寄稿 健康食品の崩壊性テスト結果について
島根大学医学部附属病院臨床研究センター センター長・教授 大野 智 氏
<国センのテスト結果から見えること>
医薬品が効果を発揮するためには吸収、代謝、分布、排泄のステップが確実に行われる必要がある。その前提として、口から投与(内服)される医薬品は、消化管(胃・小腸)で適切に崩壊し、有効成分が溶出してこなければならない。これは錠剤やカプセル状の健康食品であっても同じである。
(独)国民生活センターは8月1日、錠剤・カプセル状の健康食品を利用するに当たっての留意点などの情報提供を目的に実施した「消費者へのアンケート調査」、「市販されている商品に関するテスト」の結果を公表した。
過去1年間に錠剤またはカプセル状の健康食品を摂取している人を対象に、インターネットによるアンケートを実施(有効回答数1万168人)したところ、錠剤・カプセル状の健康?品に対して、厳格に製造され品質が安定していると回答した?は74%にも上った。
しかし、消費者の期待とは裏腹に、市販されている錠剤・カプセル状の健康食品100銘柄について崩壊性を調べたところ、42銘柄が医薬品に定められた規定時間内に崩壊しなかったことが明らかになった。さらに、消費者が利用途中の健康食品を収集し、同様に崩壊性を調べたところ、64商品中32商品が医薬品に定められた規定時間内に崩壊しなかった。
「医薬品に定められた規定時間内に崩壊しなかった」とは、どういうことを意味するのであろうか。医薬品であれ食品であれ、効果や機能性を発揮するためには、消化管から有効成分・機能性成分(機能性関与成分、栄養成分など)が吸収されなければならない。そして、代謝、分布を経て最終的に体外に排出される一連のステップが、薬物動態学として重要になってくる。
しかし、今回の崩壊性テストの結果は、消化管から吸収されるという薬物動態学の最初のステップを考える以前に、そもそも十分な量の成分が人体に投与されていないことと同義であると言って差し支えない。
つまり、消費者が利用目的として挙げている、足りない栄養素を補給することもできなければ、さまざまな機能性を発揮することもできないことを意味することになる。また、消化管から吸収されず、消化管内で機能性を発揮する成分であっても、崩壊性テストに問題があれば、当然、機能性は発揮できない。
<愕然とさせられた「業界の意見」>
これらの調査結果に対して、(一社)健康食品産業協議会による「業界の意見」が(独)国民生活センターのサイトに掲載されている。崩壊性テストに関するものを一部紹介する。
・錠剤・カプセル状の健康?品などは?品であり、医薬品とは異なる判断をする必要があります。本報告書については、消費者に医薬品として誤認を?じさせる可能性があるため、より丁寧な表現が必要であると考えています。
・崩壊試験は?品に義務付けられた基準はありません。そのため、各企業が製剤特性や原材料特性などから各企業のルールに基づき崩壊性試験の?法や時間設定などをしています。医薬品で?いる?法を?律的な基準で?品においても利?することは、正しい情報を消費者へ提供していないと考えられます。もう少し丁寧な報告が必要であると考えます。
・崩壊試験の結果において、医薬品と同等の評価でなければならないような報告に?えてしまい、消費者に誤認を?じさせていると考えています。適切な表現で報告する必要があります。
・お客様が利?途中の健康?品についての崩壊性を調べていますが、開封後についてはお客様のお取り扱いなどの影響もあるため、?概に製剤だけの結果で判断はできないと考えています。開封後の取り扱いを理解した上でその内容を踏まえて評価・検証する必要があります。
筆者は、これらの意見を読んで、健康食品業界の品質管理に対する姿勢に正直愕然とした。報告書の内容が消費者に対して「健康食品を医薬品として誤認を生じさせる可能性」などについて指摘しているが、論点のすり替えにしか見えない。多くの消費者が、錠剤・カプセル状の健康?品は厳格に製造され、品質が安定していると捉えていることは、今回の調査によって明らかになったことである。報告書によって消費者が改めて誤認や誤解をするとは、とても考えにくい。
また、利用途中の健康食品の品質管理についての意見は、消費者に責任転嫁をしているかのような論調に受け取れる。そもそも企業の方が、消費者の利用環境を踏まえて、品質管理に配慮すべきではないだろうか。
全体の論調としては、崩壊性テストなどの品質管理に企業自らが積極的に取り組むつもりはないことを意思表示しているような印象ですらある。
あくまで私見であるが、今回の崩壊性テストとの結果を踏まえ、企業が取り得る選択肢は2つあると考える。
1つ目は、健康食品は錠剤やカプセルなどの形状であっても、医薬品ではないため品質は保証されていない点を企業自らが消費者に対して周知徹底していく。間違っても「高品質」などといった、消費者が誤認・誤解するような表現は商品に用いない。また、品質管理が不十分であるならば、薬物動態学的観点から機能性の表示は行わない。
2つ目は、消費者の期待に応えるべく、崩壊性テストをはじめとした品質の安定化に努める。その上で薬物動態学観点を踏まえ、適切な機能性の表示を行う。
どちらの選択肢を取るかは企業自身が決めることであるが、筆者としては多くの企業が2つ目の選択肢を取ることに期待したい。
※詳細は「Wellness Monthly Report第17号」(11月30日発刊号)に掲載。