キューサイ、新たな経営体制で2年超 「ウェルエイジングNo.1」掲げた佐伯澄社長に聞く、事業転換の手応えは?
1965年創業の九州通販企業の雄、キューサイ㈱(福岡市中央区)が生まれ変わろうとしている。インフォマーシャルを主体にした健康食品、化粧品の単品通販企業から「ウェルエイジング企業」に事業転換し、顧客層の拡大などを目指す。ゲームチェンジに向けた手応えはどうか。親会社が変わった後、2022年3月から同社を率いる佐伯澄代表取締役社長(=写真)に聞いた。
ゴールは着実に近づいている
──「ウェルエイジングNo.1企業」のビジョンを掲げての社長就任から約2年が経ちます。手応えは。
佐伯 もともとキューサイはテレビのインフォマーシャルを媒体にした単品通販がすごく強く、お客様の中心はシニア層。その中でわれわれは、年齢を重ねることを前向きに捉える「ウェルエイジング」を掲げました。
ゲームチェンジしようということです。情報が一方通行だとお客様も自分事化が出来ない。まずはそこを変えていく必要がある。それに、ケール青汁の製造販売を源流としてヘルスケア、スキンケアと事業を広げてきたキューサイは、エイジングに対して圧倒的なアセット(資産)を持っています。それはお客様という意味でも、商品開発という意味でもそう。それらをしっかり活用していく必要もある。そのようにしてウェルエイジングという新しい世界観を、幅広い年齢層のお客様に提案していけるようにしようと。
それを目指して約2年、走ってきた中で、お客様が何を求めているかを確かめるための解像度が上がってきました。エイジングは40、50代から始まりますが、その世代のお客様が増えてもいます。ゴールは着実に近づいている、という手応えがあります。
──キューサイが考えるウェルエイジングとは。
佐伯 端的に言えば、アンチエイジングの対極にある概念。エイジングに抗うのではなく、寄り添っていくこと。健康で、心も充実していれば、年齢を重ねることはネガティブなものではなく、喜びにもなっていく。いくつになっても「人生初」に取り組める。ウェルエイジングとはそうした世界観だと考えています。それを社会に浸透させ、それを支援する企業としてお客様からの信頼を得たい。インナーブランディングにも力を入れています。社員も若手を含め、ウェルエイジングを自ら体現しようとしています。
──人々のウェルエイジングを支援する。その中で核になる商材は?
佐伯 キューサイはヘルスケアやスキンケアを主力としており、ひざサポートコラーゲンやコラリッチはもちろん中核商材です。でも、それだけではないと考えています。ウェルエイジングを実現できるのであれば、扱う商品の垣根はいらないのではないか。そう考え、40代以上の層にウェルエイジングを自分事化してもらうための生活習慣を提案する記事と、昨年11月から取り扱いを始めていた生活用品、雑貨、家電などのECを連動させた『WELMAG(ウェルマグ)』というサイトをオープンしました。
記事では、人気クリエイターなどの生活習慣を紹介しています。その中には、お客様自身が「やってみたい」や「足りていない」と感じるものが必ずある。そのように自分事化していけることに対するお客様のニーズが今、すごく強くなっている。そうした記事などのコンテンツやメッセージとともに、エイジングを長年研究しているキューサイがレコメンデーション(推薦)するさまざまな商品を紹介するということをしています。
──ウェルエイジングを支援できる商材は健康食品や化粧品に限定されないし、商材だけでもないということ。
佐伯 究極的には、エイジングに関するプラットフォームがあってもいい。中長期的な取り組みとして、検討しているところです。そこへ行けば、エイジングに関するさまざまな情報を入手できる。また、個々のお客様のエイジングの現在地が分かるようにする。そうした測定サービスには、遺伝子検査サービスもあるのかも知れませんが、今考えているのは、睡眠の質だったり、腸内環境だったりを実年齢から測定し、個々のお客様に寄り添いながら生活習慣を提案していくようなサービス。例えば、今年1月に共同研究開始を発表した「エイジングに向き合う新サービス」がそれにあたります。九州大学のほか「久山町研究」を行っている研究所などと連携してエビデンスの取得を進めています。このサービスがスタートすれば、お客様のエイジング(状態)の解像度がさらに高まっていく。必然的に、われわれがお客様に提供する生活習慣に関するレコメンデーションの質も高まっていきます。来年にもサービスをローンチ(公開)する予定です。
売上高300億円、十分に射程距離
──ウェルエイジングの文脈で、ヘルスケア商品の顧客をどう増やしていきますか?
