ケイ素含有食品に法違反の恐れ? 国民生活センター、「ケイ素」「シリカ」食品20銘柄を調査
「子どものアトピーに効くとの体験談を信じてケイ素水をネット通販で購入したが、効果がない」、「ケイ素のパウダーを飲み続けているが、何の効果もない。このまま飲み続けていても大丈夫なのか」――(独)国民生活センター(国セン、山田昭典理事長)にはこういった相談が過去5年半で429件、特に2021年度は前年の倍近い124件、今年度もそれを上回るペースで増え続けている。
調査対象は「ペットボトル」「濃縮液」「生成器」「健康食品」
「シリカ」や「ケイ素」は健康増進に役立つのか? 定期購入の増加などが原因で市場拡大が推測される中、国センでは2022 年 8月、ECサイトなどで販売されていたペットボトルタイプの「ケイ素・シリカ水」10銘柄、濃縮液3銘柄、生成器4銘柄、錠剤タイプの健康食品3銘柄を購入。9月~11月にかけて「広告表示」、「含有濃度・含有量」、「1日摂取目安量」などについて販売者等のウェブサイトも含めて調査した。7日、国セン東京事務所で記者会見を行った。
広告表示では、事実以上に健康や美容に効果があると強調し、積極的に摂取する必要があるなどと記載している商品が半数以上を占めた。
含有濃度に記載があるか調べたところ、商品本体や販売者のウェブサイトのいずれにも、商品のシリカやケイ素の含有濃度や含有量の記載が見られない銘柄があった。飲料水、濃縮液、健康食品については商品のシリカやケイ素含有濃度や含有量、生成器については調製した水の、シリカやケイ素の含有濃度に関する記載があるかを調べたところ、20銘柄中、濃縮液2銘柄、健康食品3銘柄には、商品のシリカやケイ素の含有濃度や含有量の記載が見られなかった。また、商品本体等に記載がなかったもののうち、健康食品2銘柄では販売者等のウェブサイトにもシリカやケイ素の含有濃度や含有量の記載が見当たらなかった。
含有濃度の記載が見られた濃縮液では、販売者のウェブサイトにおいて、シリカの濃度はケイ素の3倍近くにならなければおかしいのに、ケイ素濃度、シリカ濃度のいずれも同一の数値が記載されていた。「おそらくよく分からない担当者が記載したのだろう」(国セン)とし、生成器では含有量の記載とともに、公的な機関が出している規定の方法で分析した結果である旨の記載が見られたが、当該規定にはケイ素の分析方法は定められておらず、「正確性に欠けていると考えられた」(同)と述べている。
1日摂取目安量は根拠不十分
半数近くの銘柄で、商品本体か販売者のウェブサイトのいずれかに、商品または調製した水の1日に摂取する目安の量の記載があった。
飲料水、濃縮液、健康食品については商品、生成器については調製した水の1日に摂取する目安の量に関する記載を調べたところ、20 銘柄中、濃縮液3銘柄全て、生成器4銘柄中1銘柄、健康食品3銘柄全てに、商品または調製した水の1日に摂取する目安量の記載があった。また、19銘柄の販売者のウェブサイトを調べたところ、商品本体に記載がなかったもののうち、生成器 1 銘柄で記載があった。
飲料水10銘柄全て、生成器2銘柄では商品本体、販売者のウェブサイトのいずれにも目安量の記載はなかった。
そもそもケイ素は、人の体内の微量ミネラルとして、(国研)医薬基盤・健康・栄養研究所のHFNetでは、信頼できる有効性情報は見当たらないとされている。また、「日本人の食事摂取基準2020年版」では、「推奨量」、「目安量」、「耐容上限量」のいずれも設定されておらず、国際的にも科学的根拠が十分でないという理由でこれらの値は設定されていない。
昭和女子大学の梅垣敬三教授は、「ケイ素の摂取に関して、人における欠乏症があるのなら、必要量が設けられているはず。ケイ素にそれがないのは、現時点では不足や欠乏することがおそらくないと考えられているから」とし、「濃縮タイプの商品もあるようだが、消費者の中には成分の濃度などを意識せずに摂取されることがあり、摂取する成分の濃度(量)と頻度には注意が必要。全ての人に安全なものはなく、摂取した成分の影響を受けやすい人がいることも考えておくべき」と指摘している。
「栄養成分表示」欠落、食品表示法に抵触の恐れ
飲料水や濃縮液の中には、商品本体の栄養成分表示や原材料表示に不備がある銘柄があり、これらは食品表示法に抵触すると考えられた。テスト対象銘柄のうち、飲料水、濃縮液、健康食品の計 16 銘柄の商品本体等について、原材料や栄養成分、アレルギー表示など、飲料や食品として必要な表示があるかを調べた。
結果、飲料水1銘柄で栄養成分表示でナトリウムの記載があるにも関わらず、食塩相当量の記載がなく、濃縮液1銘柄で表示事項名が「原材料」や「原材料名」ではなく、「成分」と記載されており、ナトリウムや鉄といったミネラルが摂取できる旨が記載されているにも関わらず、栄養成分表示がないなど、食品表示法に抵触すると考えられた。
低濃度商品、食品表示法・景表法上問題も
ケイ素の含有や摂取をうたっていない市販のペットボトルのミネラルウォーター5銘柄を比較のために参考品として、テスト対象銘柄や生成器で調整した水のケイ素の含有量を測定したところ、ケイ素の含有や摂取がうたわれていない市販のミネラルウォーターよりもケイ素が多く含まれていた。しかし、ほとんどの銘柄で表示よりも含有濃度が低く、中にはケイ素の含有濃度が表示濃度よりも大幅に低い銘柄があり、食品表示法・景品表示法上問題となる恐れがあると考えられた。
また、テスト体操銘柄(500~600ml)1本を引用した場合のケイ素の摂取量は、日本人が1日に飲むとされる水道水が含むケイ素の量とほぼ同等だった。
「生成器」、「健康食品」におけるケイ素の表示濃度についても問題があった。健康食品では、記載されている1日に摂取する目安の最大量を摂取しても、ほとんどケイ素を摂取できない銘柄があった。
関係省庁に事業者への指導を要望
これらの結果を踏まえ、国センは国民に対して注意喚起を行うとともに、消費者委員会や食品安全委員会、業界団体などに情報提供を行い、消費者庁や厚生労働省に事業者への指導を要望している。
発表では、個別の企業名や商品名は公表されなかった。国センは、「関係省庁に対して情報提供は行っている」とし、今回は「ケイ素商品全般に関する情報提供が目的だったため非公表としたが、今後どうするかは少し考えさせてもらいたい」と付け加えた。
【田代 宏】
※シリカとは、狭い意味では二酸化ケイ素(SiO2)のことを指すが、各種のケイ酸(H2SiO3 等)およ
びケイ酸塩も含めることもあるという。
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(冒頭の写真:右から、国民生活センター商品テスト部・菱田和己部長、亀山美佳子氏、福山哲課長補佐)