確約手続、「法執行力弱まらないか」 【第5回景表法検討会】消費者団体からヒアリング
景品表示法の一部改正も視野に3月から議論している消費者庁の「景品表示法検討会」(座長:中川丈久・神戸大学大学院法学研究科教授)は1日、5回目の会合をオンラインで開催し、消費者団体からヒアリングを行った。前回会合で取りまとめた「今後の検討の方向性(案)」を踏まえて、景表法への確約手続の導入、返金措置の促進、違反行為に対する抑止力の強化──などについて意見を聞いた。独占禁止法に導入されている確約手続を巡っては、措置命令などの執行力の弱体化を懸念する意見が挙がった。
関係団体などからの聞き取りがスタート
次回(9月15日)、次々回(10月)も関係団体などからヒアリングを行い、議論の整理などを経て、年内を目途に報告書を取りまとめる予定だ。
ヒアリングで関係団体などから聞き取りを行う事項は、前回までに取りまとめた「今後の検討の方向性(案)」で、「速やかに検討を進め、年内を目途に取りまとめを行う論点」として挙げられた、「確約手続きの導入(事業者の自主的な取組の推進)」、「電子マネー等の活用など返金措置の促進」、「課徴金の割増算定率の適用など違反行為に対する抑止力の許可」、「海外所在の事業者への執行など国際化への対応」、「法執行における他制度との連携」、「適格消費者団体との連携」、「都道府県との連携」──の8項目。
これらに加え、「中長期的な検討課題」とされた論点についてもヒアリングを行う。同論点は「課徴金の対象拡大」、「刑事罰の活用」、「デジタル表示の保存義務」、「不実証広告の民事訴訟における立証責任」、「供給要件(自己の供給する商品または役務)」──など。
この日、ヒアリングを行ったのは、消費者団体の全国的連絡組織(一社)全国消費者団体連絡会(全国消団連)と、特定適格消費者団体の(特非)消費者支援機構関西(ケーシーズ)の2団体。
全国消団連、デジタル表示の保存義務化求める
全国消団連では、独禁法に以前から導入されている、違反の疑いに対して事業者が自発的に改善を確約することを条件に、それ以上の調査も違反認定も行わない司法取引の一種「確約手続」の導入について、より多くの不当表示が迅速に是正される可能性があるとして一定の効果を認める一方で、「これまで行われてきた措置命令や課徴金納付命令などの執行力が弱まることを懸念する」と意見した。法執行やその公表を通じて社会的に周知することで、「さらなる不当表示の防止や牽制をしていくことも重要」だとする考え方も示し、景表法を一部改正して確約手続を導入するのだとしても、措置命令など執行体制の強化を求めた。
全国消団連はまた、中長期的な検討課題とされた論点「デジタル表示の保存義務」について速やかな検討を求めた。ターゲッティング広告など、デジタル広告・表示の保存や改ざん防止といった措置を事業者に義務付けるなどの対応が必要だと主張。デジタル表示は、一時的に表示されるものも多く、紙媒体の広告のように実体として残らないため「対応が困難になっている」とした。
一方、デジタル表示の保存などの義務化を求める意見を委員の一部が疑問視。「優良な事業者にまで大きな負担を掛けることになるのではないか。例えば、悪質な事業者に対してのみ義務化などを求める方向性は考えられないか」(大屋雄裕・慶應義塾大学法学部教授)とし、一括的な規制は避けるべきだと意見した。これに対して全国消団連では、「デジタルだから負担は大きくないのではないか」と返した。
適格消費者団体、経済的支援を求める
また、消団連に続いてヒアリングが行われたケーシーズの理事・被害回復委員長で、弁護士の五條操氏は、返金措置を促進させる必要性を強く主張。返金措置促進のためには「消費者利益の回復を代表して事業者と交渉などを行う団体」である特定適格消費者団体や適格消費者団体の存在が必要不可欠だとも主張しつつ、「現状では法制度上の担保がまったく存在しない」ため十分な活動が出来ないと強く訴えた。
五條氏は、措置命令などの行政処分を行う消費者庁との「情報共有の不十分さ」を指摘。機微に触れる情報も含めた共有を求めた。
また、消費者被害回復のための返金請求活動を行っても「ほとんどの場合、報酬は発生しない」として、経済的な支援の必要性を訴えた。「消費者利益の回復のための支援活動として、直接、あるいは支援法人を介した経済的支援が必要」だと強調。財源としては、「例えば課徴金による収入が考えられる」と意見した。
次回、第6回会合では、業界団体の(公社)日本通信販売協会などから意見を聞くことにしている。
【石川太郎】
(冒頭の画像:オンライン開催された第5回景表法検討会)
関連資料:ヒアリングで消費者団体が提出した資料
〇全国消費者団体連絡会
〇消費者支援機構関西
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