佐伯 ヘルスケアの視点から見たウェルエイジングの最大の魅力は、個々のお客様の年代に沿ったエイジングにおける課題や、それを解決したことで起きる顧客体験にずっと付き添っていけることです。その意味でも、年齢に抗っていくというアンチエイジングとは違う。
われわれのヘルスケア商品に『ひざサポートコラーゲン』(機能性表示食品)があります。インフォマーシャルの単品通販で売り上げを伸ばしたジャイアント商品で、今のお客様はシニア層が中心ですが、40、50代にも広げられるという仮説を立てています。コラーゲンを再定義すればいいのです。今、フィギュアスケーターの浅田真央さんを起用した新しい訴求開発やメッセージの打ち出しを行っています。「大人のひざに、ちゃんとコラーゲンを。」というメッセージを出しています。加齢とともに減少していくコラーゲンを40代から補っておくことで、60、70代のウェルエイジングにつながる可能性がありますし、ひざの曲げ伸ばしに違和感をお持ちの40代の方もいらっしゃるはず。私もそうです(笑)。
このターゲット年齢に宛てたメッセージの打ち出しは非常に好評で、実際に40、50代のお客様が増えています。そのため、シリーズで別の機能性表示食品を展開していくことを検討しています。ひざや関節、あるいは歩行などといった「ロコモ」の分野は、いろいろな角度から幅広い年代に提案できます。エイジングに関するアセットを持つキューサイらしい戦い方が出来るはずです。
──販路をドラッグストアにも広げているようですね。
佐伯 この2年でかなり拡大してきました。通販でしか購入できないと思われていたものを、どこでも買っていただけるようにするということ。今のお客様の顧客体験を考えると、購入チャネルは1つに完結されないし、一方通行の情報でも買わない。自分自身で確かめた確からしさをもって購入する時代が来ています。そうしたお客様に情報発信するためにSNSも活用しています。しかしそれは販促目的ではない。お客様の感情の振り子を揺らすためです。私はデジタルの世界で仕事をしてきましたが、SNSとは、お客様が商品購入に至る導線の中に組み入れておくべきものだと考えています。
──2026年度に売上高300億円の目標を掲げています。届きそうですか?
佐伯 十分、届くと考えています。繰り返しになりますが、商品をマルチチャネルで展開しつつ、キューサイはウェルエイジング企業であるという認知を高めていく。また、個々のお客様にハイライトを当てたワン・トゥ・ワンマーケティングを展開していく。そのために、この2年半でカスタマーデータプラットフォームをかなり作り込みました。ワン・トゥ・ワンは通販の勝ちパターンです。それに加え、中長期では、先ほどのプラットフォームの作り込みを進めます。繰り返しお買い上げいただける、繰り返し寄り添っていける。それが通販ビジネスの肝です。
──最後に、機能性表示食品のサプリメントに生じた健康被害問題について。消費者の信頼を取り戻すために必要なことは何だと考えますか?
佐伯 お客様起点に立ち返ることだと思います。「良い素材が見つかったから、こういう商品を作って、こう売ろう」ではなく、お客様起点で、お客様が求めているものを考えた上で、素材の選定、商品開発、製造、販売などを進めていくこと。その商品をお客様が本当に必要としているのであれば、今回のように報道されたとしても、お客様は離れていかないはずです。
──ありがとうございました。
【聞き手・文:石川太郎、取材日:2024年5月13日、キューサイ本社】
<プロフィール>
佐伯澄(さえき のぼる):1996年東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行、2005年住友商事入社。海外でのテレビ通販事業立ち上げ、仏合弁事業(流通・メディア事業)取締役、ニュージーランドの総合野菜果汁加工メーカーCEOを歴任。 住友商事退職後、AmazonのAmazon Fresh事業立ち上げを主導した後、18年8 月、㈱MOA(現XPRICE㈱)代表取締役就任。22年1月キューサイ取締役就任。同年3月より現職。
<COMPANY INFORMATION>
所在地:福岡県福岡市中央区薬院1-1-1
TEL:092-724-0831(代表)
URL: https://corporate.kyusai.co.jp/
事業内容:ウェルエイジング商品の開発・販売
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