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機能性表示食品制度を検証する(後) 「広告表示」「事後チェック」「生鮮食品」識者はこう見た!

機能性表示食品制度が施行されて8年目。発足前から「健康食品の健全な市場流通を考える会」などで勉強を重ねて来た㈱グローバルニュートリショングループの武田猛社長と、㈲健康栄養評価センターの柿野賢一社長に、機能性表示食品が業界にもたらした変化について聞いた。(敬称略)

消費者庁、認知機能広告を一斉監視

――消費者庁は3月31日、認知機能領域の機能性表示食品のインターネット広告が、景品表示法や健康増進法の規定(優良誤認表示、食品の虚偽・誇大表示)に違反する恐れがあるとして、100社を超える事業者に表示を改めるように指導しました。本誌の記者が『Wellness Monthly Report49号』の特集で、消費者庁表示対策課ヘルスケア表示指導室の田中誠室長にインタビューした際、「事後チェック指針に基づく届出を行えばこういうことにはならない」という趣旨の発言をされています。

武田 おっしゃるとおりだと思います。これも確か、田中室長が言われていたことだと思うのですが、この制度はスピード違反と一緒です。他の人が100キロのスピードを出していて、自分も100キロ出したら捕まらないかというと、そんなことないですよね。昨日100キロで走って捕まらなかったけれども、今日100キロ出したら捕まったみたいな話で、ルールはちゃんと守らなければいつか罰せられるということだと思います。
 事後チェック指針もそうですが、これを作ってくださいと言ったのは業界側です。規制改革推進会議を通して言ってもらったと思うのですが、欲が出たのだと思います。せっかく機能性表示食品として届出したにもかかわらず、思うような広告が出せないとか、売れないということで、これは制度が悪いんだ、もっと自由に書かせるべきだと。その結果、かえって手綱を締められたということです。これはもう身から出た錆というか、寝た子を起こしたわけですね。
 もっと言えば、事後チェック指針で示されているエビデンスの部分は、すでに検証事業報告書(「『機能性表示食品』制度における機能性に関する科学的根拠の検証―届け出られた研究レビューの質に関する検証事業報告書」、「機能性表示食品制度における臨床試験及び安全性の評価内容の実態把握の検証・調査事業報告書」/消費者庁)に書かれていることの一部なのです。ですから、検証事業報告書を読んでいれば、ある意味当たり前のことしか書いてないわけです。それを読んで、厳しすぎるというのも、ああ勉強してませんねという話だと思います。
 また広告に関しても、「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(消費者庁)に出ている事項からほぼ変わってませんから、私から見れば事後チェック指針は何の新鮮さもないのですが、いかに勉強してないかということの表れだと思います。

「検証事業報告書」をもっと学ぶ必要がある

柿野 エビデンスの機能性の根拠について、検証事業報告書を業界の方はあまり読んでないみたいですね。これはガイドラインとは違うと割り切っている企業が多いみたいですが、消費者庁は、ガイドラインと同レベルだからきちんと読んでもらいたいと思っているはずです。だから、そういう勉強会をもっとやらなければならないと思います。それを見れば、当然、過去をさかのぼった時にやはりまずかったんだというのに気付いて、自らどうするかを考え直さないといけないと思います。
 広告についても、事後チェック指針で問題になるケースが具体的に示されています。そこまで示してもらったのなら、これは非常に真摯に向き合う必要があると思います。私もいろんな勉強会に参加しながら、事後チェック指針を見ながら、今の広告に問題があるという話をすると、「じゃ何も書けないじゃん」みたいなことを言われるのですよね。いや、だからこそ、知恵を絞って書きましょうと申し上げるのですが、「なぜあの業界団体所属の大手の企業は堂々とやってるんだ」などと反論されます。

武田 そうなんですよね。あの広告が良いならみんないいでしょうとか。

柿野 事後チェック指針が、今の現状と合ってないのではないかという話が出ます。なぜああいう広告をテレビでやってるんだとか。元々、機能性表示の範囲からはみ出た広告をしているじゃないかなどの不満が出るものですから、それは真似しちゃいけないですよと話をするのですが、なかなかご理解いただけない。
 先ほど武田さんがおっしゃったように、100キロとか120キロ出しても、たまたま見つかっていないという点を各企業が真摯に受け止めないといけません。認知機能では、販売されている商品の6割が指導を受けました。たまたまウェブの広告だけの話だと思いますが、認知機能で「みんなが刺されたから問題ないじゃん」みたいな、そういう問題ではないと思います。認知機能だけじゃなく、他の機能性も同じような確率で上がっていると思いますので、何かその辺を業界団体がもう少し襟を正しましょうという感じで、アクションを起こしてもいいと思います。そうでないと、事後チェック指針に対して真摯に向き合っていないような気がします。

生鮮食品の将来性は?

