将来、食が疾病対策の本体になる 東北大の宮澤教授、AIFN総会記念講演で解説
(一社)国際栄養食品協会(AIFN、天ケ瀬晴信理事長)はきのう4日、「2025年度総会記念セミナー」をモバフ新宿アイランド セミナールーム(東京都新宿区)で開催した。約40人が参加した。
東北大学未来科学技術共同研究センター教授の宮澤陽夫氏(=写真)が、「疾病の予防、QOLの改善に貢献する食の次世代機能研究について」をテーマに講演。同氏は、大学院生の頃から現在まで、日本食の健康有益性、脳の加齢と変性抑制、桑・納豆による血糖管理、こめ油のがん抑制成分、緑茶カテキン、ブロッコリーのスルフォラファン、カレーのクルクミン、EPA・DHAの抗酸化と粉末魚油開発などの研究を進めてきた。
宮澤氏は「例えば抗がん剤でも血圧の薬でも、糖尿病、血糖の病気などでも、5年、10年、長い人になると20年、30年飲み続ける。そして最終的には、ほとんどの人が肝機能障害で亡くなってしまう。世界的に見て、病気を治すための医薬品はもちろん必要だが、やはり基本になるのは食べ物。食べ物で健康長寿、元気に働く、そういうサポートができる、そういうサイエンスがこれからとても大事になってくる。食の世界がこれからグローバルには大展開する」と話した。
宮澤氏は加齢によって体の働きがどう衰えるのか、変わるのかということについて研究。「どの教科書を見ても、体のガス交換、つまり酸素をうまく利用する、酸素を利用するにはCO2を排出しなければならないが、その機能が落ちていくというのが典型。認知症の場合にもそういうことがあるということが分かってきた」と解説。
「認知症の人は、CO2を回収して酸素を渡すという、赤血球本来の働きができなくなる。実際に高齢者の血液を分析してみると、元気な人は赤血球が本来の働きをして新鮮な血液を体内にしっかりと循環させているが、認知症の人にはそれが見られない。つまり認知症になるかどうかは、血液の、赤血球の働きが肝になる」と強調した。
脳はその約55パーセントが油
宮澤氏は、「脳は約55パーセントが油で、残りの約4割がタンパクでできている。つまり、脳にとって油はとても重要。よく若い女性が油は取らないと言うが、これは脳にとっては良くない。脳の約半分を占める油のその組成をさらに分析すると、その半分がリン脂質で、その他がコレステロールと糖脂質。コレステロールも食事から取るのはだめというが、これも脳にとって良くない」と話した。
人間の脳はこれだけ油が多いのになぜ酸化しにくいのか、いまだに解明されていない。肝臓や筋肉は代謝が行われ、壊れるとすぐ新しい細胞ができるが、脳はそうではなく1度壊れるとだめになる。宮澤氏の研究は、さらにこのリン脂質の存在に着目。「3割ぐらいがエタノールアミンを持ったリン脂質で、このエタノールアミンの約7割がプラズマローゲンという油。エタノールアミン型のプラズマローゲンは、神経組織に特に特徴的に分布しており、これがとても重要だ」と話した。
認知症の人はプラズマローゲンが少ない、食べ物からの補給にアプローチ
「認知症の人の血中のプラズマローゲンの濃度を測ると、赤血球においても血しょうにおいても少ない」と宮澤氏。食べ物から補給することはできないかと考え、偶然出会ったのが三陸特産のホヤだったという。ホヤのプラズマローゲンを使い研究を進めたところ、ホヤのプラズマローゲンはDHAを持っており、人のプラズマローゲンと同じ分子種だった。認知症のモデルラットを使った、ホヤのプラズマローゲン投与実験も行われており、「このエタノールアミン型のプラズマローゲンが認知症のかぎになる可能性が分かってきた」と話した。
最後に宮澤氏は、「今行われているような食べ物の中の個別の成分分析も重要だが、同時に、1度にたくさんの分子が体に入った時の働きを予測するようなシステム開発が重要で、それこそがこれからの栄養学。将来、疾病予防の本体は、医薬よりも食になると思う」と話した。
HMTの亀谷氏が登壇、「機能性素材の新たな開発アプローチ」などを紹介
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ㈱取締役の亀谷直孝氏が「機能性素材の新たな開発アプローチ及び未病・健康評価におけるバイオマーカーの展開」をテーマに講演した。

同社は、先端研究開発支援事業とヘルスケア・ソリューション事業を主軸に事業を展開している。先端研究開発支援事業によって最先端研究のブレークスルーに貢献し、ヘルスケア・ソリューション事業では、ヘルスケア関連企業が抱える研究課題の解決の貢献を目指している。このほど「目利き試験」の最新サービス「ヘルスクレーム予測パッケージ」の提供を開始した。
これまでメタボローム解析データは、大量のデータの利活用や解釈の点で難があったが、それを解消するためのサービスとして、すでに多くの食品メーカーや原料会社などかから引き合いがあるという。同サービスは、試験で得られた複数の代謝産物の代謝物変動情報から、独自のアルゴリズムを用いて機能・ヘルスクレームの予測を可能にしている。また、同サービスでは、少人数での臨床試験でも有用なデータを取得することができるため、今後、本臨床試験前のプレ臨床試験において重要な位置付けになると期待している。
同サービスによって、小規模でのヒト試験で取得した代謝物質変動情報を、同社独自のアルゴリズムを用いて代謝物解析(水溶性・脂溶性1100成分のライブラリから検出された成分)し、摂取前後で有意差のある代謝物についてヘルスクレーム予測の解析を実施する。これにより、「素材の持つ機能性や摂取効果」を推定でき、効率的かつ早期に「ヘルスクレーム予測」を行うことができる。
また、同パッケージで得られた結果を基にポイントを絞った機能性評価試験の実施やヒト本試験と進めていくため、効率的な機能性評価試験を実施することができ、開発時間の短縮、コストの圧縮も可能になるとしている。
亀谷氏は、「食品や化粧品分野における機能性素材開発では、効率化と高付加価値化が重要なテーマとなっている。『ヘルスクレーム予測パッケージ』やバイオマーカーを用いた健康評価法などを通じ、『勝ち筋』に導いていきたい」と話した。
【藤田 勇一】
(下の写真:記念講演には約40人が参加した)
