令和の米騒動はいつまで続くのか? 農水省発表の動向調査を読む
新米が出たにもかかわらず、コメの価格は依然として高いままだ。昨年までは5㎏2,000円台だったコメが、今も3,000円を超える価格で店頭に並んでいる。中には4,000円を超えるコメもあるほどだ。令和の米騒動はいつまで続くのか? 農林水産省に疑問をぶつけてみた。
在庫は増えても価格は上がる?
農水省は29日、2024年(令和6年)産米の契約・販売状況、民間在庫の推移、および米穀販売事業者の販売動向に関するデータを公表した。「米穀販売事業者における販売価格の動向」を見たところ、今年9月の小売事業者向けの販売価格は前年同月比で147.9%、中食・外食事業者向けも116.4%と高額だ。22年同月比では、それぞれ154.2%、121.1%となる。
ここにいう販売事業者とは、年間玄米仕入5万トン以上の大手卸のこと。大手卸が小売事業者や中食・外食事業者向けに販売している卸価格のことである。
一方、民間在庫量を見ると、6月末の115万トンから9月末には30%増の150万トンに達している。前年同月比でも16万トン上回っており、18年(平成30年)9月末の151万トンと同水準を示している。にもかかわらず、価格は上がり続けているのはなぜか?
在庫量は足りているのになぜ高騰?
農水省によれば、「天候不順、南海トラフ地震、肥料・資材価格の高騰、インバウンド需要の回復などが主な原因」という。
つまり、異常気象による物理的損害がもたらした不作の他、今年8月、日向灘を震源とする地震に対して出された南海トラフ地震注意報への消費者の過度な反応やインバウンドの回復による急激な需要に加え、円安による輸入肥料や資材価格の高騰が複合的に重なったため、今回のような一時的な価格の高騰が起きたのだと説明している。
しかし、24年9月末の在庫率は22%で、18年21%、19年23%と差がない。にもかかわらずなぜコメ不足、価格の高騰が起きたのか?
農水省の担当者は次のように話す。「コメの収穫が始まる9月というのは新米が出回り始める前の端境期に当たる。今年に限らず、端境期の中でも8月という時期が最も在庫量としては少ない時期となる。そういう意味では、9月というのは、毎年、増える時期にはあるのだが、年によって集荷が早まる年や遅れる年が出る。9月に出てくる新米の量というものには多少変動があるので、この9月の在庫という意味ではそういうところに留意して見る必要があると思う」
農水省の説明によれば、前述した理由に加えて、生産者に対する概算金が上がり、集荷競争による値上げ分が積み上がったのではないかという。つまり、つり上がった仕入れ値が売価に転嫁されたということだ。概算金とは、農協がコメを集荷する際に生産者に前払いする一時金のことだ。
なぜ備蓄米を放出しないのか?
政府は常時100万トンの備蓄米を維持している。「なぜ備蓄米を放出しないのか」という疑問はマスコミでもたびたび報じられた。
農水省は10月30日、「食料・農業・農村政策審議会食糧部会」において、米穀の需給および価格の安定に関する基本指針の変更について話し合った。その中で「備蓄運営の基本的な考え方」を以下のとおり示している。
「大凶作や連続する不作などにより、民間在庫が著しく低下するなどの米が不足する時における備蓄米の放出については、食料・農業・農村政策審議会食糧部会において、放出の必要性に関し、作柄、在庫量、市場の状況、消費動向、価格及び物価動向等について総合的な観点から議論を行い、これを踏まえて、農林水産大臣が備蓄米の放出等を決定 としています。 他方、毎年11月30日までに行う基本指針の見直し後、不作以外の災害等による緊急事態により、主食用米等の需給見通しに沿った「主食用米等供給量」の確保に支障が生じる場合であって、農林水産大臣が必要と認めるときは、その供給量の減少分を備蓄米により代替供給できることとします。 なお、備蓄運営手法については、棚上備蓄方式による備蓄運営や、経営所得安定対策の実施状況など、今後の米穀の需給をめぐる状況を踏まえつつ、毎年検証を行い、適正かつ効率的な備蓄運営に向けて、今後とも必要な見直しを行うものとします」(原文ママ)
農水省は今般のコメ騒動について、「備蓄米は大凶作などの連続した不作の時に対応するもので、今回のような買い込み需要などによる一時的な品薄に対する放出は行わない」としている。
需要は今後も減り続ける?
食料部会の資料1「米の基本指針の変更(案)のポイント」によれば、主食用米の需要量は近年から減少を加速しており、最近では毎年10万トンずつ減少し、23年7月~24年6月の需要量は705万トンを示している。 直近の在庫量は153万トン(確定値)で、24年7月~25年6月までの需要量は674万トン、同在庫量を162万トンと見込んでいる。需要はさらに今後も減り続けるものと見通しているようだ。
今回の米不足について農水省は、「あくまで一時的な買い込み需要。そういう意味では大きな不作などで物がないということではない」としている。「全体としては昨年と同じぐらいの量が出されている。それをなお上回る需要の急増というものがあって、それに追いつかない状況が一時的に起きた」と説明している。
【田代 宏】
食料・農業・農村政策審議会食糧部会 資料はこちら