――かつてお二人は、農林水産省の委託事業で全国各地を回り、農林水産物の機能性表示食品化に一役買われました。生鮮食品における機能性表示食品の可能性についてお聞かせください。

武田 私は、バナナのお手伝いをしました。機能性バナナは、ドラッグストアで機能性表示食品の売上ランキング上位に入ったぐらいです。おそらくスーパーだとこういうことはなかったでしょうから、売場を選ぶということは大事なことかもしれません。
 デメリットとしては、これまで普通のバナナを食べていた人から、「血圧は高くないけど食べても大丈夫か」という質問が来たそうです。血圧を下げる機能があるバナナには、薬でも入っていると勘違いされたのでしょう。特定の成分だけを強調すると、もしかしたら少々誤解を与えてしまう場合があるのかもしれませんね。

――柿野さんは精肉では第1号となる「はかた地どり」の届出サポートを行いました。

柿野 福岡 県のプロジェクトで時間をかけてやりました。制度施行当初は生鮮食品が届出できると言っても、お肉屋さんの生鮮の肉は 機能性表示食品には向かないみたいな雰囲気がありました 。そういう話をちょっと聞いたのですが、もうあえてそこをやろうという感じでしたね。確かに、鶏に与える飼料や飼育環境によって成分にばらつきが出ますから、まず機能性関与成分を安定させるための飼料、それからそういう飼育場所・環境条件など、 その辺も含めて九州大学農学部や福岡県の公設試験研究機関の先生方 できちんと基礎研究をされた 上で、研究レビューを進めました。
 またその頃、同じ機能性関与成分 を使った臨床試験で認知機能に関するものがちょうど論文投稿されていました 。同時並行で九州大学医学部により 進められていた コホート研究、観察研究でも認知機能を改善するかどうかを見ていくと、その機能性関与成分の代謝物質 が血中にたくさんある人は認知症になりにくいというエビデンス が届け出の時期ぐらいに公表された のです。だから本当に総力戦でした。臨床研究、観察研究の結果と機能性関与成分安定化のための畜産研究 というところを全部含めて届出をして、それで公開されましたから、もうオール福岡でやった事例 なんです。
 かなり話題性も出て、その後もバージョンを変えたものが出されてますから、今後に期待してください 。

表示の応用範囲が狭いのが難点

――デメリットは?

柿野 生鮮は、食品表示法上、届け出た表示見本・パッケージ表示に従って販売しなければなりません。本音としては、中食とか、外食とか、そういうところで機能性を書きたいのですが、それはできません。例えば、同じ肉を弁当に入れてもその弁当に機能性を表示できません。これがこの制度の限界です。これからの議論だと思いますが、レストランなどでも表示ができるようになると生鮮はもっと大きく伸びるのではないかと思います。

武田 同じものなのに届け出たパッケージ以外の売り方ができない。今後、このように書くのであればいいですよ、などと検討されればいいのですが。例えば、誤認させない程度にですが、この肉を使っていますなんていうポスターはありだとか。

柿野 そうですね。

生鮮を扱う上の注意点

武田 生鮮を扱う場合、大切なのは成分のバラツキの把握ですね。私は天然魚を2件お手伝いしました。1つは瀬戸内の季節限定でしたので、DHA・EPA を30検体ぐらい分析してバラツキを把握し、(成分の含有量が)下限値を下回らないような工夫をして届け出ました。県の分析機器をお借りできたので1万円ぐらいでできましたが、分析費用というのは結構かかります。
 それから北海道の道東沖のマイワシです。これはびっくりするぐらい(含有量が)安定してまして、水揚げ機関は1カ月半ぐらいしかないのですが、水揚げの初期と中期と最終期、現場において簡易脂肪計で測定し、分析センターに出してDHA・EPAを測るのですが、驚くほど安定してましたのでびっくりしました。ですから、生鮮が無理だと決めつけない方がいいですね。やってみないと分からない。

柿野 施設間の誤差というのが出てくるのは必ずあるのですが、そこをなぜ違うのか、大学の先生と、それから分析センターと会議をしてずっと見ていると、この手技で、例えばこうしたらこう回すところの高さが違っていたとか、そこを変えたら値が揃ったということもあったりするので、分析方法に書いてないようなところも結構揃えたりすることがあって、結構そういうのを乗り越えながら出すんですよね。水産物は特に、どこで獲れたかなどでも、違いがあるでしょうから。

武田 そうです。その年の海水温や餌によっても変わると思います。

柿野 それだけ難しいのですから、その分やはり、パッケージ表示だけに縛られるのではなく、外食とかにも使えるようにしてほしいと思います。

武田 生鮮があることによって、地方活性化に間違いなくつながりますからね。

機能性表示食品の将来展望は?

