サプリ製造の現場から 東洋新薬、品質保証編(1)複数の第三者認証、それでも体制強化した理由
サプリメントの製造現場を見ておく必要がある。昨年、「紅麹サプリ」健康被害問題が明るみになった後、そう思った。特定の企業が起こした固有の問題だが、健康食品業界全体に大きな影響を与えた。機能性表示食品制度も大きく改正された。サプリの製造に携わる人たちがこの問題をどう受け止め、どのように再発を防ごうとしているのかも聞いてみたい──そんな取材に応じてくれたのは、販売会社の依頼を受け、製品を開発、製造する㈱東洋新薬(服部利光社長)。1月下旬、佐賀県鳥栖市にある同社のサプリ製造工場を訪れた。全4回の予定でレポートする。
サプリ生産拠点、「インテリジェンスパーク」の内部へ
博多駅からJR鹿児島本線快速(鹿児島方面)に乗り、約30分、基山駅で降りる。そこから車で約10分。右手に現れるAmazonの巨大な物流拠点を通り過ぎてすぐ、これまた巨大なガラス張りの建物が見えてくる。東洋新薬の製造拠点の1つ、「インテリジェンスパーク」(以下、IP工場)。目的地である。
IP工場の概要を解説する同社の公表資料によれば、延床面積約2万2,000平方メートル、鉄筋コンクリート造6階建て。投資額は操業初期で約75億円に上ったという。守衛所で手続きし、手渡されたセキュリティカードで建物の内部へ。大きなエントランスでしばし待つ。

IP工場は、ここから徒歩5分程度のところにある「鳥栖第1工場」(01年竣工)、「同第2工場」(05年竣工。以下、両工場合わせて鳥栖工場と表記)に続く同社として3番目の生産拠点(最終製品の製造工場として)。竣工は2019年6月で、国内のサプリ製造工場としては最新の部類に入る。広報担当者に迎え入れられ、会議室へ向かう。工場内部の取材の前に、話を聞かせてもらうことになっている。
取材に応じてくれたのは、サプリから化粧品まで、同社で製造する製品全体の品質保証(Quality Assurance)を担う品質保証本部の部長と、同本部で健康食品の品質保証を担当する品質保証課長の2人。本題に入る前に、同社における品質保証本部の立ち位置を確認しておく。
医薬品業界では一般的だといわれるが、同社の場合、品質保証部門と、製造現場における品質管理(Quality Control)部門がそれぞれ独立している。品質保証本部は、製造現場の製造管理と品質管理を含めた同社全体の品質を守る立場だ。「品質に関する全社的な体制をどう構築するかということも含めて取り組んでいます」(部長)。
社内では、「ミスゼロ品証(ミスゼロ品質保証本部)」と呼ばれているという。「品質において最もクリティカル(重大)な問題となるのがヒューマンエラー(人的なミス)です。それをゼロにしていこうという服部(代表取締役社長)の思いもあって、そう呼ばれています」(同)。工場の全従業員を対象にした教育を重ねながら、製造現場における「ミスゼロ」を目指す。そうしたことにも取り組むのが同社の品質保証本部。
取材に入る。まず、健康被害問題(以下、紅麹事案)に対する受け止めを尋ねた。サプリの品質保証に携わって約10年のキャリアを持つ課長が答える。
消費者の安全をどう守るか、実施した「総点検」
「当社の企業理念の最上位に置かれているのは、『いかなる時も、いかなるものよりも、消費者の安全とコンプライアンスを最優先する』です。安心、安全を最上位に掲げ、国際標準の考え方に沿った品質と、食品安全マネジメントの維持と強化を図りながら製造していますから、製造や品質管理の在り方に問題はないと考えているし、自信もある。
ただ、他社とはいえ、もの作りにおいて死亡者まで報告されたことに非常にショックを受けましたし、自社に関して自信は持っているけれど少し不安になりました。ですから、私たちは安全性や品質の管理が本当にちゃんとできているのかどうか、まずはそこから見直そうと。すぐに取り組みました」

同社におけるサプリの製造・品質管理体制は、複数の第三者認証・認定に裏付けられている。鳥栖工場とIP工場の両方が、日本健康・栄養食品協会が認証する健康補助食品GMP認定工場。また、米国の第三者認証機関、NSF Internationalが認定するダイエタリーサプリメントGMP(cGMP)施設としても登録されている。
こうしたGMPの認証・認定を維持するためには、第三者機関の監査を定期的に受け、必要に応じて改善していくことが求められる。また、前述のcGMPとは、「最新(current)のGMP」のことだ。サプリ大国の米国における現時点で最新のサプリGMP基準に則していることを意味する。「基準は、(米国の)FDA(食品医薬品局)によって絶えず更新されますから、私たち製造する側は、常に見直しが求められます」(同)。
また、両工場は、GMPだけでなく食品安全マネジメントシステムに関しても、世界標準のFSSC22000認証を取得している。そうすると、両工場は、食品全般に求められる衛生管理から、原料の受け入れから製造~出荷の全工程にわたり基準に従った管理が求められるGMPまで、サプリの製造・品質管理に関わる第三者認証・認定をフルスペックに近いかたちで受けていることになる。それでも、「少し不安になった」と言うのだ。続いて部長が語る。
どこかにリスク潜んでないか、増やした現地監査の機会
「消費者の安全を守ることが我々、製造する者の使命であるという強い意志を服部は持っています。そのため、(紅麹事案の)ニュースが出た(去年3月22日の)翌日、当社の品質管理にリスクがないか確認を求める指示が全社的に出されました。特に、当社は(同社で研究・開発した)独自素材(原料)を多く持っています。(紅麹事案がそうであったように)原料が最も重要なポイントになると考えられる。そういったところも含めた総点検を行いました」
原料が健康被害のきっかけになる可能性が高い。紅麹事案を受け、記者も同じような印象を抱いた。同社に話を聞きたいと思ったのは、同社は健康食品の製造だけでなく、サプリに配合される原料も、植物抽出物を中心に手がけているからだ。部長が話を続ける。
「当社の独自素材は、原料(に加工する前の植物)の調達先や一次加工工場などが海外である場合が多いのです。原料が栽培され、収穫され、それが一次加工され、二次加工されるなどしたものを我々が確保します。そうした確保までのプロセスのどこかにリスクが潜んでいないのか。そこも含めて我々としてしっかり管理しなければなりません。
ですから今は、以前に比べて現地へ行く機会を大幅に増やしています。そうです、まさに監査です。コロナの影響により海外渡航ができなくなり、書類であったり、オンライン上であったりの確認が中心となっていました。ですが、書類などだけでは見えないこともある。だから現地へ行って、品質保証を担当する私たちの目でしっかり監査し、当社が作る製品の品質管理や品質保証をさらに強化していこうというふうに変わりました」
実際、課長は取材の翌週、独自素材に関わる監査で海外へ渡航した。
(つづく)
【石川太郎】
(文中の写真:上=取材した東洋新薬IP工場の外観、下=IP工場直結の原料・資材倉庫インテリジェンスロジスティクス。いずれも同社提供)
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<COMPANY INFORMATION>
所在地:佐賀県鳥栖市弥生が丘7-28(本部・鳥栖工場)
TEL: 0942-81-3555(本部)
URL: https://www.toyoshinyaku.co.jp
事業内容:健康食品・化粧品(医薬部外品)・MG(健康・美容器具)・医薬品の受託製造