久留米リサーチ届出支援の全貌(前) 【九州・沖縄】福岡県の機能性表示食品サポート戦略
福岡県バイオ産業拠点推進会議(会員数:2022年2月8日現在692)の事務局を務める㈱久留米リサーチ・パーク(KRP)。研究開発・製品化支援などを実施し、地域企業の支援を行っている。コンサルタント・柿野賢一氏とタッグを組み、機能性表示食品の届出支援を行っている。届出実績は県内26社152製品に上る(2022年5月末現在)。㈱久留米リサーチ・パーク(KRP)バイオ事業部の一木義治部長と㈲健康栄養評価センターの柿野賢一社長の対談を紹介する。(文中敬称略)
バイオに特化した支援を開始
柿野 久留米リサーチ・パーク(以下、KRP)の成り立ちについてお聞かせください。
一木 福岡県バイオ産業拠点推進会議を2001年に発足し、バイオに特化した支援を開始しました。当初、久留米大学のがんワクチンに関して、文部科学省の支援で11年間継続しましたが、地場企業の会員の中には、業務分野が創薬に関することだけではありませんので関心が薄れつつありました。そこで食品分野に目を付けました。
柿野 食品に着目した理由は?
一木 福岡県の工業生産額では輸送機械、鉄鋼に続き食品が2位です。雇用者数は食品が1位と、元々、食品分野の下地がありました。そこで、2015年4月に機能性表示食品制度が始まる1年ほど前から、関連情報を収集し、制度支援に合わせたかたちで準備を進めました。それまで福岡県では食品分野に特化した支援というのはなかったのですが、同制度に取り組む企業の支援をきっかけとして食品事業者の支援を開始することになりました。
柿野 私が県庁の方からお話を聞いたのがちょうど2014年のことです。一木部長がおっしゃったように、福岡県は雇用者数では食品が一番多いということで、国が立ち上げようとしている新しい制度、当時は「機能性表示食品制度」という名称はまだ決まっていませんでしたが、その制度が本当にきちんと機能するとなると、資金的に見て、特定保健用食品(トクホ)に手を出すことのできない中小企業や小規模事業者が利用できるようになる可能性が出てきます。これが実現すれば、制度を利用する福岡県内の中小企業の皆さんが自社の商品に付加価値を付けることができる。サポートしていただけないかというお話でした。
ただ、制度を支援するにはどういう形にすればいいのか、どういうスキームを作ればいいのか、当時はゼロベースの状態で、他の都道府県でも事例がありませんでした。
一木 当時、私は担当していなかったのですが、新制度はおそらく事業者が届け出をして企業の責任でやることになるというので、安全性や品質が大事になる。だから届け出を丸投げして、県がそれを請け負って代わりにやってあげるということは絶対にやるべきでないというスタンスでした。柿野さんに対しても、小規模事業者に対する教育ですとか、勉強会をして手順を踏んで、商品開発に至るというサポートをお願いしたのではないでしょうか。
人材教育重視の支援徹底
柿野 そうです。食品というのはどういうふうに品質管理しなければならないか、安全性を管理しなければならないかというところがまず大事なので、新制度にチャレンジすることをきっかけに勉強してもらった上での支援にしたいというお話でした。同時に、今後、機能性表示食品の開発に関わっていかれる可能性のある中小の食品事業者数十社の経営者の方と面談しました。
そこで、「もし新制度にチャレンジする際に県にサポートしてもらうことが出来るとしたら何をしてほしいですか」とお聞きしたのです。私としては、補助金がほしいとか、そういうお話になるのかなと思っていたのですが、そうではありませんでした。今後、どういう制度になるかも分かりませんでしたから、難しい制度になった時には勉強が必要になる。そうすると人材を育てるための勉強会が必要。そして自力では解決できないときのための相談窓口とアカデミアのサポートが欲しいという、具体的な要望でした。
例えば、一口に科学的根拠と言っても、安全性や機能性の科学的根拠を集めるのは社員ではできないため、そこをアカデミアの先生にも手伝っていただく。そういうサポートをしてくれれば、補助金を貰って終わりというのではなくなる。そういう意見が結構多かったので意外でした。
一木 実際に、KRPで支援制度を作るときには、やはり教育とか、勉強して制度を理解してもらうとか、そこに重点を置いたかたちで進めました。届け出自体も丸投げではなく、勉強した人がきちんと届け出をするというかたちを作るという背景があってやっていますから、今も県内で勉強会を継続しているのですが、1回2時間を 5回、合計10時間は必ず受講していただき、それでまずご自身で資料を作ってもらうというサイクルを繰り返しています。
柿野 どこがいけないかとか、どうしてはいけないかということを中小企業でも徐々にご理解いただけるようになりました。そこが多分他の県との違いですね。他県では、ある程度お願いしたら県がやってくれるみたいな、県に依存する度合いが強いように感じますが、福岡県は違う。そこが小規模事業者でもかなりの件数、届出公開につながっているところかなと思います。
――(編集部)単なる届出代行ではなく、導き役ということですね。そもそも、KRPさんと柿野先生の出会いとなったきっかけは?
