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弁護士が見た「措置命令」大幸薬品 行政処分の取消「差止訴訟」を検証する

堤半蔵門法律事務所 弁護士 堤 世浩(つつみ せいこう)

 大幸薬品㈱は、措置命令の差止を求めて提訴し、すでに裁判所の判断が確定している。この時、景表法7条2項により表示が「優良誤認表示とみなされたこと」を理由とする措置命令の適法性が問題となった。事件の概略を紹介し、判決に至る経緯を検証する。

概 要
 大幸薬品㈱(以下「大幸薬品」という。)は、「クレベリン」という名称で各種商品を販売しているところ、商品パッケージ、自社ウェブサイト、テレビCMなどにおいて、二酸化塩素ガスを徐放することによって空間に浮遊するウィルス・菌等を除去・除菌する効果を謳っていた(以下「本件表示」という)。これに対し、消費者庁長官が、6商品(①置き型60g、②置き型150g、③スティックペンタイプ、④スティックフックタイプ、⑤スプレー、⑥ミニスプレー)を対象として、本件表示につき法7条2項に基づき優良誤認表示とみなし、措置命令を行おうとしたため、大幸薬品がその差止め・仮の差止めを求めて提訴・申立てたのが本件である。

争点と判断
 ⑴ 争点
 差止めの訴えの提起があった場合において、(ⅰ)償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、(ⅱ)本案について理由があるとみえるとき、裁判所は仮の差止めを命じることができる(行政事件争訟法37条の5第2項)。
 本件の場合、もし法7条2項(不実証広告規制)の要件を満たさないのであれば措置命令は不適法となり「本案(差止めの訴え)について理由があるとみえるとき」に当たるので、法7条2項の要件を満たすかどうか、とくに「合理的根拠資料が提出されたか否か」が大きな争点となった(なお、そもそも本件表示はどのような内容を示すものなのかなど複数の争点が問題となったが割愛)。

 ⑵ 判断
 東京地裁(2022年1月12日決定)は、商品①と②については合理的根拠資料の提出ありと一応認められるとして、その限りで仮の差止めを認めた(商品③~⑥については却下)。これに対し、双方が即時抗告をしたところ、東京高裁(同年4月13日決定)は東京地裁の判断を覆し、商品①と②についても合理的根拠資料が提出されたとは認められないと判断し、仮の差止めを認めなかった。

 両裁判所で評価・判断が分かれたポイントは複数あるが、たとえば、大幸薬品は、本件商品を用いて試験を行い、閉鎖空間において空気中に浮遊するウィルス等の除去効果を確認し、その結果を記した「外部報告書」を合理的根拠資料の一つとして提出しているところ、上記試験は、(一社)日本電機工業会が策定した家庭用空気清浄機の規格であるJEM1467が規定している附属書D「浮遊ウィルスに対する除去性能評価試験」に記載された試験に準じて実施されている。

 この試験方法について、東京地裁は、「学術界若しくは産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法である」と評価したのに対し、東京高裁は、一定条件が設定された閉鎖試験空間で試験を行う限りにおいて「関係する学術界若しくは産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法」に当たる旨評価するにとどめ、したがって前記外部報告書は閉鎖試験空間とは異なる実生活空間における浮遊ウイルス等の除去等の効果まで実証するものではないと判断している。

まとめ
 本事案では、最終的に事業者の主張は認められなかった。裁判所間で評価・判断が対立しており、紙一重の事案であったという評価もなしうる。が、あくまで「仮の差止め」の訴訟であり、通常の訴訟よりも立証の程度は下がるので、それでも最終的に事業者の主張が認められなかったことに、措置命令の適法性を争うハードルの高さを再認識させられた。
 そのような意味では、措置命令を待たずに仮の差止めを申し立て、自社に有利な判断を裁判所から引き出す可能性を少しでも高める(そしてそれを本案で有意に活用する)という戦略自体は選択肢として十分検討に値するものと思われる。

<プロフィール>
堤半蔵門法律事務所代表(東京弁護士会所属)
一橋大学大学院法学研究科修了。2008年弁護士登録。経歴・所属:東京簡易裁判所司法委員、東京弁護士会食品安全関係法制研究部会。取扱分野:企業法務・ベンチャー法務、契約法務、労務、M&A・アライアンス支援、上場準備支援
講師・執筆:東京弁護士会主催「食品企業コンプライアンスの実務・最前線」講師、コラム「健康食品広告・表示の『判例』解説」執筆(Wellness Daily News)。

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