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情報公開と発言の自由が問われる日 【考察】「機能性表示」「コロナワクチン」巡る2つの裁判にみる社会的意義と司法の視座

 きょう25日、注目される2つの裁判が東京で開かれる。1つは「機能性表示食品に係る機能性関与成分に関する検証事業報告書(平成27年度)」の情報公開をめぐる「行政文書不開示処分取消等請求控訴事件」。もう1つは、Meiji Seikaファルマ㈱(東京都中央区、小林大吉郎社長)が衆議院議員・原口一博氏を相手取った「損害賠償等請求事件」である。

機能性表示食品制度の「原点」を開示するか、最高裁で異例の弁論へ

 情報公開請求訴訟では、訴えられた消費者庁は1審2審を通じて開示事項の追加を求められたが、訴えた食の安全・監視市民委員会(佐野真理子・山浦康明共同代表)はそれを不服として2024年11月20日、最高裁判所に上告した。
 同委員会によれば、本日午後3時より最高裁第三小法廷において、共同代表である佐野氏が1分、その代理人が4分の弁論(意見陳述)の時間を割り当てられているという。

 最高裁における弁論開廷は珍しい。地裁や高裁が事実審であるのに対し、最高裁は事実審ではなく法律審、すなわち評価を行うところで、上告するには憲法違反などのいくつかの条件を満たす必要があるとされている。
 通常、最高裁が弁論を開くのは「原審判決を変更する可能性がある時」か「広く国民の権利義務に影響する法的解釈が必要な時」と言われている。したがって今回のケースは、この審理が「重大な憲法的・社会的問題」を含むと最高裁が判断した可能性を否定することができず、裁判所側が行政訴訟の範囲を超えた社会的に重要な問題と認識したためではないか――。

 一方、争っているのは2015年4月~9月に届出された機能性表示食品を対象とした報告書で、すでに10年を経過している。特に昨年3月に発覚した小林製薬による紅麹サプリ事件がきっかけとなり、制度はガイドラインベースの運用から法令ベースへと格上げされた。にもかかわらず、今尚、この報告書を巡って争う意味があるのか?――との指摘がある。

 それでもこの裁判には意味があるのか?
 あくまで記者の管見だが、機能性表示食品制度は導入当初から「企業の自主的届出制」に基づく制度として船出した。出発当初の届出のあり方などを含めて、その運営が国民の健康を守る観点から適切なのかどうか、特定企業への過度な配慮がなかったかどうかなど、制度の不透明さを問う声は少なくなかった。そのような意味で、制度初期の情報を開示し検証することは、「出発点」に関する歴史的な検証とも言え、これからの制度設計に一定の影響を与えるものではないか。
 制度が格上げされたとしても、「消費者の知る権利」と「行政の説明責任」は時の経過によって失われてよいものではない。むしろ10年という時間の経過が、古くて機微な企業情報の保護の必要性を薄れさせる反面、情報公開の公益性を増大させたことだろう。したがって、今後も類似の制度や事例が発生する中で、過去の情報の公開義務に関する司法判断は極めて重要な前例となる可能性がある。

 小林製薬が引き起こした健康被害のせいで、制度運用が「法令」ベースへ格上げされた。これは、ガイドラインベースの制度に限界があったことを事後的に認めたことにも等しい。その背景として、制度発足当初の不透明な運用が原因ではなかったのかを検証することは、今回の制度変更を国民に説明する上でも説得力を持つものだと思われる。
 同訴訟では、企業が消費者庁に提出した機能性表示食品の届出情報の一部が「営業秘密」として非開示とされたことの是非が問われているのである。「企業秘密の保護」と「消費者の知る権利」という、現代の行政と民主主義における核心的なバランスを問う訴訟と言うことができる。
 袴田事件、森友学園問題はいうまでもなく、世の中では情報公開への流れが加速されつつある。この最高裁の判断は、今後の情報公開制度全体に影響を及ぼすかもしれない貴重な判例となる可能性もあるのではないか。

