食薬区分が25年の歴史終わらせる コウトウスギ販売会社、㈱紅豆杉・信川高寛社長
厚生労働省が昨年10月24日付で行った食薬区分の一部改正。健康食品に長年使われてきた植物由来原料の食薬区分が「非医薬」から「専ら医薬」に変更された。ウンナンコウトウスギ(以下、コウトウスギ)の心材である。1年間の経過措置期間が終わると医薬品医療機器等法で規制され、健康食品としての利用、販売が事実上、できなくなる。 およそ25年にわたり、中国・雲南省産コウトウスギの心材を使った健康食品を日本で販売してきた㈱紅豆杉(神奈川県相模原市)の信川高寛社長(元金沢医科大学教授=写真)は今、何を思うのか。同社の社長室で話を聞いた。
区分変更の理由、「納得は到底できない」
私が知ったのは改正案へのパブリックコメントが締め切られる2週間ほど前でした。厚労省からは何ら連絡がなかった。取引先から「こんなのが出ているが知っているか」と尋ねられて、慌てて意見を出しました。青天の霹靂。コウトウスギの心材は医薬品には当たらないという見解を厚労省から得られたため販売を始めていましたから。25年以上前のことです。それを勝手に変えられてしまった。
取引先に事情を説明しながら謝罪して回っています。取引先は全国のデパート(百貨店)。あとは薬局。全部で500店舗くらいでしょうか。インターネット販売でも1,300人くらい顧客がいます。取引先は付き合いの長いところばかりですが、いくつかの店舗はすでに販売をやめてしまいました。(経過措置期間が終わる今年)10月24日以降、販売できなくなることが分かっているのだから仕方ないです。購入してくれていた方々からも今後について問い合わせを受けています。しかし私が販売をやめたいと考えたわけではない。販売をやめざるを得ない事情を精一杯ご説明する以外に何もできません。
年商ですか ? コロナ禍で減りましたが昨年は回復して10億円を少し超えました。コロナ前の一番いい時で13億円ほど。それが10月24日以降はゼロになる。うちはコウトウスギのエキス粒(錠剤)とお茶(ティーバック)以外に売るものがありません。コウトウスギ1本でやってきましたから。社員には本当に申し訳なく思いますが、退職金を支払って会社は解散するしかないです。社員は多くありません。ちょうど10人です。エキス抽出も含めて製造は国内で行ってきましたから製造委託先にも謝らなければなりません。2社あります。10月23日までに全て終わらせるつもりです。
今でも納得していなし、非常に憤っている。怒りが込み上げてきます。政治的な意図があったのではないかと勘繰りたくなる。25年以上販売してきましたが、私の知る限り、健康被害は一度も起きていないのです。しかし厚労省はパブリックコメントの回答で、コウトウスギ茶の摂取による健康被害が国内で報告されている、と。その報告は秋田大学の先生が行ったもので、ちゃんと文献もあります。ただ、英語で書かれたその文献を見てみると、健康被害が認められたというコウトウスギ茶は「The tea brewed from the bark」と説明されているのです。
お分かりだろうと思いますが、「bark」とは日本語で「樹皮」です。しかしコウトウスギの樹皮の食薬区分は以前から専ら医薬(葉も同様)です。だから健康被害を起こしたとされるそのコウトウスギ茶は、個人輸入か何かで日本に持ち込まれたものだと考えられます。少なくとも私たちが売ってきたコウトウスギ茶ではない。当たり前ですが、樹皮ではなく心材(wood)を使っているからです。一体どういうことなのか。厚労省や食薬区分を審議する方々が「bark」の意味を知らないはずがありません。
食薬区分を変える理由としては他に、健康食品として25年の販売期間では「十分な食経験があるとは言えない」というのもありました。しかしそれを言うのであれば、ほかの健康食品はどうなってしまうのでしょうか。機能性表示食品でも、10年に満たない販売期間でも「食経験がある」と説明されているものがありますよね? コウトウスギの販売を絶対にやめさせたかったとしか思えないです。
医薬品成分のパクリタキセル 「含有量は極めて微量」
医薬品成分のパクリタキセルが心材にも含まれることが区分変更の最大の理由にされたと思います。ただ、樹皮や葉だけでなく心材にもパクリタキセルが含まれることは、私たちがコウトウスギを発売する以前から厚労省も分かっていたはずです。1996年、そのことを報告する論文が『FITOTERAPIA』(薬用植物に関する海外学術誌)に掲載されているからです。そもそも含有量は極めて少ない。だから当時、厚労省も医薬品に該当しないと判断したのだと私は理解しています。
実際、うちで販売している商品を分析すると、パクリタキセルにせよ、その前駆物質にせよ、検出限界以下です。また、食薬区分を審議するワーキンググループの先生方が所属する国立医薬食品衛生研究所が行った分析の報告でも、エキス錠剤では検出されず、茶形状の製品では検出されたものの検出量は1gあたり14.2μgであった、とされているのです。その分析結果に再現性があるのかどうか分かりませんが、いずれにせよ人体に影響を与えるような量ではない。そのように含有量は極めて微量ですから、これまでパクリタキセルの含有をアピールしながら販売したこともありません。むしろ私は、コウトウスギに含まれるリグナン(ポリフェノールの一種)に注目してきました。
いま72歳です。会社を設立したのは1977年。もともと生薬を輸入する目的で立ち上げました。コウトウスギの研究を始めてからは45年ほど経つと思います。私の専門は免疫学。研究医として主にやってきたのは補完医療とコウトウスギに関する研究です。医療を補完できるものの1つとしてコウトウスギに惚れ込み、主に金沢医科大学と北里大学で研究してきました。今でも北里大学や岐阜大学と共同研究しています。80歳まで仕事を続けるつもりでした。それがこんなことになってしまった。
国を訴えることを考えています。行政処分などされたわけではありませんから訴えること自体が可能なのかどうか微妙です。もし訴えることができたとしても、経過措置期間が終わるまでに販売をやめなくてはいけませんし、判決が出るまでに数年を要することになる。勝訴したとしても、お客が戻ってくる保証はどこにもありません。だから訴えを起こすことに意味は全くないのかもしれない。でも納得できないし、本当に腹立たしいのです。
【聞き手・文:石川 太郎/取材日:23年1月31日】
参考資料:区分変更の理由を厚労省はこう説明する(パブリックコメントの結果=e-GOV)
関連記事:コウトウスギの食薬区分変更をめぐる動き
〇パブコメには区分変更に反対する意見が730件も寄せられた
〇改正案が示されたのは22年3月
〇改正通知は同10月 1年間の経過措置期間が設けられる
〇コウトウスギの区分変更に合わせてイチイの全草も専ら医に
:食薬区分をめぐる動き
〇日本薬科大学薬学部の袴塚高志教授が「食薬区分の実際と問題点」のテーマでコラム執筆
〇非医から専ら医への区分変更、コウトウスギ以外にも
(改正案)
(改正通知)
〇事業者らは再考を求めたが……
〇有識者はこう見る 「専ら医でなく『指定成分』にする道を考えられないか」