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本音で語ろう、制度とサプリの今後(前) 健康被害問題、皆で乗り越える道筋探る

 小林製薬「紅麹サプリ」事件、それを受けた機能性表示食品制度の見直し、そしてサプリメントに対する今後の規制の在り方をどう考えるか──。ウェルネスニュースグループは、それぞれ異なる立場で機能性表示食品制度やサプリメントに関わる3人を招き、座談会を開いた(2024年7月19日)。三者三様の意見に耳を傾ける。

恣意的な安全性評価、消費者被害に直結

──お集まりいただきありがとうございます。勝田さんと柿野さんはウェルネスニュースグループの事務所から、竹田さんは大阪からオンラインでの参加です。始めましょう。まずは自己紹介をお願いします。

勝田 食品機能研究所の勝田です。機能性表示食品の製品開発や届出、販売プロモーションなどのサポートをさせてもらっています。ヘルスクレーム、エビデンス、広告表示などに関するアドバイスも行っていますから、機能性表示食品に関する事業者の悩みに対して総合的にサポートさせてもらっているところです。

 起業する前は、サプリメントの通販会社の代表を務めていて、その会社で25年ほどサプリの商品開発から販売まで携わっていました。機能性表示食品に関しては、消費者庁とのやりとりも含めて私自身で行っていました。私のこれまでの経験が、事業者の皆さまのお役に立てるかも知れないと思い、起業することにしました。

柿野 健康栄養評価センターの柿野と申します。拠点は福岡です。起業して24年目に入りました。食品全般の研究コンサルティングを専門にしていまして、今はやはり、機能性表示食品のエビデンスの構築やチェックに関する企業からの依頼が多いです。

 大学は畜産学科を出ました。その後、医薬品の受託研究機関に入り、安全性を中心に基礎研究を行っていました。ですから私のベースには安全性があるのですが、起業後、大学院で公衆衛生を学び、その時、臨床研究、観察研究、システマティックレビューに関わりました。それが今の仕事の役に立っています。公衆衛生には、文献評価に関する「批判的吟味」という考え方があります。機能性表示食品制度で届け出る安全性や機能性の根拠資料は、資料作成者側からすると、無意識に「売りたい」という意識が先に立ち、その結果、知らないうちに恣意的にまとめられてしまいがちです。恣意的な安全性情報は消費者の健康被害に直結しますし、恣意的な機能性情報であれば届出表示の根拠不十分となり、販売中に撤回に繋がることもあります。そのようにならないために、第三者的目線からの批判的吟味(文献に記載されたデータや内容を鵜呑みにせず、その結果が本当に妥当かどうか判断すること)を事前に加えて欲しい、という要望を持つ多くの事業者様からの依頼に応えています。

 せっかくできた機能性表示食品制度です。エビデンスのレベルを上げていくことで、制度を守るためのお役に立てればと思いながら、九州で頑張っています。

竹田 関西福祉科学大学の福祉栄養学科に所属している竹田です。食品機能学や生物統計学などを専門にしています。以前は東京の食品CRO(臨床試験受託)機関にも所属していました。ですから機能性表示食品には、臨床試験の方面から関わるようになっています。

 システマティックレビューの依頼を受けることもあります。ただ、私の場合は、臨床試験の計画、登録、試験設計、アウトカム、統計解析などの相談を受けることが多いですから、やはり臨床試験に関するアドバイスが中心です。最近は、UMIN登録時の主要アウトカムの設定などに関する相談も増えています。臨床試験の質に対する消費者庁の視線が厳しくなっているのだろうと感じています。

サプリの印象と地位の向上、もっと考えたい

──それでは本題に入ります。まずは今般の小林製薬「紅麹サプリ」事件の受け止めをそれぞれ伺います。事業者がこの問題から得るべき教訓とは何でしょうか。

柿野 紅麹菌は培養時にコンタミネーションを起こしやすいことが知られていました。事故を起こした商品の届出資料を見ると、安全性の根拠資料では品質へのこだわりがアピールされているように感じました。ただ、そのことと、後に分かってきた品質管理レベルのギャップに違和感を覚えました。

