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業界全体の健全化に主眼を置きたい 【インタビュー】成長・発展はその後に付いてくる

 5つの健康食品業界団体が正会員団体として参画、賛助会員には通信販売やドラッグストアなどの業界団体も名を連ねる(一社)健康食品産業協議会。業界意見を集約する役割も求められている業界団体だ。そのトップに就任して5年目に入った橋本正史氏(=写真)が展望する保健機能食品制度の未来。氏は、業界全体の健全化、その結果としての成長・発展に眼目を置く。

──制度の未来を語ってもらう前に、制度の現状に対する考えを。

橋本 全体的な見直しが必要な時期が近づいているように感じます。これまでの見直しは部分的なものでした。そうではなく、総点検がそろそろ必要なのではないかと。機能性表示食品にせよ、トクホ(特定保健用食品)にせよ、色んな課題を抱えているからです。栄養機能食品も今のままで本当に良いのかどうか。ビタミンなどの栄養素が持つ保健機能は栄養政策の観点からも重要であるはずですが、行政も業界も有効に生かせていないように思います。一方で、新しい動きが現れてもいます。トクホの疾病リスク低減表示について新しいヘルスクレームが許可されました。そういった現実と向き合いながら、健康食品業界の健全化や発展に向けた道筋を考えるとき、制度のどこに主眼を置くのかで話がだいぶ変わってくると思うのです。

──どういうことですか。

橋本 私は企業人であるし、健康食品産業協議会も企業の集まりです。ですからROI(投資利益率)や費用対効果などと呼ばれるものを無視できない。つまりコストです。例えば、トクホに主眼を置いて、保健機能食品の制度を見直すという視点があるとします。新たな疾病リスク低減表示が認められたことは歓迎できますし、機能性表示食品と違って国のお墨付きを得られる魅力があります。しかし一方で、許可を得られるまでにどれだけの時間と費用がかかるのか。多くの時間と費用を投資する決断ができるのは大手企業に限られますから、業界全体の健全化にも発展にもつながりません。そのように考えると、トクホに主眼を置くという視点は、果たして私たちが進むべき道なのでしょうか。この先、制度をどのように見直すにしても、企業の視点、つまりコストに主眼を置くという視点が抜け落ちてはいけないと考えています。

──機能性表示食品について、規格基準を導入する考えを消費者庁が示しています。実際に導入されるのかどうか分かりませんが、どのように受け止めていますか。

橋本 制度が始まって30年以上も経っているトクホの許可件数を10年未満の機能性表示食品の届出件数が凌駕しています。市場規模もそうです。なぜそうなったのか。キーワードはやはり「コスト」です。それは時代の要請ということでしょうし、企業人の立場から見ても当然だと感じます。そうした中で規格基準の話が出てきました。もし本当にそれを導入するのであれば、企業が魅力を感じる仕組みになるかどうかが成否を分けるポイントになりそうです。届出だけで済んで、コストもさほどかからない、という仕組みになるのだとすれば、受け入れられるかもしれません。一方で、多少であっても差を付けたいのが企業ですから、定型文しか表示できない仕組みに魅力を感じるかどうか。

 他方で、規格基準を導入することで、事業者も、行政も、今よりもっと楽になる。そういう視点もあると思います。

──そうですね。裁量の入り込める余地が規格基準にはほとんどありませんから。

橋本 あいまいな部分が多すぎると思うのです。だからどうしても裁量の余地が大きくなる。それはそれで良い面もあると思うのです。しかし、この前の措置命令(科学的根拠をめぐる6・30措置命令)のように、結果的に企業や行政を苦しませる面もある。そのように曖昧な部分をオーソライズしていきながら制度を発展させたり、業界の健全化を図ったりといった視点があっても良いはずです。

 その意味で、規格基準を導入しようという考え方は理解できます。もしかしたら規格基準のように物事がカチッと決められた仕組みのほうが日本には合っているのかもしれません。それに、規格基準は一種の規制だと言えますが、規制がイノベーションを阻害するとは限りません。規制とイノベーションは両立するという研究もあります。国内で行われた研究です。ただ、だとしても規制が裁量であってはいけないし、そうならないための仕組みづくりが行政主導になってもいけません。

