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第3回疾病リスク低減表示トクホ検討会(後)~結論は次回以降へ持ち越し

方向性の合意へ向けた討議に終始
 今回が最後となる検討会では、今後の方向性の取りまとめに入った。事前に事務局が示した「特定保健用食品制度(疾病リスク低減表示)に関する今後の運用の方向性(案)」をもとに、佐々木敏座長が各委員の合意を取り付ける作業に終始した。
「米国、カナダ及び EU で認められている類型別疾病リスク低減表示」について、これまで出された意見について、順次、検討した。

類型1~3を中心に議論
 議論された主なテーマは掲表の上から順に、類型1「摂取量を減らすことによる表示」、類型2「現行のトクホ(疾病リスク低減表示)制度に沿った表示」、類型3-1「既許可のトクホに類似の表示(疾病リスクを低減する旨の直接的な表示)」、類型3-2「既許可のトクホに類似の表示(疾病の代替指標の取扱い)」の3点。

 表示の内容は、類型1.「ナトリウムと高血圧」、「飽和脂肪、コレステロールと冠状動脈性心疾患」、「食事性脂肪とがん」。
類型2.「カルシウム、ビタミンDと骨粗しょう症」、「ビタミンDと転倒」。
類型3-1.「非う蝕性糖質甘味料と虫歯」、「フッ素添加水と虫歯」。
類型3-2.「特定の食品由来の水溶性食物繊維と冠状動脈性心疾患」、「大豆たんぱく質と冠静脈性心疾患」、「植物ステロールエステル、スタノールエステルと冠状動脈性心疾患」。
類型4.「食物繊維を含む穀物製品、果物、野菜とがん」、「果物、野菜とがん」、「果物、野菜と冠状動脈性心疾患」。ただし、類型4.については、検討の段階で多くの委員から「トクホになじまない」との意見が述べられていたため、検討の対象から外れた。

表面的な議論がほとんど
 検討会では、「方向性(案)」の修辞をめぐる文言の訂正に大部分の時間を費した。例えば、「特定保健用食品」を「トクホ」と略称する、「ある等の意見」を「あるとの意見等」に、「行政の関与」を「行政との連携」に直す、また、句点を省くとか、ある文言を削除するとかなどである。
これらが全く意味のない作業とは言わないまでも、あくまでレトリック上の話が中心。日本語は読み手の読み方次第でいく通りかの解釈が成り立つため、生産的な議論とはとても思われず、報告書の体裁を整えるための作文教室という色合いが濃厚。少なくとも、公開討論の場で行う作業ではなかったのではないか。実際、トクホの「使用方法」か「利用方法」か、それとも「摂取方法」のどれが適切かという意見が出されたときなど、ある委員からは「事務局で確認して適切な表現に変えればよい」と、閉会後の修正を求める意見が出されたほど。

検討会「時間切れ?」「ゴールありき?」
 そもそも、1つの表示の必要性について議論するにしても、科学的データに基づいた議論を行うための準備も、その時間も不足し、委員同士のコンセンサスも得られておらず、閉会に向けて駆け足でゴールを目指した最終回との印象だった。それもそのはず、佐々木座長は今回、検討会の目的に、会合内で少なくとも3度言及した。
 その1つは、磯委員が海外におけるビタミンDのエビデンスの中身に言及したとき、座長は「この検討会はエビデンスを提示してその内容を吟味するような目的ではないし、(時間もなく、これまでの検討会で)そこまでできなかった」(座長)と述べた。
 2つ目は、森田委員が寺本委員の発言の意図を確認しようとしたとき、「ここではあくまで文言に対してどう修文するか、時間の関係で留めたいと考える。しかしながら、今までの委員全体の総体としての考えとして含まれていない表現があれば埋めるべきというのが今日の目的」(座長)と森田委員の発言を制止した。
 さらに、矢島委員が虫歯をめぐるヘルスクレームについて、企業のインセンティブが湧かないといったような発言をしたのに対し、磯委員が詳しい説明を求めたときも、「これをどう使うかというのは次の段階ということで、ここでは方向性ということに留める」(座長)と話を打ち切った。
 このように、今回は最初から議論ではなく、方向性(案)の調整の場として準備された検討会だったことが明らか。だとすれば、事務局は最初からそのあたりを関係者にも明示しておいた方がよかったのではないか。元々この検討会のゴールがそこに定められていたのだとすればなおさらのことである。

JHNFA矢島委員「トクホ制度全般の検討を」
 消費者庁はこれから、「類型3-1.既許可のトクホに類似の表示(疾病リスクを低減する旨の直接的な表示)」と「許可文言の柔軟性」について調査を行い、検討を重ねることは明言しているが、どういうかたちで検討するかは、今のところ未定としている。
 これまでに再三、企業側への理解を求め続けてきた矢島委員は最後に、方向性案について「『このような意見も踏まえ、今後、必要な情報を収集しつつ、トクホ制度全般について検討されることを期待する』と結ばれているのは、ありがとうございます。協会も情報収集などに協力させてもらうので次の検討をお願いしたい」と、検討会を高く評価するコメントを残した。トクホの申請に深い関りを持つ(公財)日本健康・栄養食品協会(JHNFA)の理事長としての立場からすれば、どういう形式にしろ、次のステップに希望を残したことに、まずは胸をなで下ろしたのかもしれない。
 また、1回目の検討会から食事摂取基準に掲載されている成分の検証を訴え続けてきた森田委員も、2つの検討課題に限定せず、トクホ制度全般についての踏み込んだ検討を求めた。
 実際、当初の議題に対して早急な検討課題以外にも、結論を得ないままに宙ぶらりんになっている議題があるし、佐々木座長が繰り返したように、わずか3回の検討会ではとてもじゃないが疾病リスク低減表示の本質的な議論に踏み込むことができず、消化不良のまま幕を閉じてしまった感が否めない。国の検討会なので、成功とか失敗とかの評価は当てはまらないが、少なくともここまで来て、新たな課題が見えてきたという思いが国の方にもあるのではないか。

森田委員「トクホ全般の指標の再検討を」
 森田委員は今回の検討会への提出資料のなかで、「カルシウム、ビタミンDの摂取と骨粗しょう症の疾病リスクの低減の関係」について、レビューや検討は行っていないとし、次に用意される検討会があるとすれば「最新の知見について専門家による説明が必要」と述べている。また許可文言の柔軟性についても、「科学的証拠の確からしさ、確度のレベルによって文言をどう表現するのが適切か、どのような表現であれば消費者を誤認させない形で活用につなげることができるかといった観点も含めて、トクホ制度全般のモノサシとなる指標の検討を進めてください」との要望を出している。この点については、矢島委員も同意した。
 少なくとも、機能性表示食品制度が急速な広がりを見せるなか、疾病リスク低減表示以外のトクホの存在意義は薄れ始めている。国の許可制度として唯一、疾病リスクを表示できる食品制度の拡充がトクホ制度の将来を左右する試金石となることは間違いない。

 森田委員からの提言にもあるように、ビタミンDとカルシウムをめぐる議論は1回目の検討会から多くの時間を費やしてきた。今回も、唯一、作文教室を免れた検討会らしい議論が行われた議題だったかと思う。ただし結論が得られたわけではないため、これについては明日、ウェルネスニュースグループ会員向けのメルマガで議論の中身を紹介する。

(了)
【田代 宏】

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