サプリにGMPが必要な理由 一部義務化で進む分断、抜け落ちがちな「有効性」の視点
今からおよそ1年半後の2026年9月、機能性表示食品と特定保健用食品(トクホ)に限られるが、これまで事業者の任意であったサプリメントのGMP(適正製造規範)が完全義務化される。GMPとは、一言でいえば、医薬品を参考にした製造・品質管理に関する基準。それがサプリに義務付けられる。
複数の死者が報告された小林製薬「紅麹サプリ」健康被害問題をきっかけに、過剰摂取しやすいなど、サプリ特有のリスクを鑑みて、以前からGMPを義務付けている諸外国を追いかける格好になった。
ただ、機能性表示食品とトクホではないサプリのGMP義務化の話は今のところ聞こえてこない。
GMP義務化、「その他のいわゆる健康食品」どうする?
消費者庁が運用している機能性表示食品の届出データベースによれば、現在販売されている機能性表示食品のうち、サプリメント形状の加工食品は2,142品目(3月4日時点)。また、トクホにサプリの区分はないが、「錠菓」と説明されている錠剤をそれとみなせば、少なくとも2023年度に販売実績のあった商品は8つとされている。
他方で、サプリは、なにも機能性表示食品とトクホにだけ存在するものではない。
食品の例外として、科学的根拠に基づき、身体の構造や機能に及ぼす有効性の表示が認められている保健機能食品には、トクホと機能性表示食品のほかに栄養機能食品がある。その中にもサプリは多い。保健機能食品ではない「その他のいわゆる健康食品」も同様で、数の上ではおそらく機能性表示食品のサプリを圧倒的に上回る。
来年9月以降、同じ「サプリ」なのに、規制されるものと、規制されないものが併存する。かつ、規制されないサプリの方が、規制されるサプリよりも多い。そうしたGMPを巡るサプリの分断、それによって生じるサプリの製造・品質管理上の不均衡と不平等を、消費者庁などの規制官庁はもとより業界は、どう考えているのだろうか。
「サプリ法」の必要性考える日弁連
「サプリメント法の必要性を考える」。全国の弁護士が加入する日本弁護士連合会(日弁連)は先月、そう題したシンポジウムを開いた。日本は現状、サプリに関する法律を持たない。だからサプリの定義もなく、何がサプリかは、国民の1人ひとりが抱くイメージに委ねられている。そうした中で、法律の必要性を考える──。
日弁連はもともと、「全てが事業者責任」の機能性表示食品制度を疑問視し、政府に対して繰り返し改善を求めてきた。だが、機能性表示食品のサプリに昨年生じた健康被害問題を受け、問題意識を、機能性表示食品から「サプリ全体」にシフト。シンポでは、消費者保護の観点から、サプリに対する統一的な法に基づく規制が必要だとする姿勢を鮮明にさせつつ、GMPを義務化する必要があると考えていることを示唆した。
サプリに関する法律を制定し、GMPを義務化することは、ある意味、当然だ。ダイエタリーサプリメント健康教育法(DSHEA)を1994年に制定した米国をはじめとする多くの国・地域がそうしている。日本国産サプリの輸出先として有望視されているASEAN(東南アジア諸国連合)も同様だ。国際貿易における調和を図るという観点からも、サプリの法制化とGMP義務化が求められる。
ただ、だとしても改めて考える必要がある。それは、医薬品ではないサプリに対してGMPを義務付ける理由だ。なぜ、GMPでなければならないのか。
GMPの目的、安全性と有効性を同時に確保
その答えは、まず、サプリには通常の食品にはないリスクがあるからだ。
サプリに使用する原材料は、本来天然に存在するものとは成分割合が異なっている抽出物だったり、化学的合成品であったりする。そのため、原材料を製造するための植物等に微量に含まれる有害物質が濃縮されている恐れがあったり、小林製薬が起こした健康被害問題がそうであったように、製造工程上で新たに有害物質が生成される可能性があったりする。その上で、錠剤やカプセル剤など、摂取した際に味や匂いなどを感知できない形状であるため、過剰摂取の恐れがある。
そういった安全性上のリスクをコントロールするために、サプリにもGMP管理が求められているのだが、それだけではない。諸外国のサプリに関する法規制とサプリ自体に造詣が深く、サプリGMP第三者認証機関の(一社)日本健康食品規格協会(JIHFS)の理事長を務める池田秀子氏は、日弁連の要請を受けて登壇した前述のシンポでこう語っている。
「安全性だけでなく、機能性を表示する食品そのものの有効性を保証することが非常に重要だ。その結果として、製品にクレーム(機能性表示)がなされる。そのことを理解して欲しい」
サプリの門外漢が、サプリのGMP義務化を語る時、その人の念頭にあるのは、安全性ばかりだろう。
だが、GMPとは本来、安全性のみならず有効性も確保するためにある。科学的根拠に基づく安全性と、有効性の両方を同時に確保するための手段がGMPであり、消費者が商品選択する際の手段になるヘルスクレーム(機能性表示)は、科学的根拠に基づく安全性と有効性、つまり「品質」が確保されているからこそ行える──サプリ全体に対する規制強化の必要性が声高に主張された同シンポの場で、池田氏はそういうことを訴えた。
分断の長期化、消費者利益を損なう恐れ
栄養機能食品も、国が定めた機能性を表示している。「その他のいわゆる健康食品」は、機能性の表示が禁じられている一方で、有効性への期待を消費者に委ねている場合がある。そのように直接的、間接的の違いはあるにせよ、機能性を消費者に伝えている以上、機能性表示食品とトクホに限らず、サプリの品質はすべからくGMPで管理されるべきなのではないか。
それはサプリに使用する原材料も同様だろう。前述のとおり、そもそもサプリのリスクは原材料に起因する。それに、安全性と有効性に関する科学的根拠がいくらあったとしても、品質が確保されていない原材料は「高品質」とは言えまい。そうした原材料を、医薬品レベルのGMP管理でサプリに加工したところで、やはり低品質な製品ができるだけに違いない。
GMP義務化は、まさに規制だ。だが、科学的な根拠に基づく、安全性だけでなく有効性も担保した、高品質なサプリを消費者に提供していくために必要な措置にもなろう。行政と業界は、GMPを巡るサプリの分断が長く続く状況を作ってはならない。
【石川太郎】
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