開発から販路支援までオール九州で(後) 【九州のヘルスケア産業】九州地域バイオクラスターの取り組み
消費者の嗜好がコロナ禍で一変
九州地域バイオクラスター推進協議会(熊本県益城町、田中一成会長)が推進する「九州健康おやつプロジェクト(以下、おやつプロジェクト)」には現在、30品目ほどの認定商品がある。
おやつプロジェクトというのは、協議会が「マーチャンダイジング支援」などとともに、会員企業の商品の価値を磨き、的確なマーケットインを実現するための事業の1つ。池田透クラスターマネージャーによれば、新型コロナ感染症が拡大する中で、市場の反応が一変したという。どのように変わったのか?
「コロナ禍までは、マッチングの機会作りのためにこちらからお願いに出向かなければならなかったのが、『こういうモノを売らせてほしい』、『こういうモノを売らないか』、『こういうモノを売るための棚を作りたいが出せる商品はないか』と立場が逆転した」(池田氏)という。そしてこのようなドラッグストアやデパートなどからの逆指名を池田氏は、「時代が追い付いてきた」と表現する。
「どんな会社なのか、誰が作っているのか――消費者がホンモノの情報を取りに来ている」と指摘。協議会メンバーの地道なモノ作りの姿勢がコロナ禍で消費者の共感を集めたのだろうと分析する。口だけでうまい話をして販売を専門でやって来た人たちと、協議会のメンバーとは何かが違うと、消費者はインターネット検索を通じて嗅ぎ付けたのかもしれない。
「今まではどちらかというと、商品開発系の支援に偏っていたが、販路開拓の方でも支援していく流れになった」と池田氏。協議会では、ネット配信の方法などもセミナーを通じて支援するようになった。
海外連携事業は高価格・プレミアム重視
海外連携事業では、日仏連携事業として①ヘルシーファーミング機能性表示取得、②市場調査およびSIAL 出展、③2023 年度 JapanWeek in Dijon」―の3事業を展開している。
①は国内で実施している事業だが、生産者が着実に売上を伸ばしている。㈱緒方エッグファーム(熊本県合志市)の鶏卵関連商品『竹林かぐや姫 平飼いオメガ有精卵』(届出番号:G1177)などが機能性表示食品として消費者庁の届出データベースに公開された。これは産業技術センターとの6年に及ぶタッグが結実した成果。
このトピックをきっかけとして、「家畜の健康と美味しく人の健康に役立つ畜産物生産」をコンセプトに、生産者の新たなビジネスへの期待を生み、「和牛」、熊本地鶏「天草大王」、「銘柄豚」などが広がりを見せている。商品流通総額は、22年度現在、12事業者・約10億円/年に達した。
ロシア・ウクライナ戦争で飼料の価格高騰を招いたものの、「元々、安売を目的にした商品ではなく、飼料代もしっかり吸収できる価格帯の商品を作るというコンセプトで進めて来た」(森下氏)とし、卵の価格も上がっているため、逆に消費者は良い卵を選ぼうという動きに傾いていると、前向きに捉えている。
海外事業についても国内同様、基本はインターネットと森下氏は強調する。「ホンモノが何かを探し、自分なりに確信を得たものにしか心が動かないというのが見えてきた。情報をうまく表現した商品にこそ、比較選択という非常に大きな消費動向が働いているという。高価格・プレミアム・いいもの重視に消費のベクトルが振れている中、「安さ重視は地方の中小零細がやることではない」と断言する。
(上の写真:左から田中一成会長、池田透クラスターマネージャー、森下惟一プロジェクトマネージャー)
日本流の押し付けは禁物
このような新たな気付きは、展示会への取り組み方も変えた。「ニーズをつかむというところが大切」と森下氏。まず展示会に出る前に、現地の本当のプロの人たちに日本の商品を教えてもらおうという取り組みを導入した。輸出品目では、わが国として輸出したい米粉・お茶・調味料・味噌・醤油などを積極的に現地の調査会社に送り、消費者による味覚の検査から、シェフに味わっていただき、それに対してどういう感想を持つかというのをフィードバックしてもらった。
