。その上で、我々は健康食品をこのように製造しているのですよ、このように品質管理しているのですよ、ということをお伝えしたり、ディスカッションさせてもらったりしたところ、「御社のような会社が作っているのであれば購入したい」と皆が口を揃えて言ってくれました。

 そういったムーブメントだったり、状況であったりを、日健工の仲間たちと共に作っていきたい。1社でやれることには限界があるからです。日健工に所属する会社が作っているものは安心・安全なのだという確信を消費者に持っていただけるようになれば、それはマーケットを広げていく一助になるのではないかと思っています。

CDMO、表に出る必要

──これまでのような黒子ではなく、もっと表に出ていく?

今村 それが時代の流れなのではないでしょうか。やはり、パーソナライズすることが大事です。私がマクドナルドにいた経験からそう思うのかもしれませんが(編集部注:今村氏は現日本マクドナルドホールディングスの財務担当執行役員を務めた後、15年8月に三生医薬専務執行役員兼CFOに就任、その後22年4月社長就任)、マクドナルドは世界中に何千店舗もあって、どの店舗も基本的には同じなのですが、成功している店舗は必ず、お客様が「マイストア」だと思えるような接客を店長などが心掛けています。つまりパーソナライズです。自分のお店だと思う人が沢山いるからお店が繁盛する。

 話が少し逸れますが、社長就任以来ずっと考えてきたことがあります。黒子として製品を作っているだけで、作ったものを摂取している消費者の顔が浮かぶこともなければ、誰がどこで売っているのかも知らない、というのはもったいないのではないか。自分たちが誰のために作っているかを知る、つまりパーソナライズされれば、もっと製品の品質や安心・安全も高まるのではないか。そのように考えてきました。CDMOが表に出ていくということは、私たちCDMOの誇りの表れです。私たちこそが健康食品の安心・安全を高めていくのだという宣言とも言えます。健康食品を私たちCDMOが作っていることを消費者が知らないだけでなく、私たちの社員も誰のために製品を作っているか知らない。この状況を変えることは、業界に大きな変化を生むのではないかと思っています。

──健康食品市場が再成長できたとしても、三生医薬が成長できなければ意味がありません。そこはどうするのですか?

今村 健康食品マーケットの拡大に向けて取り組むと同時に、当社のシェアを高めていけるようにします。表現を変えると、足元の売上と利益を向上させるということ。それが2つめの打ち手です。そのためにはお客様との関係性をより高めたり、より信頼していただけるように進化したりする必要があります。

 そのための取り組みは以前から進めています。いくつかあるのですが、例えば、お客様とのコミュニケーションの在り方を見直しました。営業だけでなく研究開発、購買、製造、品質管理などの専門職を含めたプロのチームを作り、直接お客様と向き合うようにしています。各分野のプロが揃ったコンサルティングファームのようなイメージです。そのようにしてお客様の期待を持ち上げ、さらにその期待を越えていきたい。営業職だけでお客様のニーズを汲み取ろうとしても、真のニーズを理解するのは難しいと思います。

 また、ドラッグストアなど伸びしろの大きい販売チャネルに対する営業も強化しています。

──今から10年後、三生医薬はどんな姿になっていると思いますか?

今村 私たちは「世界の人々の心と体の健康に貢献する」というミッションをうたっています。ですから10年後は、海外のマーケットで、高齢化先進国である日本のCDMOとしての知見を最大限に活かして、世界の人々の心身の健康に貢献できている姿を思い描きます。遅ればせながらではありますが、間もなく海外市場での事業展開をさらに強化する新たなステップに踏み出します。海外に関しては、フレーバーカプセルの需要がものすごく高く、売上高全体に占める海外比率が大きくなっているのですが、健康食品に関してはまだまだ小さい。そこを引き上げていくことが目標になろうと思います。

 また親会社の東和薬品との関係で言えば、医薬品のCDMO事業が大きくなっているはずです。南陵工場(三生医薬の基幹工場)の敷地にはまだ余裕があり、将来的にはそのスペースを活用した新たな展開が進んでいるでしょう。その頃、私がいるのかは分かりませんが(笑)。

──ありがとうございました。

【聞き手・文:石川太郎】

<COMPANY INFORMATION>
所在地:静岡県富士市厚原1468(本社)
TEL:0545-73-0610
URL:https://www.sunsho.co.jp/
事業内容:健康食品、医薬品、一般食品、雑貨等の企画・開発・受託製造など

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