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胃の健康、新たな関与成分になるか 乳酸菌LJ88殺菌体、健常者対象RCT論文が海外学術誌に

 機能性表示食品の機能性関与成分として、「胃」の健康維持・増進を訴求できる「殺菌体」(死菌体)の乳酸菌が、BtoB(対事業者)で提供されるようになる──そんな近い将来が予感できそうな日本発の論文が先ごろ海外の学術誌に掲載された。論文は、「LJ88」と名付けられた乳酸菌について、健康な人の一時的な胃食道逆流関連症状に対する有用性を報告している。

健康な人の胃から単離された乳酸菌

 論文は、栄養関連の学術誌『Nutrients』のオンライン版に今年4月下旬、掲載された。論文タイトルは以下のとおり。

「Beneficial Effect of Heat-Killed Lactic Acid Bacterium Lactobacillus johnsonii No. 1088 on Temporal Gastroesophageal Reflux-Related Symptoms in Healthy Volunteers: A Randomized, Placebo-Controlled, Double-Blind, Parallel-Group Study」(加熱殺菌乳酸菌Lactobacillus johnsonii No.1088の健常ボランティアにおける一時的な胃食道逆流関連症状に対する有用性: 無作為プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験)。

 Lactobacillus johnsonii No.1088とは、「LJ88」の正式名称。プラセンタエキスを配合した一般用医薬品をはじめとするヘルスケア製品の製造・販売で知られるスノーデン㈱(東京都千代田区)が健康な人の胃から単離、同定した乳酸菌だ。同社は2016年から、サプリメントや食品向けの原材料として、同乳酸菌を加熱殺菌した製品の販売を手がけている。

 「胃酸に負けない乳酸菌を見つけ出すことに目的に、2007年から大学と共同で研究を始めた。胃酸に負けないというのは、いわゆる『生きて腸に届く』乳酸菌のこと。胃に存在する乳酸菌ならば胃酸にも強いはず、という仮説を立て、定説では『存在しない』とされていた胃から乳酸菌を単離する研究を進めた」。同社の小松靖彦開発本部副本部長は開発経緯をそう話す。

 そのようにして健康な人の胃から単離・同定されたのが「LJ88」。その後、同社は、同乳酸菌の機能性を確かめるための基礎研究を進め、同乳酸菌がもともと生息する胃に対して有用である可能性を見いだす。

 一方で、疑問を持った。そうした機能性は、「生菌体しか持ちえないのだろうか」(同)

 そこで、加熱殺菌した殺菌体の有用性を確かめる試験を「試しに」実施。その結果、「殺菌体でも生菌体と同じ活性が認められた」(同)。そのため、最終製品製造時の製造工程管理などのハードルが高まったり、賞味期限が早まったりする生菌体ではなく、殺菌体として製品化することを決定。前述のとおり、16年から原材料販売を開始した。現在までに、乳酸菌LJ88殺菌体の需要は海外、特に東南アジアにまで広がりを見せるようになっている。

RCT実施の背景に基礎研究論文

 スノーデンは、乳酸菌LJ88殺菌体の機能性について、Nutriens誌オンライン版に掲載された今回の論文を発表するまでに、細胞や動物を使った機能性研究の結果を論文発表していた。

 代表的な論文としては、胃酸の分泌に関与するガストリン陽性細胞数の低下作用を報告する動物試験の結果(Appl Environ Microbiol. 77, 6964-6971, 2011)や、ヘリコバクターピロリ菌に対する有用性が示唆されたことを伝える動物試験や細胞試験の結果(FEMS Microbiol Lett 364(11), fnx102, 2017)などがある。

 また、「善玉菌」のビフィズス菌を増やす働きのあることも動物試験で確認し、16年に論文発表した(Prebiotics and Probiotics in Human Nutrition and Health, Rao V and Rao LG eds., InTech, Rijeka, Croatia, p.363-381, 2016)。

 パイロット臨床試験も実施していた。一時的な胃食道逆流(GER)関連症状を緩和する可能性が示唆された旨を論文にまとめて16年に発表(Am J Food Sci Health 2, 176-185, 2016)。そういった基礎からパイロット臨床試験までの研究結果を受けて、殺菌体LJ88乳酸菌として初のRCT(ランダム化比較試験)が、22年から23年にかけて日本国内で行われることになった。当然、「機能性表示食品への対応も視野」(スノーデン)に入れていた。

スノーデン、機能性表示実現の可能性探る

 健康な成人の一時的なGER関連症状を緩和させるかどうかを検証するために行われた殺菌体LJ88乳酸菌として初のRCTは、被験者として参加した120人の健康な成人を60人ずつの2群に分けるかたちで実施。乳酸菌LJ88殺菌体を1日あたり10億個、またはプラセボを6週間摂取してもらった。有用性の判定については、GERDの診断にも用いられるFSSG問診票を使い、一時的なGER関連症状がプラセボ摂取群に対して有意差をもって緩和するかどうか調べた。

 また、血液生化学検査や血液細胞検査などを行うことで安全性も検証した。殺菌体LJ88乳酸菌として初のRCTの結果について、同社の小松開発本部副本部長は次のように解説する。

 「安全性に関しては、懸念を示唆する変化は両群とも認められなかった。有効性に関しては、FSSG問診票のうち『胸焼け』のスコアについて有意な緩和が認められた。だが、有意差が認められることを期待していたFSSG総合計スコアに関しては、摂取期間6週間の変化においては残念ながら、両群間に有意差は認められなかった。健常者を対象に有意差を出すことの難しさを痛感している。

 ただ、『胸焼け』に関しては有意差が認められた。また、同時に調べたQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に関する指標でも、身体的側面のQOL(physical aspects of quality of life)に関して有意差が認められている。結論としては、1日あたり10億個の殺菌体LJ88乳酸菌を6週間摂取することで、一時的な胃の不快感をやわらげる機能が期待できると考えて良いと思う」

 消費者庁が運用する届出データベースを検索すると、「胃」に対する働きを訴求できる機能性表示食品の機能性関与成分は、今のところ2つしか見当たらない。「B. ビフィダム Y株(B. ビフィダム YIT 10347)」と「Lactobacillus gasseri OLL2716(LG21乳酸菌)」のいずれも生きた乳酸菌だ。

 届け出られたヘルスクレームを見ると、「食後の胃の負担をやわらげる機能があります」(YIT 10347)、「一時的な胃の負担をやわらげる機能が報告されています」(LG21乳酸菌)などとある。

 いずれも、最終製品を販売する食品大手企業が届け出たもので、BtoBでの原材料販売は行われていない。そうした中で、原材料販売を軸に展開される乳酸菌LJ88殺菌体は、両乳酸菌の後に続くことができるかどうか。スノーデンは今、機能性関与成分としての届出可能性を慎重に検証している。

【石川太郎】

(文中の画像:乳酸菌LJ88殺菌体として初となるRCT結果の一部。Heartburnは「胸焼け」のこと。スノーデンの報道発表資料から)

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