栄養食糧学会大会で曽根教授が講演 紅麹問題が投げた影~健康食品の安全性を再点検せよ
24日、第79回日本栄養・食糧学会大会は東山キャンパス・豊田講堂(名古屋市千種区)で緊急シンポジウム「健康食品・機能性食品の安全性確保に向けて」を開催した。2024年3月に発生した紅麹サプリ問題をテーマに取り上げ、有識者や業界団体、そして厚生労働省を迎えて、同問題が投げ掛けた課題と今後の対応について考えた。
紅麹サプリ事件の背景と影響
新潟大学医学部の曽根博仁教授(=写真)は「紅麹サプリメント事件が投げかけた課題」と題して講演した。
冒頭の挨拶で、「今回のシンポジウムは特定の企業を糾弾するためのものではなく、むしろこの問題から業界全体を含む多くの関係者が学びを得るべき機会として捉えるべきである」と強調する一方、「関係した企業の責任を覆い隠すとか、うやむやにするという趣旨でもない」と前置きした。
紅麹サプリメントに関する大規模な健康被害がどのように発生したか、関係する企業の対応の問題、また、この出来事から業界全体が学ぶべき教訓について議論する必要性を強く訴えた。

豊田講堂正面玄関
健康被害報告と行政対応の遅れ
講演では、事件発生からの経過を説明後、その後に生じた健康被害の実態、企業における医学的判断の欠如など明らかになった課題、それが元で後手に回ってしまった健康被害報告の遅れが原因で被害の拡大につながった実情などを詳しく紹介した。
曽根教授は、国の「紅麹関連製品に係る事案の健康被害情報への対応に関するワーキンググループ」(紅麹関連製品WG)の他、現在は国が毎月開催している「機能性表示食品等の健康被害情報への対応に関する小委員会委員」(紅麹関連製品WG)の座長を務めている。その経験を踏まえて、健康障害事例収集・提供システムの円滑な運用に関する重要な提言を行った。
双方向の情報提供体制の必要性
紅麹サプリ事件は業界人だけの問題ではなく、消費者にとっても、今後、健康食品・サプリメントとどのように付き合っていくか大事な問題として受け止めてほしい。被害拡大を食い止めるための一助とするために、健康被害の情報提供においては健康診断の結果を添えるなどの工夫を求めた。
さらに、健康被害報告システムや企業の監査体制をどう整えていくか、利用者からの健康被害の迅速な報告とメーカーへのフィードバックシステムに対して、関係者の協力関係をどのように構築していくかが将来の大きな課題だと述べた。
紅麹サプリメントによる大規模な健康被害拡大は単なる偶発的な事故ではなく、人災として受け止めるべきものである。24年6月、日本腎臓学会は、サプリ摂取後に医療機関を受診した患者は206人に達し、経過観察可能な105人のうち8割超で腎機能低下持続という結果を発表した。これは業界・行政・消費者にとって深刻な警鐘となった。
このような事態を受け、健康被害の早期報告体制の不備、企業が医療専門家からアドバイスを求める姿勢の欠如、行政による監視体制の限界など、複数の課題が浮き彫りとなっている。今後は、利用者からの健康被害報告を迅速に収集し、製造事業者へとフィードバックを行う双方向のシステムの整備、消費者(患者)とのリスクコミュニケーションが急務である。
曽根教授はそう述べた上で、日本医師会などの専門組織を通じた医療情報の提供体制を強化し、専門家による客観的な評価と対応が可能な枠組みを構築すべきであるとした。現在、薬局を含む現場対応についても、一定の取り組みを進めることが求められている。

再発防止へ、透明性とさらなる制度改革を
同教授はまた、今回の健康被害の実態を踏まえ、「再発防止には情報共有と透明性の確保が不可欠である」と強調する。特に、企業による自主的なリスク開示と、消費者からの被害情報を一元化・集約するシステムの構築は最優先事項とされる。
さらに、機能性表示食品における届出制度や、表示内容に対する評価プロセスについても再検討が必要であり、規制当局と研究者、現場の医師・薬剤師が連携して、科学的根拠に基づく分かりやすい制度運用が求められているのではないかとの考えを示した。
講演の締めくくりに、曽根教授は「今回の件を教訓とし、すべての関係者が学び、制度や文化の転換につなげるべきである」と述べ、シンポジウムの意義をあらためて強調した。
【田代 宏】