解説・ブロリコ事件、免疫力向上による効能効果の根拠なし(後)
<健康食品による免疫力向上、見当たらない信頼できる科学的根拠>
健康食品業界では、ブロリコ事件で見られた免疫力向上による効能効果の訴求を求める声が多い。
政府の統合イノベーション戦略推進会議は6月11日、「バイオ戦略2019」を決定。機能性表示食品等について、今年度からの4年間で科学的知見の蓄積を進め、「免疫機能の改善などを通じた保健用途における新たな表示を実現することを目指す」方針を示した。
これを受けて、健康食品業界では表示の実現に向けて盛り上がりを見せているようだ。ただし、「バイオ戦略2019」の方針は、あくまでも十分な科学的知見が整備されることが前提条件。現時点では、健康食品・サプリメントの摂取による信頼できる科学的根拠は見当たらない。
また、健康食品業界では、NK細胞やs-IgA(分泌型免疫グロブリンA)などの指標を用いて、免疫に関する効能効果の表示を求めている。しかし、機能性表示食品の届出ガイドラインを見ると、科学的根拠に基づき説明されていない機能性表現の代表的な事例として、「限られた免疫指標のデータを用いて身体全体の免疫に関する機能があると誤解を招く表現」を挙げる。質疑応答集でも、「限られた部位、限られた指標でのデータのみでは、全体に関する機能がある旨の表現はできない」と明記している。
これらの説明を届出ガイドラインや質疑応答集に明記したのは、評価指標が機能性を十分に説明できるものかどうかを見極めることが重要なため。見極めを誤ると、消費者の誤認を招いてしまう。このため、機能性表示食品制度の信頼を維持する上で、限られた免疫指標のデータを用いて身体全体の免疫に関する機能性を標ぼうすることを禁じているわけだ。
「免疫」に関する研究は、医療・医薬分野でも開発の途上にある。健康食品・サプリメントについては、NK細胞やs-IgAといった限られた指標でのデータ(届出ガイドラインにあるように、科学的根拠に基づいて説明されたものではない)は散見されるものの、信頼できる科学的根拠が見当たらないのが現状だ。
<風邪・インフルエンザ予防、さらにはがん患者へ>
ブロリコ事件に話を戻すと、ウェブサイト「ブロリコ研究所」では、「アガリクスやフコイダンをはるかに上回る免疫効果」、「…NK細胞(ナチュラルキラー細胞)と好中球の働きを高めます」などと説明。「免疫機能」「感染症・がん」と付記された、免疫機能が低下すると感染症・がんの発症が高まることを示唆するグラフを掲載していた。
免疫に関する表示を業界が強く要望する背景の1つとして、風邪・インフルエンザ予防の効果を暗示したいという欲求がある。このことは、ヨーグルトや乳酸菌飲料の広告に、わざわざ手洗いやうがいといった感染症予防対策を用いることからも推測できるだろう。
さらには、がん患者にサプリメント・健康食品を販売したいという思惑も透けて見える。前述した「ブロリコ研究会」の表示だけでなく、フコイダンやキノコ類などの免疫力向上をうたった成分広告には、がん患者に向けて情報を発信しているのではないかと思われるものもある。
前述のとおり、「バイオ戦略2019」では、免疫機能に関する表示を検討する方針が盛り込まれた。だが、機能性表示食品や疾病リスク低減型の特定保健用食品(トクホ)で、免疫に関する訴求が実現した場合、保健機能食品制度にとどまらず、さまざまな企業で「免疫力向上の健康食品=がんに効く」という暗示的な広告宣伝が活気づくのは必至。がん患者を誤認させ、適正な医療を受ける機会を失わせる状況が強まると予想される。
今回のブロリコ事件では、手の込んだ広告手法を用いて、免疫機能を通じた疾病予防・改善効果を消費者へ伝えている様子が浮かび上がった。消費者庁には、機能性表示食品制度やトクホ制度を運用する上で、そうした現状を踏まえた慎重な舵取りが求められそうだ。
(了)