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唐木名誉教授「巡る検討会」傍聴記 【寄稿】小林製薬「紅麹サプリ」をめぐる事故の原因は?

 機能性表示食品制度が事業者の届出だけで国の関与がないためとする論調が広がったためか、消費者庁は専門家による「機能性表示食品を巡る検討会」を設置した。予定されている6回の会合の内、4回は関係者のヒアリングを実施して5月末までに「今後のあり方に関する方向性」を提示する。委員は9人で、座長は法学系だが、残りの8人は医学・薬学系である。
 この検討会に違和感があった理由は、今回の事故の原因は製造中に異物の混入があった可能性が高いことにある。そうであれば、これは製造工程の問題であり、届出という制度上の問題ではない。この違和感は委員にも共有され、審議は届出制度以外の問題に集中した。

 なお検討会では「委員」ではなく「構成員」と呼んでいるが、ここでは分かりやすい「委員」の用語を使用する。4月19日に第1回、23日に第2回検討会が開催されたので、傍聴した感想を述べたい。

第1回検討会における委員の意見

 第1回は事務局による機能性表示食品制度の説明に半分の時間を費やし、残りの半分は各委員の意見陳述にあてた。委員の意見をまとめると次の4点である。
①紅麹サプリに医薬品ロバスタチンが含まるのはおかしいのではないか
②紅麹問題は異物混入によると考えられるので製造工程にGMPを義務化すべき
③健康被害情報の報告の時期、方法などについて詳細を示すことが必要
④機能性表示食品を厳しく規制をすると、規制がない「いわゆる健康食品」に逃げるので、現実的な水準の厳しさを求めるべき。制度の見直しは錠剤・カプセル形状のサプリに絞るべきではないか。

第2回検討会における委員の意見

 続いて第2回検討会の内容は以下のとおりである。
①事務局(消費者庁)から、紅麹製品に医薬品が含まれていた件について、イカやタコに医薬品であるタウリンが含まれているのと同じで、食品として食経験があるので問題はないという説明があった。
②食品安全委員会は、健康食品は法律上の定義がないこと、サプリ形状のものは成分が濃縮されるのでリスクが高いこと、事業者の自己管理で製造され、消費者は自己判断で摂取するので、リスクを周知すべきと発言した。
③(一社)健康食品産業協議会は、検討会の議論はサプリに限定すべきとして、諸外国ではサプリの定義が法令化されているので日本でも府令レベルでいいのでそうすべきこと、製造工程でのGMP義務化、そして企業による健康被害情報の報告要件を明確化することを求めた。
④(公財)日本健康・栄養食品協会は、原材料の安全性は自主点検で第三者評価がなく、事業者間でばらつきがあること、GMPを推奨すべきだが第三者認証で行政の関与が不明確であり、原材料製造工程では採用が少ないこと、健康被害の判断と公開基準が不明確で風評の恐れがあるのでガイドラインが必要であることなどを述べた。
⑤(一社)全国消費者団体連絡会は、機能性表示食品制度は国の審査がない事業者の利益を優先した届出制であり、安全性への懸念があること、制度を見直して安全性に問題がある製品が今後一切世に出ることがないよう措置を講ずるべきことなどを述べた。
⑥主婦連合会は、機能性表示食品制度は規制緩和の誤った政治主導によるもので、経費がトクホより各段に安直・安価で多くの企業が参入したこと、サプリ形状の健康食品は過剰摂取が可能なので国のチェックが必要であること、制度は内閣府令(食品表示基準)ではなく法律に位置づけて安全、品質、機能の担保、健康被害情報の報告と公表の義務化、違反した場合の罰則導入などが必要と述べた。
⑦(一社)Food Communication Compass(FOOCOM)は、サプリ形状の食品の食経験を厳しく見直すこと、製造工程管理にGMPを義務化し、原材料の安全性に関する規定も設けること、被害情報の判断基準を明確にして速やかな報告を義務化すること、事業者の倫理観を求めるだけの制度には限界があり抜本的な見直しが必要なこと、医薬品成分を含む場合は新たな規制が必要なことなどを述べた。
⑧最後に座長から、検討会では安全性の確保と被害情報の届出に限定して検討すること、そのためには食品衛生法だけでは不十分であり、表示基準の法令化が必要であるとの見解が示され、委員からも「サプリメント法」(サプリ法)が必要との意見が出された。

 これで検討会の方向がほぼ明らかになった。GMPの義務化による機能性表示食品の安全性の強化、そしてガイドラインによる被害情報届出の明確化である。そして最大のリスク要因は錠剤カプセル形状のサプリであり、その厳しい規制が必要だが、すると問題は機能性表示食品に留まらず「いわゆる健康食品」、すなわち一般食品にも広がる。これに対処するためには新たな「サプリ法」により保健機能食品以外での錠剤カプセル形状の使用を禁止するなど規制の範囲を明確にすることが必要になる。「サプリ法」の必要性は以前から議論されてきたが、公式の場で踏み込んだ議論が行われるのはおそらく初めてであり、5月末に予定される提言を見守りたい。

(冒頭の写真:東京大学名誉教授・唐木 英明 氏)

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