どうなる食品添加物の不使用表示!?
ガイドラインで一定の改善効果!(後)
食品安全情報ネットワーク共同代表 小島 正美 氏
類型4は今後の監視いかんで実現か!
検討会でも議論になった「保存料不使用」はどうなるのか。これは、「保存料不使用」と表示しながら、日持ち向上目的で別の食品添加物(たとえば、アミノ酸のグリシンなど)を使うという消費者を小バカにした表示だ。この事例はガイドラインでは類型4に該当する。
この類型4を字義どおりに事業者が順守すれば、「保存料不使用」との表示はなくなるはずだ。
こうした無添加・不使用表示については、事業者は「食品添加物を不安だと感じている消費者のニーズに応じているだけだ」と答えるが、実際にそういうケースは少なく、消費者団体が行政や事業者に対して無添加表示を求めたという例を筆者は知らない。どうみても、事業者が商品を売るための販売戦略の一環として表示していると考えられる。だとすれば、消費者からも非難を浴びている「保存料不使用」表示がなくなるかどうかは、事業者の誠意ある実行力にかかっているといえる。
ただ、事業者の善意に頼るだけでは正しい表示は実現しない。この種のあくどい表示を見つけたら、素早く事業者や消費者庁に通報し、そうした誤認表示を変えていくよう消費者団体がしっかりと監視していくことが重要だろう。
食品表示基準で明確にすべき類型
10項目のうち、どの類型項目の改善が急務かに関しては、意見が分かれるだろう。大きな文字などで過度に「無添加」などを強調する表示例を挙げている類型10は、実際の適用の段になると混乱をもたらすかもしれない。「過度」の程度が判断する人によって、差があるからだ。
類型8の「食品添加物の使用が予期されていない食品への表示」も、予期されるかどうかは事前に皆で共有されているわけではないため、あいまいな要素を残している。
このように10項目の類型をどのように解釈するかで事業者の対応が変わってくるという課題は残されたとはいえ、10項目全体で不使用表示の現状に網を張れば、不使用表示の適正化にかなり寄与できるのではと考える。
10項目の類型の中でも、特に消費者の誤認を招くと思われる類型2・4・5のような表示は、事業者の勝手な解釈を許さないためにも、食品表示基準を改正して明確に規定することも必要だろう。
こうしてみると、3月末までに正式なガイドラインができたとしても、それがそのまま実行されるかどうかは、消費者団体などのアクションも含めた世論やメディアの監視と問題提起次第だろう。無添加・不使用を売り文句にしている一部生協のような組織がどう対応するかも注目したい。
表示の原点は何かを再考したい
最後に、表示の原点を再確認しておきたい。表示は言葉だ。言葉は人の意識や思考、行動を動かす力を秘めている。たかが表示と侮ってはいけない。「無添加」という表示の横行と繰り返しは、いつの間にか食品添加物に不安を感じる消費者を育ててきた。
これまで消費者庁や食品安全委員会は幾度となくリスクコミュニケーションを行い、リスクを正しく認識できる消費者の育成に努めてきた。その一方で消費者に誤ったリスク認知をもたらす無添加・不使用表示が横行してきたわけだ。この現状を黙認していく限り、せっかくのリスクコミュニケーションの努力は無駄になる。表示の改善を通じて、「科学の目をもつ消費者」を育てていくという原点に沿ったガイドラインの浸透を期待したい。
消費者庁は明日3月1日、ガイドラインの策定に向けて第8回「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン検討会」を開催する。
(冒頭の写真:小島 正美 氏)
<筆者略歴>
1974年愛知県立大学(英米研究学科)卒業。同年毎日新聞社入社。サンデー毎日を経て松本支局配属、1987年に東京本社生活報道部、199 7年同 部編集委員。2018 年退職。2015 年から6年間、食生活ジャーナリストの会代表。
<著 書>
『環境ホルモンと日本の危機 』(東京書籍)
『誤解だらけの遺伝子組み換え作物 』(エネルギーフォーラム)
『メディアバイアスの正体を明かす 』(エネルギーフォーラム新書)
『みんなで考えるトリチウム水 』(エネルギーフォーラム)など多数
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