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低レベルの研究レビューを採用しないこと 【機能性表示食品特集】施行当初に比べて質の低下目立つ

㈲健康栄養評価センター 代表取締役 柿野賢一氏

伸び悩む認知度

 機能性表示食品制度も9年目となった。消費者庁の調査によると、機能性表示食品の一般消費者への認知が伸び悩んでいるという結果が出ていることは残念だが、特定保健用食品(トクホ)の時もそうだったように、どうしても時間がかかるのだろう。届出件数が毎年着実に増え、機能性表示食品のアイテム数が増えれば当然「市場」自体は拡大するものと思う。

 一方、機能性表示食品の各アイテムで売り上げ拡大するかは、届出以前の各企業の開発戦略・販売手法次第ではないか。健食留意事項の改正(2022年12月)や景品表示法の改正(23年5月17日公布)など、以前にもまして広告表現に制限がかかってくることは、売上や消費者認知の足かせにはなっていくと思う。販売事業者や広告代理店は、常に最新の法規制を熟知し、その上で正しく広告表示して、売上が伸びる新たな手法を業界全体で切磋琢磨し開発していくとよい。

科学的根拠の質高めるために

 表示しようとする機能性の科学的な根拠の質は、残念ながら十分ではない。このことは消費者庁の検証事業などから明らかになっている。施行当初も十分ではなかったが、残念なのは、その頃と比較してもさらに質の低下が目立つ点である。すべての届出アイテムのうちの約95%が研究レビューを機能性の根拠資料としているが、過去の検証事業報告書や事後チェック指針にも照らし合わせて批判的にチェックすると、問題のある研究レビューが増えている。単なる広告資料の延長と割り切ってレビューしているのかもしれないし、届出事業者との契約の関係上、批判的な吟味ができなかったのかもしれない。

 他社の研究レビューを用いて届け出る場合は、届出者は「多数の企業が受理されているから、大丈夫だろう」と簡単に思わないでほしい。魅力的な機能性表示なのかもしれないが、わが国を代表する大企業が科学的質の低い研究レビューを行っている事業者の資料を採用した結果、多数の中小企業・小規模事業者もそれを安心して採用してしまい、現在の質の低下を招いていると思われる。他社の研究レビューを採用する場合は、届出者自身が再度論文の1報1報と研究レビュー記載内容とを見比べ、事後チェック指針にも照らし合わせて、レベルの低い研究レビューを採用しないようにしなければ今の状態は解決しないと思われる。

 まもなくPRISMA声明が更新されるが、PRISMA 2009で重視されたエビデンス総体における「質」の評価から、PRISMA 2020では「確実性」の評価への変更が最も重要なポイントとなる。これにより、従来「結論ありき・魅力的な機能性ありき」のロジック展開をしてきた届出者においては、「機能性の根拠となる効果指標で、少なくとも査読付き論文1報で群間有意差があったことから機能性の根拠とした」という従来の研究レビューのロジックだけでは確実性の説明がつかなくなる。つまり、「エビデンス総体の確実性として効果の推定値に強い確信があることから機能性の根拠とした」と本当に記載できるのかが問われると思われる。

事後チェックの運用状況定期的に公表すべき

 消費者庁による届出資料の形式確認のポリシーが、時間軸や担当官の考え方(個人差)により異なっている点は施行当初から変わっていない。この形式確認作業を複数の民間団体に委託するという話があったが、民間団体による形式確認は、利益相反の問題を完全には払拭できないと思われ、一層複雑になることが予想される。それよりも重要なのは、この制度の本質が「形式確認=届出完了(公開)」ではなく、「届け出後監視=事後チェック」に置かれている点である。

 消費者庁表示対策課は以前、事後チェック指針施行(2020年4月)以降に届出公開した案件は全て並行して事後チェックしていると説明したと思うが、だとすると、それ以降に届出公開していて撤回されずに販売継続中で、措置命令も出されていない届出番号の公開資料は、全て表示対策課による事後チェックによって「問題なし」と判断されたものと言ってよいのか?事後チェックはどこまで進んでいるのか?この制度の本質である事後チェックの運用状況については定期的にコメントを公表した方がいい。

柿野賢一氏プロフィール
1989年九州大学農学部畜産学科卒業
医薬品非臨床試験受託研究機関(GLP機関)入社
2001年健康栄養評価センター代表就任
2004年法人化㈲健康栄養評価センター代表取締役就任
2002~2013年 九州大学大学院医学研究院予防医学分野※研究分野 疫学
博士(医学)/九州大学
鹿児島大学理学部非常勤講師(2008年)
健康生きがい学会理事(2011年~)
ナチュラルメディシン・データベース研究会コーディネーター(2012年~)
機能性表示食品普及推進協議会副会長(2019年~)
所属学会:日本癌学会、日本栄養改善学会、Antioxidant Unit研究会、日本実験動物協会

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