第2回疾病リスク低減表示トクホ検討会(後)~審査は中立な第三者機関で
議論は、論点3.「表示の内容等の基準が定められていない疾病リスク低減表示の申請」に移った。葉酸とカルシウム以外の成分についての申請をどうするかという議論である。
佐々木座長は冒頭、「トクホではメタアナリシスの論文を求めているが、海外では必須ではない。メタアナリシス以外の論文を求める場合、どういう担保が必要か」と問いかけた。
疾病リスク低減表示トクホについては、表示の内容などの基準が定められていない成分に関するトクホの科学的根拠については原則、「関与成分の有効性を検証した論文からなるメタアナリシスの論文を添付する」と消費者庁が通知している。
矢島委員は、「ガイダンスがないというのが、企業からどうすればいいのか、どう申請すればいいのか、(企業は)情報が乏しいのが困ると言っている。欧米では詳細なガイダンスがあると聞いているので、こういうのは良い悪いも含めて、誤解を招かないガイダンスを作ってほしい。こちらでも協力させていただくので、申請ガイダンスを作って公表し、分かりやすくしてほしい。ご検討を宜しくお願いしたい」と、(公財)日本健康・栄養食品としての協力を呼びかけると共に、業界側への理解を強く求めた。
佐々木座長は、「申請する側が、ここに注意して気を付けて商品を作るということになれば消費者の利益も図ることができると思う」と一定の理解を示した。
寺本委員は、「申請しないとエビデンスの良しあしを見てもらえない。エビデンスがだめだと言われると、企業にはリスクが生じる。申請前にエビデンスを確認してもらう仕組みがあると助かる。また、審査するのが誰かという点も大事」とし、定期的にしっかりと、新しいものが追加されていくような仕組み作りが必要で、カチッと固まってなくともいいのではないかと、企業側の悩みを代弁した。
佐々木座長は、「実際を踏まえた意見」とする一方、関与成分にエビデンスがあるかどうかを先に検証し、認めたものについて商品開発するという2段構えで考えるとすれば、エビデンスの示し方としては、現行制度ではメタアナリシスの論文を添付するようになっていると補足した。
寺本委員は、「どの程度のメタアナリシスでいいかが企業側では判断できない。システマティック・レビュー(SR)を企業側がやるとバイアスが出るため、第三者と積み上げていくようなものを作らなければならない。(大手のように)企業側だけでできるレベルを持っていればいいが」それができない中小企業も少なくないとし、「審査する側もそれでいいかどうかを判断する必要があるため、公的機関と組んでやる方がいい」と、企業単独ではなく、公的機関との共同作業が好ましいのではないかと述べた。
それに対して佐々木座長は、「審査する側とされる側が同等となる問題が起こる」と疑問を呈した。千葉委員も、「エビデンスレベルを審査する機関は重要。審査する側が企業と組んでやるというのはやめて、中立な第三者機関で審査する方がいい。SRもメーカーによってピンキリ」と寺本委員の提案に異議を唱えた。
作業に関する人事体制などについて質問した佐々木座長に対して、千葉委員は、「関与成分のレビューについて検討会に参加していた先生方で作ればいい。先生方も忙しいだろうから、消費者庁マターになると思うが、その調整がどこまでできるかにかかっていると思う」と答えた。
磯委員もこの意見に賛成し、数年おきにレビューして(国研)医薬基盤・健康・栄養研究所などの公的機関で公開するシステムが必要だとした。国民が摂取する関与成分のエビデンスが一般に公表されることで国民にもプラスだし、関係企業もエビデンスについて知ることができるために産業振興にもプラスに働くという考えだ。
議論は、申請の際の科学的根拠の示し方よりも、誰がどこで作り、どこが審査するか、どういう機関と連携するかという議論に向かったため、佐々木座長は再び論点を引き戻し、メタアナリシスによるエビデンスの担保でいいのかどうかを確認した。
結果、ある有効性について、関与成分が引き起こす場合と中間物質が引き起こす場合との2通りが考えられるが、そのエビデンスについては今のところ、消費者庁の通知に示されている範囲で運用できるのではないかという結論に至った。
論点4.「先行申請者の権利保護」について、千葉委員が矢島委員の意見を求めた。矢島委員は、「これまでの磯先生や佐々木先生の議論を踏まえると、企業は医薬品の方に持っていきたくなる」と、議論のなかでは疾病リスク低減表示トクホの敷居が高くなっている点を指摘。ガイドラインや仕組みを整備してほしいと、企業側への理解を求めた。
佐々木座長は、「権利保護の前に、疾病リスク低減表示トクホをどう定義し、活用するかということをもっと議論し、明確なガイドラインを作る必要があるというご意見だろう」とそれなりの理解を示し、「これは森田委員の提案にも通じる」とした。
寺本委員は、「権利保護については、エビデンスとして論文投稿した時点で投稿者の権利がなくなるので、それをさせないようにすれば権利は守ることができる。査読論文が必要でないということになれば保護できるのではないか」と述べた。
対して佐々木座長は、「先行者の保護は大事だが、消費者は、なぜそれが許可されたのかということ(経緯)を知る権利がある。開発者の権利を守りながら、制度をどう運用するかというのは、1かゼロかではなく程度の問題」とした。
森田委員は、「消費者の立場から言うと、(科学的根拠となる)論文に行き当たらなかったりする。(情報開示請求などで)求めても黒塗りだったりする。実態として、疾病リスク低減表示として認められないのではないか」と慎重な対応を求めた。竹内委員は、「消費者への情報公開も、先行申請者の権利保護も必要」とした。
議論の最後に矢島委員は、「今までの先生方の議論について、これで企業側から製品が出てくるというふうにはならない」と指摘。もっといい仕組みを考えてもらいたいと苦言を述べた。「我々も一緒に汗をかくから」と再三、繰り返した。
次回検討会は3月中旬を予定。消費者庁が提出する報告書案に沿って議論し、年度内に報告書をまとめる方針だが、これまでのわずかな議論のなかでどのような方向性が示されるのか、注目したい。
(了)
【田代 宏】
(前)/(中)