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機能性表示食品制度、見直し決まる 届出制は維持、GMP遵守など法的拘束力を強化

 機能性表示食品制度が生まれ変わる。根幹の「届出制」は変わらない。一方で、法的拘束力を持つ、新たな遵守および義務事項が事業者(届出者)に課される。行政の関与が強まり、不遵守や義務違反などがあった場合は行政措置が可能になる。行政措置には、食品衛生法上の営業禁止・停止も含まれる。新たな制度は、すでに届出を済ませている届出者にも遡及適用される見通し。

 小林製薬㈱(大阪市中央区)の自社工場で製造された原材料(紅麹)を配合した機能性表示食品に生じた、「いわゆる健康食品」史上最大規模とみられる危害問題は、規制改革で誕生した機能性表示食品に対する規制強化を招く結果になった。

 「サプリメント」全体に対する消費者の不安も喚起。錠剤やカプセル剤など、サプリメント形状の製品は、機能性表示食品の届出全体(約7,500件)の過半数を占める。不安を解消し、信頼を取り戻せるか。事業者が生まれ変わる制度にどう対応するか問われる。

政府、小林製薬「紅麹」問題受けた対応策

 政府は5月31日、関係閣僚会合を開き、小林製薬「紅麹」問題を受けた機能性表示食品制度に関する今後の対応方針を決定、公表した。

 危害の原因究明を継続中だが、行政への報告遅滞、原材料の製造工程管理不備などが指摘されていることを踏まえ、健康被害疑い情報の行政への迅速な提供義務化、サプリメント形状の製品についてはGMP(適正製造規範)に基づく製造・品質管理を要件化するなどの対応策を取りまとめた。

 日本で医薬品以外の経口摂取物にGMPが義務付けられるのは、2018年の改正食品衛生法で制度化された「指定成分等含有食品」以来となる。これまでの「強く推奨」から「義務」に格上げすることで、製品の品質確保の徹底を届出者に求める。

 製品の容器包装表示(パッケージ)における届出情報に関する義務表示も見直す。安全性や効果について国の評価を受けた特定保健用食品(トクホ)や疾病の治療を目的とする医薬品と誤認されない表示方法、表示方式に改める。過剰摂取など防止のための注意喚起表示もより具体的な書きぶりに変える。

 機能性表示食品以外の「サプリメント」全体に対する規制も射程に入れた。今回の問題を踏まえた「更なる検討課題」に指定。「今回の事案を受け、食品業界の実態を踏まえつつ、サプリメントに関する規制の在り方、許可業種や営業許可施設の基準の在り方などについて、必要に応じて検討を進める」対応方針を掲げた。

 自見英子消費者・食品安全担当相は関係閣僚級会合後に会見を行い、制度の見直しを速やかに実行し「より良い機能性表示食品制度の実現を目指す」と述べ、制度に対する信頼を取り戻すことへの意欲を示した。また、信頼回復に向け、今後、広告表示の適正化も進めるとした。届出者の自主的な取り組みを促していく考えで、「必要な施策は関係団体とも連携して検討していきたい」とコメント。機能性表示食品に関する公正競争規約の策定をイメージしていそうだ。

 機能性表示食品制度の見直し作業は、制度を所管する消費者庁が庁内横断プロジェクトチームを作り、厚生労働省などと連携しながら進めた。安全性に重点を置いて議論を進めた有識者検討会(機能性表示食品を巡る検討会)の提言や与党からの申し入れを踏まえ、見直しの方向性を取りまとめた。

 小林製薬が健康被害問題を公表したのは3月22日。約2カ月で、制度の改善を図る道筋をつけた。政府は今後、消費者委員会への諮問やパブリックコメントなどを行いながら、機能性表示食食品制度に関係する法令の改正を実施し、「可及的速やか」に公布する。施行は、届出者など事業者への周知期間、事業者の対応準備のための現実的な経過措置期間を設けた上で行う。

 また、トクホについても、健康被害疑い情報の提供遵守など、機能性表示食品と同様の措置を講じられるようにする法令改正を速やかに検討する方針。自己認証制の栄養機能食品については言及していないが、今後の検討課題として掲げた「サプリメントに対する規制の在り方」の枠組みでの検討を視野に入れているとみられる。

健康被害疑い情報提供義務化、サプリ形状のGMP管理を要件化

 制度の見直しは、①健康被害の情報提供の義務化、②制度の信頼性を高めるための措置──の2本柱で行われる。

 ①では、医師の診断を伴う健康被害疑い情報を把握した場合、因果関係が不明でも消費者庁と保健所に情報提供することが届出者の遵守事項となる。その旨が、同庁所管の食品表示法に基づく内閣府令の食品表示基準に書き込まれ、法制化される。これにより消費者庁は、遵守しない届出者に対する行政措置が可能になる。機能性表示を行わないよう、届出者に指示・命令することが出来る。

 また、厚労省が所管する食品衛生法に基づく施行規則(省令)においても、同様の情報提供を届出者の義務とする。施行規則は食品全般について、健康被害疑い情報の提供を事業者の努力義務に課している。その枠組みを変えず、機能性表示食品に限定して「義務」に格上げする。厚労省は、違反した届出者に対して、同法に基づく営業の禁止・停止の行政措置が可能になる。

