寄稿 「乳酸菌信仰」からの脱却を
(株)光英科学研究所 代表取締役 村田 公英 氏
<「乳酸菌入り」をうたった商品>
「乳酸菌は体に良い」という漠然とした感覚が、一般消費者の間で広がっている。そうした宣伝によって、ヨーグルトをはじめ、サプリメント、飲料、菓子など、乳酸菌を配合したさまざまな食品が開発され、市場が拡大してきた。健康食品の業界紙によると、乳酸菌の機能性研究も多様化が進んでいるという。
しかし、実際にスーパー店頭やインターネット通販を見ると、業界紙が報じるほど、あらゆる食品で乳酸菌の利用が進んでいるという実態を感じることができない。乳酸菌そのものだけでは体感が期待できないことから、商品を発売したものの、継続的な販売に繋がっていかないのが現状である。
そうした状況を踏まえ、これまで「生きて腸まで届く乳酸菌」とうたって販売していた乳業業界も、生きた菌を殺した殺菌乳酸菌を生産・販売するようになった。殺菌乳酸菌はサプリメントや飲料などへの添加で扱いやすいという利点があり、菌数もより多く添加できるため、多ければ多いほど機能性に対する期待も高まるはず、といったところとみられる。その生産量についてもバブルの状態を呈している。しかし、体感が望めないため、バブルがはじけるのも時間の問題と考えられる。
<抜け落ちた重要な理論>
10年前、某ビールメーカーと商談し、最終的に交渉は成立しなかった。その後、このビールメーカーは老舗乳酸菌飲料会社を吸収合併したが、販売する商品は乳酸菌そのものに留まり、代謝産物である乳酸菌生産物質へと進化せず、やはり壁を越えることはできなかったようだ。
その背景には、乳酸菌の働きを熟知せずに、メカニズムを誤解したまま理解しているという世界的規模の「乳酸菌信仰」がある。壁を乗り越えるためには、乳酸菌の働きに真摯に向き合い、正しく理解し、その信仰から脱却する必要がある。
乳酸菌に対する一般消費者や大多数の識者の考え方はどうか。摂取する食品に乳酸菌が入ってさえいれば、健康に役立つと単純に思い込んでいるのではないかと思われる。一般消費者は学説に触れる機会も少なく仕方ないとしても、識者も論文で勉強した程度の知識の場合には、正しく理解できていないのではないか。なぜなら、乳酸菌が作り出した代謝物質こそが健康に作用するという理論が抜け落ちているからである。困ったことに、大切な理論が抜け落ちた学説が今では通説となり、絶対的な情報として受け入れられてしまい、信仰と化している。
長年にわたって自分自身の手で乳酸菌を培養した研究者なら、ヒトの腸内で外部から注入された乳酸菌が定着するどころか、発育・増殖することでさえも不可能であることを理解できるはずである。
なぜ、前述したような宣伝文句や広告表現がまかり通るのだろうか。近代科学の進歩にブレーキをかけるものの正体は、「乳酸菌信仰」以外の何者でもない。乳酸菌信仰に巻き込まれた一般消費者は、自身の健康に役立つと期待できない乳酸菌を飲まされ続けているのが現状である。
※詳細(全文)は『Wellness Monthly Report 第17号』(11月30日発刊号)に掲載。