行政処分取消訴訟「だいにち堂」「ティーライフ」(後) 健康食品広告・表示の「判例」解説(7)
堤半蔵門法律事務所 弁護士 堤 世浩(つつみ せいこう)
第2ティーライフ㈱「メタボメ茶」
概 要
ティーライフ㈱(以下「ティーライフ」という。)は、「メタボメ茶」というポット用ティーバッグ(以下「本件商品」という。)を販売しているところ、
カタログ通販業者㈱ベルーナの販売する商品に同梱する方法によって、「中年太り解決読本」と題する本件商品の広告冊子を配布した(配布部数は合計175万8000部)。その内容は概要以下の通り(以下「本件表示」という)。
・表表紙の上部には「中年太り解決読本」という表題、その下には、同じ服装を身に着けた太った体型の暗い表情をした女性のイラストと痩せた体型の明るい表情をした女性のイラスト。「もう一度、あの頃のスリムな私に!」「メーカーシェア日本一の中年太りサポート茶とは!?」との文章も掲載。
・漫画部分は、中年太りに悩む59歳の女性キャラクターがメタボメ茶を紹介され、これを日々の食事とともに毎日摂取すること等により、体重が減少して体型の変化を遂げたというストーリー。
・ティーライフ従業員らがメタボメ茶を摂取した際の体験談
・裏表紙部分には、中央に「メタボメ茶で大違い」との文章、右側には「まだ、飲んでいない人」との文章と共に 比較的太った体型の女性の画像、左側には「飲んでいる人」との文章と共に比較的痩せた女性の画像。
これに対し、消費者庁長官が、本件表示は法7条2項に基づき優良誤認表示とみなされるとして2021年3月23日付で措置命令を行ったため、その取消を求めて提訴されたのが本件である。
争点・判断
(1)だいにち堂同様、法7条2項(不実証広告規制)の要件を満たすか、すなわち次の①②の要件が認められるかが主な争点となった。
①消費者庁長官が、事業者のした表示が優良誤認表示に該当するかを判断するために資料提出要求をする必要があると認めたことが相当であること
②事業者が期間内に合理的根拠資料を提出しなかったこと
また、本件では、本件各表示が本件商品の効果・性能等についていかなる内容を表示しているかについても争いがあったので(ティーライフ側は、本件各表示は本件商品を摂取するだけで著しい痩身効果を得られる旨を表示するものではなく、本件商品を摂取することに加えて食生活の見直しや適度な運動を取り入れることにより、痩身効果の促進作用が得られる旨を表示するものと主張)、その点も上記①②検討の前提として争点となった。
⑵ 東京地裁(2022年4月28日判決)は、まず本件各表示(冊子)がいかなる内容を表示するものかにつき「一般人において、漫画部分を中心に本件各表示を全体としてみた場合には、本件各表示は、本件商品を含むメタボメ茶が「中年太り」を解消するための特別な茶葉を用いた商品であって、それ自体に大きな痩身効果があるとの印象、認識を持つに至ることが認められる。したがって、本件各表示は、メタボメ茶を摂取することにより、これに含まれる成分の作用によって著しい痩身効果が得られるかのように示す表示である」と認め、ティーライフ側の前記主張を認めなかった。
その上で、①については消費者庁長官の判断は裁量権の範囲を逸脱・濫用するものではないとして相当と認めた。
②についても、裁判所は各提出資料を丁寧に分析。たとえば、ティーライフが提出した実証試験論文に関しては、同試験では一定の運動プログラムを行いながらメタボメ茶を摂取する群(A群)、メタボメ茶のみを摂取する群(B群)、プラセボ品(麦茶)のみを摂取する群(C群)を設定し、無作為化並行群間比較試験が実施されているところ、裁判所はA群(運動+メタボメ茶)とC群(プラセボ品)との群間比較につき、A群とC群との間における各項目の変化が、専ら運動プログラムの実施によって生じた可能性を排除できておらず、そもそもメタボメ茶が痩身効果に寄与しているか否か明らかでないなどと指摘している(詳細は割愛)。最終的に各提出資料いずれも合理的根拠資料には該当しないとして要件②を認め、措置命令は適法と判断した(控訴なく確定)。
(了)
<筆者プロフィール>
堤半蔵門法律事務所代表(東京弁護士会所属)
一橋大学大学院法学研究科修了。2008年弁護士登録。経歴・所属:東京簡易裁判所司法委員、東京弁護士会食品安全関係法制研究部会。取扱分野:企業法務・ベンチャー法務、契約法務、労務、M&A・アライアンス支援、上場準備支援
講師・執筆:東京弁護士会主催「食品企業コンプライアンスの実務・最前線」講師、コラム「健康食品広告・表示の『判例』解説」執筆(Wellness Daily News)。