本音で語ろう、制度とサプリの今後(後) 健康被害問題、皆で乗り越える道筋探る
小林製薬「紅麹サプリ」事件、それを受けた機能性表示食品制度の見直し、そしてサプリメントに対する今後の規制の在り方をどう考えるか──。ウェルネスニュースグループは、それぞれ異なる立場で機能性表示食品制度やサプリメントに関わる3人を招き、座談会を開いた(2024年7月19日)。三者三様の意見に耳を傾ける。前後編のうち後編。
安全性評価、実効性ある仕組みに出来るか
──私は、今回の制度改正について、安全性のところへのテコ入れが不十分なのではないかと感じているのですが、皆さんはどう思いますか?
柿野 ものすごく重要なところです。新規の機能性関与成分などについて、外部の専門家に意見を聴く仕組みが新たに導入されます。しかし、既存の成分についてはどうするのか。2016年度の機能性表示食品制度に関する検証事業(臨床試験及び安全性の評価内容の実態把握の検証・調査事業)で安全性に関する課題が指摘されていましたが、それが解決されたのかどうか、曖昧なままです。
また、表示する機能性のエビデンスに関する事後チェック指針はありますが、安全性に関してはない。一方で、安全性に関する文献評価は、有効性以上に恣意的に行えてしまう面があります。その論文が症例報告だとしても、安全性を考える場合は重要である場合がある。それは除外してはならない。ですから、消費者庁は、通知でも構わないので、安全性評価に関する指針をしっかりと示し、事後チェック出来るようにすべきだと思います。いずれにせよ、事業者は覚悟が必要です。安全性に関して恣意的な評価を絶対にしない、という覚悟です。
勝田 国立栄研(国立健康・栄養研究所)の「素材情報データベース」は今、安全性のところが閉鎖されています。それに、「ナチュラルメディシンデータベース」を使用しない考えの事業者が増えています。そのように、ますます安全性評価を恣意的にやりやすい状況にあることはすごく心配ですよね。
柿野 栄研のデータベースは今、有効性しか情報を出していません。それはものすごく偏った状態ですし、その時点で、消費者を誤認させていると思います。
竹田 安全性評価をどうするのか、もっと考えていく必要があるのは確かです。ただ、とても難しいことだとも感じます。例えば、機能性関与成分同士の相互作用について文献検索したが何もなかった、だから安全性に問題はない、と決めつけて本当にいいのかどうか。それを喫食実績だけで評価しようとすることにも大きな疑問があります。とはいえ、臨床試験まで踏み込むのも負担が大きい。しかし、極論ですが、喫食実績だけで安全性を評価するのはもうやめるべきだと私は考えています。恣意的ではない文献評価をしっかり行うか、試験を実施するかしかないと思います。
それに、安全性に限った話ではないのですが、今回の制度改正では、届出後に新たな科学的知見が得られた際の消費者庁への報告義務だったり、遵守事項を守っているかどうかを届出後1年ごとに自己評価する義務であったりが届出者に課されます。そうしたことを、本当に実効性を持たせながら運用できるのかどうか疑問に感じています。実効性のある仕組みにするには、新たな科学的知見がないことを届出者がどのように確かめたのか、年に1回の評価をどのように行ったのかを消費者庁として確かめる必要があるでしょう。それは、消費者庁にとっても、届出者にとっても、非常にしんどいことだと思います。本当にやれるのか、ちょっと疑問ですね。
──今回の制度改正は、健康被害問題への対応を一刻も早く行うということで、安全性や品質の確保に主眼が置かれました。ですが、いずれまた、有効性に関するエビデンスの質の問題が立ち上がってくることは間違いないと思います。この点、臨床試験に深く関わる竹田さんはどう考えますか。
竹田 CROにしても、RCT(ランダム化比較試験)のやり方だとか、レベル感だとかが各社で違いますよね。食品の臨床試験に関する公的な指針のようなものは一応あって、トクホ(特定保健用食品)制度に関する別添2(申請書作成上の留意事項)に一定の考え方が示されています。ですが、考え方はそこで止まってしまっていますし、その内容の適切性が外部評価されたわけでもありません。ですから、機能性食品やサプリメントの有効性評価やエビデンスの在り方に関しては一度、公的な場でしっかり検討する必要があると思うのです。
