事後チェック指針は事前にチェック
これからも続く改正
㈲健康栄養評価センター 代表取締役 柿野 賢一 氏
消費者庁のチェックがゴールではない
機能性表示食品制度がスタートしてまもなく7年を迎える。届出者は届出ガイドライン等に示された内容に従って資料を準備し、届け出るわけだが、すんなりと届出完了するわけではなく、かなりの場合差し戻されている。これが事業者にとっては「第1の壁」である。
届出者は何度か差し戻されながら、その都度適切に修正し、何度かの再申請を経て、めでたく届出完了することとなる。
もちろん、届出完了は喜ばしいことである。しかし、届出ガイドラインには「消費者庁食品表示企画課において届出資料の確認を行い、形式上不備がないことを確認できた場合、速やかに受付完了メールにて届出番号を送信する」と明記されていることから、消費者庁の立ち位置は、あくまで「形式上の不備チェック」に過ぎないということを忘れてはいけない。
本制度の生命線は、この「消費者庁による形式上の不備チェック」をクリアすることではない。むしろ届出完了し消費者庁ウェブサイトで情報開示された後にこそあり、競合他社やアカデミアを含む第三者による厳しい「事後チェック」にあることを届出者は忘れてはいけない。
変化し続ける制度に適応
さらに、届出ガイドラインや質疑応答集は制度の運用中に明らかとなった歪みや問題点等に対応するために、1年に1~2回改正されている。
つまり、本制度はたとえ届出完了し、めでたく販売開始された後でも、頻繁に更新され、変化し続けている中で、常に制度に適合し続けなければならないわけだが、いったん届出完了し、販売を始めると、届出者は安心してしまい、緊張感を失いやすい。
もし、販売中に届出資料が制度に適合していないことが発覚して問題となれば、その届出は撤回を余儀なくされ、最悪の場合、大量の不良在庫を抱えることになる。これが「第2の壁」である。
しかし、当初はこの不適合ラインが具体的に明記されていなかった。そのことが製造販売する事業者の事業活動を委縮させていたため、機能性を裏付ける科学的根拠について、どのような場合にその科学的根拠を欠くものに当たるかを消費者庁は事後チェック指針で示し、2020年4月1日より運用を開始した。
「事後チェック指針」が公表されてから1年以上が経過した。しかし、全ての届出者や研究レビュー作成者が事後チェック指針に照らし合わせて厳しくチェックを進めているとまでは言えない。本指針に抵触している根拠情報が多く存在していることは否めない。
主要アウトカムと副次アウトカム
特に目につくのが、機能性の根拠とすべき主要アウトカム評価項目(通常1つを設定)の有意な結果が不足(つまり副次アウトカムのみで有意な場合)している資料、主要アウトカム評価項目が複数設定され、一部のアウトカム指標のみで有意な結果の際、その関連性を踏まえた説明が不足している資料などである。
主要アウトカムと副次アウトカムの意味合いの違いについては、多重性の問題と共に検証事業報告書(「機能性表示食品」制度における機能性に関する科学的根拠の検証-届け出られた研究レビューの質に関する検証事業報告書、機能性表示食品制度における臨床試験及び安全性の評価内容の実態把握の検証・調査事業報告書/消費者庁)に詳細に指摘され、なぜ問題となるのかについて解説されている。
過去の届出の見直しが必要
そのほか、機能性表示に用いられた評価指標について、日本人において妥当性が得られ、かつ、当該分野において学術的に広くコンセンサスが得られていることの説明が不足している資料も多く見受けられる。
この部分は、過去の届出においてはさほど深く指摘されてこなかったが、現在は差し戻し理由としても頻出されており、過去に届出完了した事例についても改めて確認したほうが良さそうだ。事後チェック指針は事後(届出完了後)に確認すればよい指針と勘違いしている届出者もいるようだが、この指針はあくまで「事前にチェックすべき指針」であることを忘れないでほしい。
「SPIRIT 2013」準拠も必要
さて、現在の事後チェック指針の重要な箇所は、過去の検証事業報告書を根拠にしていたことを考えると、事後チェック指針は今後もおそらく改正され続け、そして、過去の各種検証事業報告書の指摘内容のうち、未対応の部分が随時盛り込まれるものと思われる。
過去の各種検証事業報告書の内容から想定して、今後要注意なポイントとして、臨床試験の試験計画のコンプライアンス、例えばSPIRIT2013に準拠しているかが問題となるのではないか、と筆者は思っている。
本制度における「臨床試験(ヒト試験)」はランダム化並行群間比較試験の研究デザインが基本だが、これは適切に計画・実施・報告された場合にのみ信頼性が担保できる。今後は、すでに要求されている「UMIN臨床試験登録システムへの事前登録内容との整合性」、「CONSORT2010」への準拠に加え、過去の検証事業報告書にすでに指摘された通り、「SPIRIT 2013」に基づいて研究計画を立てることが要求されるのではないか。
「SPIRIT 2013」では試験計画のコンプライアンス確保のため、非常に詳細なプロトコルが求められており、これに従うことが最低限求められる可能性がある。このことは最終製品の臨床試験での届出に限ったことではなく、当然、研究レビューでの届出にも適用される可能性は否定できない。