消費者・企業双方のための制度に 【機能性表示食品特集】浮き彫りになった問題を整理すべき
施行9年目を迎えた機能性表示食品制度。届出件数が7,000件を超え、市場の拡大が続く。一方で、消費者への認知度向上、エビデンスの質、安全性の確保など抱える問題も多い。制度発足時から、研究レビューの作成、ヒト臨床試験など多くの食品の機能性研究・開発に関わる関西福祉科学大学、健康福祉学部、福祉栄養学科の竹田竜嗣准教授に、制度の課題と今後の展望などを聞いた。
民間委託を進めるべき
届出資料のチェック業務などの民間委託を、そろそろ真剣に進めるべきだ。実際、やりたいと手を挙げる事業者はいるものの、現状の2団体から広がらない。今のままだと、どうしても公平性に欠けるというのは否めない。
ではなぜ増えないのだろうか。過去に実績が無いため認められないというのが表向きの理由のようだが、あまり枠を広げたくないというのが消費者庁の本音ではないだろうか。広げることで委託事業者が増えれば、届出を行う企業にとっては選択肢が増え、よりスムーズな届出が期待できる。その一方で、消費者庁としては、委託業者間の能力差や考え方の違いをコントロールできないまま届出のチェックが行われると、消費者庁で再度細部まで確認が必要で届出までの時間短縮ができずに収拾がつかなくなる恐れがあることを懸念しているのだろう。委託する際には能力試験や体制に関する要件などを定め、完全に制度化してしまえばよいのだが、指定を受けたい事業者が多くなると消費者庁の監督も必要になる。公平性の問題もあり今一つ踏み切れないのだろう。
ヘルスクレームのさらなる拡充を
現状届出が可能なヘルスクレームに関して、例えば、排尿は良くて更年期はだめといった具合に、その基準が曖昧だという点を懸念している。ガイドラインには認められるヘルスクレームがある程度盛り込まれているものの、ガイドラインで示されている禁止事項も含めて、今、見直すべきところではないか。新たなヘルスクレームとしては、花粉による目や鼻の不快感が可能になってきたこともあり、OTCなど一般の大衆薬で解決できる範囲に入るヘルスクレームはさらに拡大しても良いと考える。特に、更年期に伴うさまざまな体調変化に対する訴求については、相談が多数寄せられている。症状緩和であれば、機能性表示食品の範囲になると考えられる。フェムケアとしても関心は高く、拡大しても良いのではないかと考える。
認知度向上は進むのか
消費者の制度に対する満足度と、企業の制度に対する思いや商品コンセプトが乖離しているように感じる。消費者が届出されている資料を見ても理解できないことも多く、結局、広告や機能性表示文言にインパクトのある商品、知名度のあるブランドで選んでいるに過ぎない。そもそも、表示内容を全て理解できている訳ではない。機能性表示食品制度の消費者認知度は少しずつ向上しているものの、まだ十分とは言えない。その原因の1つが、この表示内容やデータベースにおける一般消費者向けの説明(様式Ⅰ)がまだまだ分かりづらいこともあるのではないだろうか。
消費者への認知度や制度への理解を深めるためにはどうするべきか。食品である以上、疾病予防や治療につながる効果を訴求することはできない。制度の前提から、現状のような回りくどい表示文言になってしまうことは仕方がないが、行政側も各企業任せにするのではなく、各種事業者団体、消費者団体を巻き込んで認知度や制度への理解を深める啓蒙活動がもっと必要だ。
安全性・科学的根拠の質確保が急務
機能性表示食品の安全性確保の仕組みについては、市販後調査のような仕組みが必要だと考える。現状の販売状況の仕組みだけでは、どれぐらい販売されているのか、そもそも販売状況が正しく更新されているのか、完全に消費者庁は把握できていないように感じる。少なくとも販売している商品は、健康被害の有無や販売数も含めた販売状況を定期的に報告させるような仕組みを作るべきではないだろうか。
表示しようとする機能性の科学的な根拠の質は、残念ながら現状では十分ではないと言わざるを得ない。まずは、臨床試験の被験者数が少なすぎる届出があることも問題。海外誌に投稿した際に査読でパイロット試験であり結果の断定は認められないと指摘されるおおよそ1群30人以下による試験は、科学的根拠としては不十分と考えられる。特定保健用食品(トクホ)の有効性試験の実施人数に近い50人以上は欲しいところだ。また、最終商品による届出は別として、1報のSRによる届出は、Totality of Evidenceの考え方に則すと、科学的根拠としては弱く、将来的には無くしていくべきだと考える。
届出資料の確認を行う消費者庁に対しては、差し戻しの理由が曖昧だということが、制度発足当初から指摘されてきた。企業責任による届出のため断定的な理由による差し戻しは難しいかとは思うが、「確認してください」など曖昧な回答ではなく、駄目なものは駄目とはっきり指摘しても良いと思う。マンパワーが足りないのであれば様式Ⅴのチェックだけ有識者などに委ねるなど方法もあると思われる。届出を行う企業に対しては、企業間で、科学的根拠の質にバラつきが無いようエビデンスをしっかり積み上げてもらいたいと思う。定期的な情報の更新にも取り組んでもらいたい。
機能性表示食品制度は、業界にとっても行政にとってもとても良い制度であるだけに、難題で解決しづらい問題もいったん整理するなど、さらに良い制度になるよう運用の改善や見直しをお願いしたい。
竹田竜嗣氏プロフィール
2000年近畿大学農学部農芸化学科卒。
2005年近畿大学大学院農学研究科応用生命化学専攻、博士後期課程満期退学。
2005年博士(農学)取得。近畿大学農学部研究員、化粧品評価会社勤務、食品CRO勤務を経て、2016年から関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科講師、2023年4月から同学科准教授。専門は、農芸化学分野を中心に分析化学、食品科学、生物統計学。