 また、死亡が疑われる人の数が突然増えたことに私は、怖さを感じました。ずっと5人と報告されていたものが突然70人を超えた。今は100人近いとされています。会社の内部で情報共有されていなかったのか、隠したい意図があったのか、そこは分かりません。しかし、健康被害が疑われる人の正確な人数が行政へ報告されていなかったこと、社会との情報共有が適正に行われていなかったこと、そうした事実をあらゆる事業者が受け止める必要があると思います。

 今回の機能性表示食品制度の改正で、健康被害情報の行政機関への提供などが義務化されます。しかし、いくら義務だといっても、最初の段階で隠されてしまってはどうすることもできない。すると、企業の善意に任せるしかありません。同じ問題を繰り返さないためにも、このあたり、各社がしっかり考えておく必要があると思います。

竹田 因果関係は必ずしもはっきりしていませんが、死者も出てしまいましたから、非常に深刻な問題です。ただ、機能性表示食品に限らず食品全般について起きうる問題でもあったと思います。その中で、機能性表示食品制度に対する非常に厳しい意見も挙がりました。私も制度に関わっていますからとても複雑な心境です。それに、今回の問題の落としどころはまだ見えていないと受け止めています。世論の納得を得られるかたちで問題をどう収束させるのか。そこに注目しています。

勝田 「事件」と表現していいのか、まだ分からないのではありませんか? 竹田さんの言うとおり、製品と健康被害との因果関係はまだ確定していないからです。だとしても、教訓ははっきりしています。まずは品質管理。原材料から最終製品まで、品質管理体制の構築だったり、品質の定期的なチェックだったりを各社が意識的、かつ積極的に取り組む必要があります。

 2つめは、健康被害情報の収集と報告です。機能性表示食品は、健康被害情報の収集や報告に関するフロー図を届け出ていますが、それが本当に実効的な仕組みになっているかどうか見直す必要があります。報告すべき健康被害疑い情報に関する基準や、報告の流れを明確化する必要があるのではないでしょうか。そこを曖昧にしてきた事業者は少なくないはずです。私は、健康被害などを申し出てきたお客様に対するヒアリングシートの見直しも提案しています。健康被害の申し出といっても、実はそのサプリメントを摂取していなかったりする場合が当たり前のようにあるのが実態ですが、会社側が冷静に尋ねることができれば、お客様も冷静に答えていただけるようになるはずです。

 それに、今回の健康被害問題の報道やSNS上などで見られた情報の偏りだったり、本質的ではない部分に注目が集まったりしたことで風評被害が起きたことも教訓にすべきです。今後は、機能性表示食品やサプリメントに対する国民の印象や地位の向上をもっと意識しながら、お客様と接していく社内風土づくりに取り組んでいく必要があると思います。

──今回の健康被害問題を受けて、機能性表示食品に限らず、サプリメント全体の需要の落ち込みが懸念されています。お仕事をしていて、消費者離れを実感することはありますか?

勝田 いろいろと聞き取ったところ、3月下旬の発表以降、広告に対するレスポンス率が急激に下がり、定期購入商品の解約率が急激に上昇しました。これは通販全体の傾向だとみられます。ドラッグストアでも、サプリの売り上げが2割近く落ち込んだと報道されました。

 ただ、6月以降は多少、落ち着きを見せました。報道が落ち着いたからでしょう。今回、報道の影響はかなり大きかったと思います。定期購入の解約理由を見ると、報道されている商品とは無関係だから自分自身は摂取を続けたいと思っている一方で、家族だったり、医師だったりから止めるよう言われた、といった理由が目立ちました。

柿野 各社、かなり強い危機感を抱いていたと感じます。売り上げに影響したという話も聞きました。ただ、業態や会社によって差はかなりあると感じました。

 私自身は、死亡疑い事例の増加が報道された際にもかなり緊張しました。ただ、それによって大きな影響を受けたという話はまだ聞いていません。

竹田 消費者の動向は分かりませんが、安全性試験に関する企業からの相談が明らかに増えました。最終製品についてヒトを対象にした安全性試験を行いたい、という相談です。システマティックレビューで届け出ているが、販売している商品そのものの安全性を確かめたい、と。

 とはいえ、実行に移す企業は今のところほとんどありません。制度の見直しも睨みながら、安全性を確かめる臨床試験を行う必要があるかどうか、様子を見ている段階だと思います。

(後編に続く)

【文・構成:石川太郎】

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