名誉毀損か公共の利益か――「ワクチン批判」裁判の本質

 Meiji Seikaファルマが原口一博衆院議員を訴えたもう1つの裁判だが、同社は昨年(2024年)12月25日、原口氏を名誉棄損で東京地裁に提訴した。
 同社が販売するレプリコンワクチン『コスタイベ』に関する原口氏の発言により、同社や同社製品を取り扱う病院やクリニックが経済的損失を被ったとして東京地方裁判所に損害賠償を求めたのである。
 同社の主張によると、24年6月頃からSNS上において、原口氏から繰り返し、同社の信用を毀損する内容、虚偽の内容を含む投稿や動画配信などが行われたというのである。同氏に警告書を送付したところ、回答書は受領したが「当該行為を行わない旨の回答が得られなかった」ために提訴に至ったとしている。

 3月3日、第1回目の口頭弁論が東京地裁で行われた。
 その際、毀損行為に当たるのが実際に原告の行為であるのかどうか、「主体を明らかにすること」が裁判所から求められた。例えば、「新型コロナワクチン全般のリスクについて述べている」とする被告側の主張に対し、それが原告であるMeiji Seikaファルマの商品「レプリコンワクチン」に当たることを証拠として補充するよう指示されたのである。他にも、731部隊に関する発言などについて、それが原口氏が主張する「日本国」ではなく「Meiji Seikaファルマ」を指したものであることを同社が釈明するよう求められた。

 これに対して原告側は、それは被告が反論すべき事項ではないかと反論した。「すでに警告書の送付から何カ月も経っている。一旦、被告側が全体的に反論すべきと考えている」
 それに対して裁判長は、「被告の言わんとしているところはそれなりに分かる部分。結局、一般人がどういうふうに解釈するかという話。お互いが否認する解釈の対立になると思われるが、原告の解釈を請求原因事実について説明すればよい」と述べた。原告は、被告の答弁書にある否認理由を前提に証拠を補充するとした。

 ここに見るとおり、この裁判の本質は「名誉毀損」の有無にある。「原口氏において、Meiji Seikaファルマの信用・名誉を毀損する発言があったかどうか」が中心的な争点となっている。
 しかし一方で、原口氏はこれまで国会の委員会において、同社が製造・販売したmRNAワクチン(レプリコン)に関し、製薬会社と行政官庁の間における利益相反の可能性など、厚労省と同社の関係を疑問視する答弁を行ってきた。
 コロナワクチン基金の使途不明の疑い、臨床試験におけるエビデンスの不足、ワクチン接種後の死亡報告の評価のあり方など、原口氏はレプリコンワクチンが承認されて販売に至るまでの「手続き」について問題点を指摘している。また、新型コロナワクチン一般について、そのリスクを警告しているに過ぎないのだと主張している。

 裁判の争点としては、レプリコンワクチンに対する原口氏の一連の発言が公共の利益を目的とした真実相当性に基づくものか、それとも事実に反しMeiji Seikaファルマの名誉を傷つけたかどうかに焦点が絞られるのは当然のことだが、厚労省がレプリコンワクチンの副作用を早期に把握していたかどうか、それが十分に国民に公開されていたか、製薬会社側の意向が制度運用に不当に影響していないかどうかなど、視点を変えて原口氏の主張にフォーカスすると、この裁判も情報公開の観点から検証すべきテーマを少なからず内包していると言わざるを得ない。

「企業秘密」と「知る権利」の衝突、制度運営の闇に迫れるか

 もし裁判の結果、原口氏の発言が「公共の利益を目的とし、真実相当性がある」と認定されれば、Meiji Seikaファルマと厚生労働省をはじめとした政府の関係性について、さらに深い議論が巻き起こる可能性がある。しかし一方で、名誉毀損が認定されれば、政治家やメディアの発言の自由にも一定の制約が生まれかねないと言わざるを得ない。
 というのも、損害賠償等請求事件の最初の口頭弁論が開かれた3月3日、東京地裁411号法廷の半分を埋め尽くしたのは腕章をはめた報道陣。しかも開廷後の冒頭2分間は、背後でテレビ局のカメラが回っていた。にもかかわらず、翌日、この裁判について当社以外、どこも報道することはなかったのである。
 その後、原口氏がYouTubeで語っているのをたまたま視聴することがあった。原口氏が関係する某集会を取材した某メディアの記者が同氏に、「取材したとおりに報道ができなくなった」旨を伝えたというのである。
 2度目の裁判は、本日午後3時から東京地裁で非公開で行われる予定だ。

【田代 宏】

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    :コロナワクチン訴訟、第1回口頭弁論 裁判長、Meiji Seikaファルマに証拠補充を指示

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