「無添加」表示をめぐる攻防(前)
食生活ジャーナリストの会 代表幹事 小島 正美 氏
食品添加物の「無添加」や「不使用」表示に関する議論が消費者庁の有識者検討会で山場を迎えている。現在、無添加表示に関する規制はほとんどない。事業者の恣意的な表示で消費者に誤認を招いているケースがあるのも事実だ。今後、国として、どう是正していくのか。消費者と事業者のどちらの声を優先するかが問われている。
4回目が終了「無添加不使用検討会」
「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン検討会」(座長・池戸重信宮城大学名誉教授、委員11人)は今年3月に始まり、10月29日に第5回が開かれたが、まだ結論や方向性は示されていない。委員の構成は、消費者代表が3人、事業者代表が5人、学者が座長を含めて2人、弁護士1人だ。事業者の中には、無添加表示に批判的な「(一社)日本食品添加物協会」もあるが、事業者の多い今回の構成を見て、当初から「事業者の意向に沿ったガイドラインが出てくるのでは」との観測が流れていた。
今後の流れを占う上で、私なりに整理した議論のポイントは主に4つある。1つ目は、食品添加物の「無添加」や「不使用」の表示に対して、消費者の多くが「安全と感じる」や「健康に良さそう」と勘違いしている点(2020年度の消費者庁の消費者意向調査報告書)をどう改善していくか。2つ目は、「保存料不使用」と表示しながら、保存目的で別の添加物を使い、消費者を誤認させているケースをどう防ぐか。3つ目は食品添加物を使用せずに製造した場合に事業者の企業努力を「無添加」という表示でどこまで認めるか。4つ目は「食品添加物を避けたいという消費者がいる限り、無添加表示を合理的な選択情報としてどの程度まで認めるか。
消費者側の意見は概ね規制に賛成
以上、4つのポイントをめぐる攻防は第2回(5月31日)と第3回(7月21日)の議論にはっきりと見られた。検討会に呼ばれた事業者や消費者団体の参考意見も含めて考えると、消費者側は大筋で「消費者の多くは無添加表示を見て、安全で健康そうだと誤認している。これは消費者の食品添加物に対する科学的な理解を妨げている。合成保存料不使用と表示しながら、別の保存目的の添加物を使うのは消費者をだます行為だ」と無添加表示の規制に賛同した。
一方、事業者は利害もしくは利益により意見が分かれた。大雑把な括りだが、生活協同組合も含め、無添加や不使用表示で商品を訴求したい事業者は無添加表示に賛成。食品添加物の表示の誤解に苦しむ事業者または団体は、無添加表示の規制が必要だとの立場だ。
その具体的な例を示したい。日本香料工業会は、「香料の無添加・不使用の表示は、香料を使わないことが優れているかの印象を与え、香料に対する風評被害にもつながる」と規制に賛成。「化学調味料」が食べて危険かのような風評の解消に取り組んでいる味の素㈱も規制に賛成の立場だった。
これに対し、全国清涼飲料連合会は「『不使用』表示の一律禁止は、企業の取り組みを阻害する恐れがある。たとえばコーヒー飲料で、企業が長年の研究によって香料を使わずにできた努力の結晶はアピールしたい」と規制に反対した。「無添加」との表示でみそを製造販売している全国味噌工業協同組合連合会も「すでに消費者に認知されている」と規制に反対だ。
生協も賛成・反対の陣営に分かれた
面白かったのは生協間の対立だった。「パルシステム生活協同組合連合会」(事業エリアは1都12県)は、無添加や不使用表示の商品を売り文句にしているせいか、「仮に安全であっても、発色剤や増量剤、化学調味料などは、あたかも良い素材を使用しているかのような誤認をまねくものだ」(提出資料から抜粋要約)との理由から、規制に賛成できない立場を示した。一方、無添加を売りにしていない東都生活協同組合(本部・東京都世田谷区)は「ハムソーセージなどの食肉製品に『発色剤不使用』の表示はしていない」などの理由で規制に賛成だった。
(つづく)
<筆者プロフィール>
1951年愛知県犬山市生まれ。愛知県立大学卒業後に
毎日新聞社入社。松本支局を経て1987年から東京本社生活報道部で食の安全や健康・医療問題などを担当。2018年6月に退社。
現在は東京理科大学非常勤講師。食生活ジャーナリストの会代表。著書に「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)など多数。