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NMDB問題とは何だったのか?(2) 全ての始まりは国立栄研「素材情報DB」の閉鎖から

 2023年3月30日、国立健康・栄養研究所(国立栄研)のホームページに「お詫びとお知らせ」として、「Natural Medicinesデータベースに関する利用契約(End User License Agreement)の範囲を超え、引用をしておりました」と掲示されたのはあまりにも突然の出来事だった。
 今後の対応として、「素材情報データベースの一時、利用休止」、「素材情報データベース(仮サイト)の設置」がうたわれていたが、同データベースの安全性情報についてはいまだに復旧していない。有効性情報においても、「ここに示した情報は、無断転用、引用、商用目的の利用は厳禁です。著作権法に基づき、情報を適切に取り扱ってください」との注意書きが朱字で記されている。

 国立栄研の有効性・安全性情報は多い時には月に10回前後の新情報が追加されていた。例えば、「○×△」という成分情報の場合には、PubMedやNMDBの最新情報を確認し、病者の情報など掲載基準に合わないものを削除、表現を統一するなどの手続きを経て掲載されていた。そういう意味では、事業者にとってとても使い勝手の良いデータベースとして有効利用されていたのである。
 
 ところが23年9月1日、国立栄研のホームページに、“「健康食品」の安全性・有効性情報のホームページ内の「素材情報データベース」における、「ナチュラルメディシン」の内容を開示した事案に関する処分について”とする告知が掲載され、主任研究員1人を停職10日の懲戒処分としたとの説明が行われた。
 同告知には、問題が発覚したのは22年6月7日だったとし、“「ナチュラルメディシン」の内容について、エンドユーザーライセンス契約を逸脱して、契約元の許可なく要約した情報をホームページに掲載していたことが明らかになりました”とNMDBの不適切な取り扱いを行っていたことについて釈明している。ちなみに、手元の記録では22年6月の情報更新は11件、その後、同9月28日の情報を最後にデータベースの更新が途絶えている。
 筆者は処分を受けた研究員とは以前から交流があったが、「大変複雑な事情」とのみ説明を受けた。

 問題発覚後、契約元であるNMDBを運営するJahficとの間では交渉が続けられたものの、その甲斐なく結局、破談を迎えた。背景には、国立栄研の大阪への移転が一枚かんでいると思われる。移転を開始したのは23年1月だが、当然、前年から準備は進められていた。その年、すなわち22年4月に(国研)医薬基盤・健康・研究所「国立健康・栄養研究所」は中村祐輔氏を新たな理事長として迎えている。両陣営の水面下交渉は円満解決に向けて動いていたが、同理事長の知るところとなり、担当者の処分に至ったという話がある。理事長は医学分野の人で、健康食品への理解はないという。

 Jahficの理事長を務める田中平三氏はかつて、国立栄研の理事長も務めていたことがある。そもそもJahficが設立(2010年)してから10年以上も放置されていた問題がなぜ、急に懸案事項として表面化したのか、本当の理由は明らかではない。2013年にはJahfic(同文書院)の宇野社長が独占契約を結んでいたセラピューティック・リサーチセンター(TRC)がもう1つの有力なデータベースである「ナチュラル・スタンダード」を統合するなど、米国本土でのあわただしい動きもあった。それにより、東アジアでの版権について使用料を徴収しようとする力が強まったということは考えられる。そこに簡単に説明できない「複雑な事情」が新たな力として加わり、それぞれの思惑が錯綜したということは想像に難くない。

 いずれにしても、両者の交渉が決裂したことで、23年9月29日には「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」および「機能性表示食品に関する質疑応答集」を消費者庁が改正した。これにより国立栄研問題は単なるJahficとの価格交渉にとどまることなく、機能性表示食品の届出制度を巻き込む大問題と発展したのである。

 さてそこで、消費者庁がいかにもサラリと改正して事を済ませた「問21」とはどのようなものだったか、以下に改めて紹介しよう。

問21 公的機関のデータベースとはどのようなものか。
回答 ガイドラインに記載のとおり、「公的機関(独立行政法人を含む。)が公表しているデータベース(民間や研究者などが調査・作成したものを除く。)」であり、例として、内閣府食品安全委員会の食品安全総合情報システムや、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の素材情報データベースなどが挙げられる。データベースから得た情報の使用に当たっては、当該データベースの利用規約に従うものとする。

 繰り返しになるが、国立栄研の利用規約には、「ここに示した情報は、無断転用、引用、商用目的の利用は厳禁です。著作権法に基づき、情報を適切に取り扱ってください」との朱文字がこれまた「印籠語」然と掲げられているのである。

 読者諸氏はこれと似たようなケースを思い出さないだろうか? そう、厚生労働省を挟み、健康食品GMPの指定認証2機関と(一社)日本健康食品認証制度協議会(JCAHF/信川益明理事長)との間で起きた権利闘争である。ある日突然、JCAHFがGMP認証マークを統一するとの声明を発表したことで、関係者の間に動揺が走った。22年6月6日のことである。
 厚労省が両者を取り持つかたちで何度か会合が持たれたものの、両者の言い分は最後まで平行線をたどりかみ合うことはなかった。これまでの規約を変更し、マーク代や認証料金の値上げを行うと一方的に主張するJCAHFに対して、一歩も譲らない認証機関。結局のところ、紅麹サプリ事件による混乱、厚労省食品衛生基準審査課の消費者庁への移管など、年度末のごたごたに紛れ、うやむやのまま現在に至っている。

 この時も厚生労働省は先の消費者庁同様、民間の争いに国は首を突っ込まないという姿勢を崩すことなく、玉虫色の決着を追認したかたちだ。
 当時、厚労省の担当官は取材に対し、「あくまで民間の取り組み」と前置きした上で、「JCAHFを置くかたちも第三者認証の1つではあるが、単純に自分たちでGMPをやっている人以外のところに見てもらうというのが第三者認証になるので、JHNFAやJIHFSがやっている仕組み自体も第三者認証の1つではないか。報告書を出した当時は、それに関し、第三者認証を行うところもレベル感を揃えるといった理由で認証制度協議会がある方が『望ましい』というようなことは当時の背景を元に記載をしているところ」と、2008年7月当時、取りまとめられた「『健康食品』の安全性確保に関する検討会報告書」の提言を白紙撤回するかのような解釈を示した。官僚が得意とする解釈変更による問題解決である。
 この問題については別稿で解説しているので、関心のある読者はそちらをご覧いただきたい。

 さて、国立栄研のデータベースの閉鎖を機に広がったNMDB問題。「あくまで事業者間の個別の問題」と突き放す消費者庁。詳しく語ろうとしない国立栄研とJahficの両者。問題の核心が見えないままに、機能性表示食品制度の届出にたずさわる事業者は徐々にダメージを大きくしていくことになる。しかしそもそも、我が国における「NMDB」とは何なのかを説明する必要があるだろう。

(つづく)

【田代 宏】

関連記事:NMDB問題とは何だったのか?(1)
    :NMDB問題とは何だったのか?(2)
    :NMDB問題とは何だったのか?(3)
    :NMDB問題とは何だったのか?(4)

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