武田 今後、機能性表示食品でなければお店に置きませんとか、おそらくそういうところが出てくる可能性があります。実際、中国や韓国でも、保健食品とか健康機能食品しか置かないところがあります。それがそのお店の信用にもつながっていくと思います。
 ただし、制度を健全に保たないといけません。制度自体の信頼を失ったら全部がダメになりますから、1社1社が初心に帰ってとはいいませんが、2013年から14年にかけて、検討会で議論されたこと、その議事録などをもう1度読み返す必要があると思います。今、現場の担当者の方はたぶんご存じないと思うのですよ。もう我々のような年寄りしか当時の成り立ちを知っている人間がいないので、歴史を学んで、将来に対して備えていくことが大事なことでしょう。制度があるのは当たり前ではなく、あることがいかにありがたいことかを実感すべきです。特に海外の制度と比べても、こんなに柔軟性のある制度はありませんから、いかに恵まれているか、まず感謝すべきだと思います。

柿野 確かに、当時はすごく議論して、すごく濃い青春みたいな感じの中で燃えまくっていましたね。すごく勉強させてもらいました。

武田 当時、消費者庁の担当官があるシンポジウムで話されたことを、私は今も養成講座で皆さんに伝えています。「企業が自らの責任で社名を挙げて宣言する制度なのですよ」と。消費者庁がOKを出したのではないですよという意味です。これさえ忘れなければ大丈夫だと思うのですよ。

柿野 機能性表示食品に、きちんと上手に皆さんが取り組んでやっていけば、本当に明るい展望しかないかなと思います。とにかく食品を扱っている以上は、その食べ方によって人の健康とか、健康が悪化したりとか、いろんなことに関わってきますから。食品で商いをしている以上は、責任が必要だと思います。
 企業各社が、新入社員の方も含めて、品質や安全性、機能性を含めて、きちんと勉強して取り組むことです。売上を上げさえすればいいのではなく、レベルアップというのが求められてきます。許可制ではないので、エビデンスはずっと進化していきますから、そこに企業が当たり前のこととして、どんどんレベルアップする。今もそういう方向にありますから、これからもそうなると思います。
 エビデンスへの責任のほか、広告に対する責任も重要です。機能性表示食品制度をうまく活用し、いずれこうすれば売上が上がるというのを、どこかの企業が気付くと思うのです。中小企業、小規模事業者もそれをヒントにしてやると、もうどんどん業界全体が底上げされる。一時期、暗示ビジネスで売上を伸ばした時代があったと思いますが、そういうことではなく、本当に合法的にやりながらどんどん売上が伸びる。そういう手法を広告代理店にもプロとして考えてもらい、システムのノウハウを共有しながら、業界全体が盛り上がればいいと思います。

――ありがとうございました。

(了)
【聞き手・文:田代 宏】

<プロフィール>
㈱グローバルニュートリショングループ 代表取締役 武田 猛 氏
麻布大学環境保健学部卒業、法政大学大学院経営学専攻修士課程修了。アピ㈱、サニーヘルス㈱を経て2004年1月、㈱グローバルニュートリショングループ設立、現在に至る。国内企業の新規事業の立ち上げ、新商品開発、マーケティング戦略立案などのコンサルティングや海外市場進出の支援、海外企業の日本市場参入の支援を行う。現在まで、国内外合わせて700以上のプロジェクトを実施。著書に「健康食品ビジネス大事典」(パブラボ社)など。

㈲健康栄養評価センター 代表取締役 柿野 賢一 氏
博士(医学)。1989年九州大学農学部卒。2002年から13年まで九州大学大学院医学研究院予防医学分野(専修)に所属。医薬品受託研究(GLP)機関の安全性評価業務を経て、2004年㈲健康栄養評価センター設立。機能性表示食品制度に対応した科学的根拠取得のためのコンサルティングをはじめ、消費者目線に立った健康食品・化粧品開発の企画立案、臨床試験の支援を得意とする。

(冒頭の写真:対談する武田猛氏(右)と柿野賢一氏)

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