柿野 私は元々、医薬品の安全性研究に携わった経緯があり、食品のコンサルタントとしても創業時から安全性を重視する立場ですが、先ほどお話した県庁にいらした方もそうでした。いざ新制度がスタートしたら、安全性は無視される可能性がある。特に、小規模事業者は直接売り上げには繋がらないためスルーしがち。だからこそ、安全性という軸を外すわけにはいかないと強くおっしゃっていましたね。
一木 そういうお話があったのですね。そして目利き事業を担っていただくことになりました。
充実した機能性表示食品支援制度
――支援の中身についてお聞かせください。
一木 福岡県機能性表示食品支援制度として、「相談窓口」、「目利き調査」、「届出支援」という事業スキームを組んでいます。相談窓口は1回約1時間、2回までは無料です。目利き調査も無料で約2カ月間調査を行った後、調査結果報告に基づいてシステマティック・レビュー(SR)を作成すれば十分に届出可能か、あるいは自ら臨床試験(ヒト試験)の実施が必要か、について見解を示します。SRと臨床試験は外部機関に委託していただきます。最終的に、届出支援のための資料全体の第三者的なチェックを行います。チェック期間は約1週間、1件あたり5万円(税別)で実施します。
届出支援のための資料全体の第三者的なチェックにつきましては、対象企業は、必ず消費者庁へ届け出る相談窓口の利用が必要で、研究会(勉強会)への全回出席を前提としています。
――支援するに当たっての課題は?
一木 前例のない新規の機能性関与成分や新規の機能性表示の場合、最終的に届出公開に至らない商品もあり、それをどうケアしていくかということでしょうか。相談窓口の件数は累積的に増えているのですが、未だに機能性表示に至ってないものをどうするかが課題です。
柿野 現在、5千件以上が消費者庁のホームページで公開されていますが、ほとんどは原料メーカーのSRを使って届け出られている商品ではないでしょうか。他方、KRPさんに相談が来るのは、どちらかというと自社で扱っている商品の中に自力で機能性関与成分を見出し、そこから届出へ向かうケースです。
そうなると、ベースとなるような作用機序を示すデータだったり、分析データなどがないところからの相談も多く、非常に時間がかかるのです。着実に前へ進む場合もあれば、調べれば調べるほど難しい案件もあり、なかなかゴールできない場合もあります。さまざまなケースの中で、成分の分析や作用機序などの基礎研究もそうですが、臨床試験をやれば必ず有意差が付くというような都合の良いことばかりではありません。
SRを目指して網羅的に調査しても、必ずこれといった既存論文があるわけでもありません。一木部長のお話にもありましたが、目利き調査から入り、調査の段階で必ずこれは申請できるとジャッジできるものでもない。こういう論文がありそうですよというところから文献調査に着手しますが、それでもやはり、これは病人を使った論文しかないということで止まってしまったりします。件数だけは確かに増えているのですが、何とかならないのかと悩んでいる企業も少なくありません。そこは調査を進めながら、なんとか頑張っていきましょうと励ましながら時間をかけて活路を見出しています。
(つづく)
<プロフィール>
柿野 賢一(かきの けんいち)氏
博士(医学)。1989年九州大学農学部卒。2002年から13年まで九州大学大学院医学研究院予防医学分野(専修)に所属。医薬品受託研究(GLP)機関の安全性評価業務を経て、2004年㈲健康栄養評価センター設立。機能性表示食品制度に対応した科学的根拠取得のためのコンサルティングをはじめ、消費者目線に立った健康食品・化粧品開発の企画立案、臨床試験の支援を得意とする。各大学・公設試験場との共同研究に関する斡旋・推進・管理業務も行う。講演・執筆多数。
一木 義治(いちき よしはる)氏
㈱久留米リサーチ・パークは1987年に設立した第3セクターで、各種の企業支援を実施。現在、福岡県内の企業を対象に、機能性表示食品開発支援を重点的に実施。これまでに県内の事業者26社152製品が同社の支援を受けて公開されている(3月31日現在)。同社の相談窓口は2回まで無料。相談時間は1回約1時間。届出に必要な研究レビュー作成のための目利き調査は、九州大学で行う。同事業は、福岡県バイオ産業拠点推進会議による事業で、久留米リサーチ・パークは事務局を担当。推進会議会員は3月末現在で700社。
【聞き手・文:田代 宏】
(冒頭の写真:左から柿野氏、一木氏)
関連記事:久留米リサーチ届出支援の全貌(後)