(国研)日本農研機構などの協力を得て、フランスで実践した。その結果、「お茶は80度のお湯を使って軟水で入れなさい」などという、今まで押し付けてきた日本の慣習を改めた。
大切なのは日本流と現地の原材料の融合の見極め。現地のシェフに対し、日本の素材だから日本流で食べてくださいと言うのは通用しない。モノを探す人たちにいかに伝えるか、これからの支援機関としてそこを強く意識しなければならないと痛感したという。
今年10月19日~22日、美食とワインの街フランスのディジョン市で開催される「japan Week(ジャパンウィーク)」の会場にブースを設け、現地の消費者・プロに向けた試食・試飲・販売会や九州の食品セミナーを行う。
推進協議会は6月28日、4年ぶりに事業説明会・交流会を開催し、これらの取り組みをアピールした。
(上の写真:事業説明会の様子)
KRP、SRによる届出支援に実績
㈱久留米リサーチ・パーク(KRP)は1987年12月、福岡県南地域産業の活性化支援拠点施設としてスタートした。機能性表示食品制度が始まる1年ほど前から、関連情報を収集し、制度支援に合わせたかたちで準備を進め、同制度に取り組む食品事業者の支援を開始した。
機能性表示食品制度は事業者の自主的な届出に基づく制度。安全性や品質重視の制度構築が求められるため、届け出を丸投げして、支援機関がそれを請け負い代行するという仕組みは避け、㈲健康栄養評価センターの柿野賢一代表と提携し、人材教育重視の支援を徹底させることにした。
単なる届出代行ではなく、1回2時間の勉強会を5回、合計10時間の受講を原則とし、小規模事業者に対する教育を通して商品開発に至るという流れでサポートした。具体的には、「相談窓口」で届出全般の相談を受けつつ、「目利き調査」で届出の可能性を調査し、「届出支援」で具体的な届出の内容について助言するという事業スキームを組んでいる。
相談窓口は1回約1時間、2回までは無料。目利き調査も無料で、調査結果報告に基づいてSRを作成すれば十分に届出可能か、あるいは自ら臨床試験の実施が必要か、助言が得られる。SRと臨床試験は外部機関に委託する。最終的に、届出支援のために必要とされる資料全体の第三者的なチェックを1件あたり5万円(税別)で実施している。
届出支援のための資料全体の第三者的なチェックに関しては、対象企業は必ず消費者庁へ届け出る相談窓口の利用が必要で、研究会(勉強会)への全回出席を前提としている。
届出支援は32社179件
21年に国の地域バイオコミュニティ認定を受け、22年には推進母体が「福岡バイオコミュニティ推進会議」に再編された。福岡県バイオコミュニティ推進会議の会員数は23年3月末日現在で744社。KRPがこれまでに支援した届出実績は23年3月末現在で県内32社179件に上る。ちなみに、福岡県内の届出総数は同516件だ。
22年3月から、「福岡県新製品・新技術創出研究開発支援事業」の後継事業として「福岡バイオ産業創出事業」にも取り組んでいる。福岡県内バイオ産業の振興・発展を図るための委託事業として、バイオテクノロジーおよび関連分野で、新製品・新技術の研究開発・事業創出を行う事業者に支援を行い、その成果の実用化・事業化を推進することを目的としている。可能性試験から実用化(製品化)まで、切れ目のない研究開発と事業化を支援する。
研究シーズの探索を支援する「可能性試験」、バイオベンチャーなどが持つシーズの育成と実用化に向けた研究開発を支援する「育成支援型」、この育成支援型には、植物や微生物が持つ生産能力を最大限に引き出し、低コスト大量生産を可能にするスマートセルを用いた「育成支援型(スマートセル枠)」もある。
バイオベンチャーなどの研究開発の成果を基にした実用化への事業展開支援には、「実用化支援型」に加え、新たに機能性食品に特化した「機能性食品枠」が設けられている。
(了)
【田代 宏】
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