エビデンス入門(47) 観察研究の意義
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科講師 竹田 竜嗣
健康増進機能をもつ食品の臨床研究については、機能性成分を含む食品を対象者へ摂取させる介入研究ばかりが注目されているが、観察研究と呼ばれる直接介入を実施しない研究も「食品成分の機能性研究」という側面で考えると重要性は高い。観察研究のイメージを聞くと、多くの人は「介入を伴わない研究」や「長い時間がかかる研究」などのように答える。生鮮食品を機能性表示食品として届出する場合は、観察研究も対象とすることができる。観察研究は、研究対象によっては、時間が必要であることや多くの例数を必要とする研究もある。今回は観察研究の種類と意義について簡単に解説する。
観察研究では、疾病の罹患や死亡といったイベントの発生を評価指標として集団ごとに比較する研究が多い。集団の設定はいろいろな側面で設定ができる。例えば、ある食品の摂取や栄養素の摂取と関連する研究の場合は、「前向きコホート研究」と呼ばれる、健康な集団の日常の食生活を追跡し、特定の栄養素や成分を多く摂取する集団とそうでない集団を設定する。その後、数年から数十年の期間にわたりこの2つの集団を観察する研究が、評価としては正確な情報を得やすいことから、よく用いられる。
「前向きコホート研究」は、時間やコストも多くかかる。そのため、国の大きなプロジェクトで実施することや、複数の研究者が集まって研究プロジェクトを立ち上げ実施することが多い。このほかにも「後ろ向きコホート研究」と呼ばれる観察研究もある。「後ろ向きコホート研究」では、特定の要因に暴露されるなどして介入を受けたような集団について追跡調査を行いながら、疾病の罹患率や死亡率を観察する手法だ。
「後ろ向きコホート研究」も、数年から数十年と追跡期間が長くなる。「前向きコホート研究」では集団の背景因子を考察しやすいのに対して、「後ろ向きコホート研究」では、暴露量が個人によって大きく異なる場合、暴露の定量的影響評価が困難である場合がある。
また、いずれの観察研究も直接の介入を伴わないため、個人の背景因子(年齢や生活習慣)が大きく影響することがあり、解析の際に考慮が必要になってくることもある。個人の背景因子の差を解析で考慮するためには、多くの観察例数が必要になりやすい。介入研究では、背景因子による影響を極力減らし、バイアスを少なくコントロールすることは可能であるが、観察研究ではバイアスの影響は、考慮しながら解析を行う必要がある。そのため、解析結果は、解釈が難しいこともある。
しかしながら、観察研究のメリットとしては、介入のように短期間でしか認められない事象だけでなく長期間の観察で評価ができる事象も存在することにある。世界には人の一生を追跡するような長期にわたる観察研究も発表されており、時間とコストはかかるが社会的意義の高い研究がいくつも発表されている。
(つづく)