 健康被害疑い情報の提供の遵守・義務は、立法主旨の異なる2つの法令で重畳的に課される。届出者が提供した健康被害疑い情報は、引き続き厚労省に集約。医学、薬学などの専門家による分析、評価の上で、定期的に公表される。

 厚労省の下に、保健機能食品を含む「いわゆる健康食品」の健康被害疑い情報が集約される仕組みはすでにある。情報の公表も行われている。厚労省は、製品名や主要配合成分名などを伏せた上で、主な症状や専門家が評価した因果関係の度合いなどを公表している。

消費者庁職員が製造工場に立ち入り検査

 一方、②では、制度の信頼性を高めるため、食品表示基準で規定している義務表示の内容を見直す。また、サプリメント形状に限定し、GMPに基づく製造・品質管理を法制化し、届出者の遵守事項とする。危害が生じた小林製薬の機能性表示食品もサプリメント形状だった。HACCPなど、食品衛生法が定める食品関連事業者の遵守事項に加え、GMPが上乗せされる。

 GMPは、府令の食品表示基準で届出者の遵守事項に定める。届出者が遵守すべきGMPの内容も府令で規定する。厚労省が今年3月に発出した「錠剤、カプセル剤等食品のGMPに関する指針」(旧平成17年通知、現在の所管は消費者庁)などを参考に規定を設ける。届出者や最終製品製造事業者は、原材料の受け入れから製品出荷までの範囲で、法令に基づくGMPの遵守を求められることになる。

 機能性関与成分を含む原材料の品質確保は、原材料の受け入れ段階で行うことを基本とする方向だ。原材料の品質確保について検討会は、「当該原材料の成分全体の同等性や同質性の考えを基本として対応する」ことを提言していた。原材料によっては、分析機器を使用し、精緻な分析を行う必要が生じる場合が考えられる。届出者の委託を受けて製品を製造する受託製造企業に負担がのしかかる。

 海外のサプリメント制度では一般的に、医薬品の製造・品質管理を参考にしたGMPを事業者に義務づけている。米国では、原材料の受け入れ検査も義務とする。一方、機能性表示食品制度では、GMPを「強く推奨」するにとどめていた。

 制度の見直しではそれを改める、法的拘束力を持つ遵守事項とした上で、製品の製造委託先などの遵守状況の自主点検を届出者に求める。また、食品表示法に基づき、消費者庁の職員が、製造工場に立ち入り検査などを行うこととする。製品が国外で製造されている場合もあるが、同庁は、立ち入り検査のために、海外へ渡航する可能性を否定していない。

新規の機能性関与成分、安全性確認の「特例」導入

 他に、「新規」の機能性関与成分の安全性に関する根拠資料について、消費者庁で届出を受け付ける前に、専門家の意見を聴く仕組みを導入する。これに伴い、届出資料の提出期限に「特例」を設ける。販売開始日の60営業日前とする原則は変えないが、「健康を損なうおそれがない旨の確証が得られない」ため届出資料の確認に「特に時間を要する」と消費者庁長官が認めたものは、120営業日前とすることを食品表示基準に明記する。

 その上で、届出後の科学的知見の充実によって機能性表示を行うことが適切でないことが分かった場合は機能性表示できないことを、やはり食品表示基準で明確化する。

 新規性のある機能性関与成分などについて、安全性に関する届出資料の確認をより慎重に行うことで制度の信頼性を高める狙い。専門家による確認が加わることで、安全性に関する科学的な裏付けが補強される。ただ、特例の適用に関する届出者の予見可能性を担保する仕組みの検討は今後になる。また、届出制の主旨を超えた「実質的な審査」と事業者らに受け止められる可能性もあり、混乱が生じそうだ。

 海外では、事業者が提出した科学的根拠資料などに基づき、行政機関が、食経験が限定的な新規食品やサプリメント成分等の安全性を評価する制度を設けている国もある。日本にも、医薬品医療機器等法に基づく「食薬区分」の仕組みがある。ただ、食薬区分は、医薬品に該当するか否かを判断するもので、食品としての安全性を評価しているわけではない。

 制度の見直しで、新規成分等の安全性評価に専門家が介入する素地が出来るものの、安全性は引き続き事業者責任で担保する必要がある。

届出を実質的な更新制に 事後の買上調査も強化

 ②では他に、届出の実質的な「更新制」を導入する。「届出後の遵守事項を遵守していることを定期的(1年に1回)に自己評価し、その結果を消費者庁ウェブサイトで公表」することを届出者の責務とする。それをしない場合、「機能性表示を行わないよう指示・命令する行政措置が可能となる」

 また、「届出者による遵守事項の遵守について消費者庁等における確認体制を強化する」。さらに、消費者庁が事後チェックの一環で行っている、機能性関与成分の含有量が届出のとおりかなどを調べる買上調査の対象件数を拡充する対応策も示した。現在の調査対象件数は、年度あたり100件前後となっている。

【石川 太郎】

関連資料:紅麹関連製品に係る事案を受けた 機能性表示食品制度等に関する今後の対応(内閣官房ホームページへ)
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