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神代から令和まで健康食品のルーツを探る~歴史から見えてくる課題は何か?(19)

(公財)食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授 唐木英明唐木英明

<食品の味覚機能>
 食品の最大の機能として誰もが知っているのは「おいしさ」であり、調理技術の発展は世界各地で特徴がある料理を生んだ。味には「甘味」、「酸味」、「塩味」、「苦味」の4つがあることは古くから知られていたが、1908年に池田菊苗東大教授は昆布のうま味の原因がL-グルタミン酸ナトリウムであることを発見し、「うま味」が第5の味であることが世界的に認められ、UMAMIという日本語が世界で通用するようになった。池田教授はこれを商品として発売し、「味の素」という名前で世界に広まっている。

<食品の栄養機能>
もう1つの機能が体を動かすエネルギー供給であることも古くから直感的に理解されていたが、近代になって食品の要素がタンパク質、炭水化物、脂肪、微量元素に分類され、栄養学という形で学問体系化された。

<食品の身体調節機能>
 この2つに加えて、食薬同源の言葉が示すように、食品には心身の病気の予防と治療という機能があると信じられていた。そして最初に証明された食品の機能が脚気の予防と治療であり、それを担うのが麦であることを1884年に高木兼寛医師が発見し、その原因物質がビタミンB1であることを1911年に鈴木梅太郎東大教授が発見した話は紹介した。
 しかし、ビタミンとミネラル以外の食品の疾病予防効果の研究は進まなかったが、多くの食品にそのような機能があると信じられて、スッポンやマムシ、ニンニクなど数多くの「いわゆる健康食品」が巷に氾濫していた。明治政府はそれらを厳しく取り締まったが撲滅には至らず、その流れで71年に厚生省46通知が出された。

 この状況を大きく変えたのが、84年に始まった藤巻正生東大教授を代表とする文部省大型研究「食品機能の系統的解析と展開」だった。この研究が世界で初めての食品の機能に関する組織的な研究だった。その結果、食品には栄養以外の生態調節機能があること、すなわち、そのような機能を持つ微量の物質が含まれていることが明らかにされた。そして食品機能学が誕生し、栄養学と協力して生活習慣病の科学的な対策が行われるようになった。

<トクホ登場>
 食品機能の研究の応用面として出てきたのが「機能性食品」である。研究の発展を受けて厚生省は91年に「特定保健用食品(トクホ)」制度を創設し、その第1号として低アレルゲン米が認められた。トクホについては、本当に効能があるなら医薬品にすればいい、医薬品との相互作用が懸念される、健康食品に依存して正当な医療の機会を失わせる恐れがあるなどの反対があったが、妥協点は安全性の確保と病人の治療目的の使用を制限することであった。厚生省がトクホを認めた理由は、トクホの使用により多くの国民の健康増進を図ることができれば、際限がない増加が問題になっている医療費を少しでも削減できるのではないかという期待であった。その裏側にある理由は、多くの消費者がトクホを選ぶことによっていわゆる健康食品を排除できるのではないかという期待であった。

(つづく)

<プロフィール>
1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを歴任。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。

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