柿野 実際、エビデンスの問題は、今回の健康被害問題と同時並行的に報じられています。私は、SRのPRISMA2020準拠以前の話として、採用論文のレベルの話が忘れられているように感じています。そのレベルが低いと、論文が沢山あったり、2020に準拠したりしていても、レベルの低いエビデンスになってしまう。PRISMA2020に準拠していれば、それでも構わないということにしてしまうのかどうか。有効性評価の在り方については今後、しっかり考えていく必要があります。
消費者のヘルスリテラシー向上はどうする
──最後に、機能性表示食品制度や健康食品業界の健全な成長や発展に向けて、これに取り組む必要があると考えることがあれば、それぞれコメントをお願いします。
竹田 安全性について、事業者間でもっと情報交換できるようになると良いと思っています。因果関係がはっきりしているような情報はもちろん別ですが、消費者には公開しないかたちで、健康被害疑い情報に関するデータベースがあると、届出者にとっても参考になると思います。厚労省のホームページで一部公開されていますが、どのような製品でそれが報告されているのか全く分かりませんから。
他にも、繰り返しになりますが、臨床試験やエビデンスの在り方がもっと整理されていくと良いと思いますし、サプリメントに関する法律も必要ではないかと思います。サプリは、食品とは別扱いにする必要をやはり感じますよね。
勝田 私は、消費者のヘルスリテラシーがもっと高まるための工夫の必要があると考えています。サプリメントとは、医薬品ではなく、栄養素などが凝縮された満腹にはならない食べ物である、ということを明確に認識してもらう必要があるということです。そういったことの啓発活動を誰もやろうとしない。それは、今回の問題でも、「疾病の治療や予防の目的でない」こと、事前に「医師や薬剤師に相談する」などの表示があるにも関わらず、多くの罹患者がサプリメントを使用していたことの根底にある要因だと思います。そこが一番の問題なのだと考えています。このことは先日NHKの取材を受けた際、機能性表示食品制度のメリットとともにしっかり主張したのですが、放送では丸ごとカットされてしまいました(編集部注:6月9日放送の機能性表示食品制度をテーマにしたNHKスペシャルのこと)。
また、消費者リテラシーの向上と同時に、行き過ぎた広告を業界として是正していく必要があります。サプリメントであったり、健康食品業界であったりが、消費者などから怪しく思われてしまう最大の理由は、どう考えても行き過ぎた広告に原因がありますよ。そうした広告を業界として排除していきますという意思を業界団体には示してもらいたい。それをしない限り、印象の向上は難しいはずです。
柿野 消費者が安心して健康食品を利用できるようにするためにも、国立栄研は、素材情報データベースの安全性のところを一刻も早く再開していただきたいですね。それが止まっている現状は、健康食品を利用する消費者が自分の身を守れない状態であると言えますし、消費者としてのリテラシーを高めたくても高められない状態でもあると思います。
また、繰り返しになりますが、事業者には、恣意的な安全性評価を行わないことを求めたいです。そのうえで、今回の制度改正を機に、特にサプリメントの製造・品質管理について改めて考えてもらいたいと思います。厳しいことを言っているように聞こえるかも知れませんが、認証を取得することだけを目的にしたGMPにはほとんど意味がない。GMPを担保した製造・品質管理を行っていくことが大切です。
品質保証に関する情報が不足している原材料は受け入れない、受け入れ検査をしない受託メーカーには仕事を依頼しない、利益ばかり考えている販売会社の仕事は受けない──そういった意識を業界全体で醸成したり、これまでの商習慣や利害関係などを超えた取り組みだったりが、全ての事業者に求められると思います。そうしない限り、今回と同じ問題が、また繰り返されてしまうのではないでしょうか。
──ありがとうございました。
(了)
【文・構成:石川太郎】
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