──業界が意思決定に加わる必要があると。

橋本 そうです。コラボレーティブガバナンス(協働ガバナンス)という考え方があります。行政などの公的組織だけでは解決が難しい公的な課題を解決するために、公的組織と、民間をはじめとするさまざまなステークホルダーが連携して、課題解決に当たるという考え方です。措置命令で顕在化したエビデンスの課題にしても、行政だけで解決するのは困難です。もちろん業界だけでも難しいですから、アカデミアや専門知識を持つ方々と連携する必要があります。実際、そのようにして健康食品なりの臨床試験やエビデンスのあり方を探る検討が始まっています。

 エビデンス以外にも、保健機能食品以外の健康食品も含めた安全性や品質をどう確保していくのかという課題もあります。そういったサプリメントや健康食品に関する法律がないから基準もあいまいなところの意思決定を行政に任せっきりにするのでなく、業界外のステークホルダーや専門知識を持つ方々の助けを借りながら、私たち業界としての意見をしっかり表明し、議論を主導していかないといけません。反論されたり、疑問視されたり、さまざまな議論が沸き起こるはずですが、厳しい意見にも耳を傾ける姿勢を持っていたい。そのようにして業界として一定の基準を作っていかないと、自由裁量が幅を利かすあいまいな世界でビジネスを続けることになってしまう。業界全体の健全化と発展のために、そういう世界を無くしていく必要があると考えています。

──それを実現するためには、業界内外からの信頼を勝ち取る必要がありそうです。

橋本 そのとおりです。3年ほど前からなのですが、経済産業省が主催する「健康・医療新産業協議会」の委員を務めています。他の委員には、日本医師会や日本製薬工業会などの医療や医薬業界の方もいらっしゃって、正直、かなりアウェーな雰囲気だったのですが、ここにきてそれも薄まってきたように感じます。ヘルスケアという新市場の創出を目指す議論に臨むにあたって、健康食品産業の成長ではなく、健全化に向けた取り組みを訴え続けた結果そうなったのだと考えています。ですから私たちが目指すべきは、まずは健康食品業界全体の健全化。その上での成長や発展。それを実現するためには、反省すべきところは反省し、改善策を見いだし、実行していかなければなりません。それが必要なのは健康食品産業協議会も同じです。至らぬところを改善しながら、業界からの信頼をもっと高めていく必要があると思っています。

──健康食品業界全体の健全化にどう取り組んでいきますか。

橋本 安全性、有効性、そして品質の3本柱に主眼を置いた活動を続けていきます。機能性表示食品に関してだけではありません。それよりも圧倒的に数が多い、いわゆる健康食品をどうしていくのか。業界全体にとって重要なテーマだと考えています。

 食品衛生基準行政が厚生労働省から消費者庁に間もなく移管されます。機能性表示食品などの保健機能食品からそれ以外の健康食品まで、健康食品全体の安全性や品質を取り巻く環境がこれまでと変わることになりますから、業界全体に一定の影響を及ぼす動きになると見ています。眼目は健康被害の抑止になると思いますが、それを防ぎたいのは行政だけではありません。私たちも同じです。そのために最終的に求められるのは法制度化だと私自身は考えています。ただ、その議論ができるほどの機はまだ熟していません。ですからまずは協議会内に置いた安全性や品質に関する専門分科会の議論を深め、健康食品全体の安全性行政に業界がしっかりコミットできるようにする必要があると考えています。

──ありがとうございました。

【聞き手・文:石川太郎】

プロフィール:2019年5月、健康食品産業協議会会長に就任。現在3期目。ルテインなどサプリメント原材料の製造販売を手掛ける米ケミン・インダストリー社の日本法人、ケミン・ジャパン㈱の社長と兼務。海外のサプリメント業界団体に人脈を持ち、機能性表示食品など日本のサプリメント・健康食品のグローバル化をライフワークに掲げる。

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