ナチュラルメディシン離れ加速か? 一方的な規約変更に事業者から不満続出
昨年の9月29日に行われたガイドラインおよび質疑応答集の一部改正以来、機能性表示食品の届出において、(国研)医薬基盤・健康・栄養研究所「国立健康・栄養研究所」(以下、国立栄研)のデータベースが機能性表示食品の届出に2次情報として使うことができなくなった。
今のところ、消費者庁は「事業者個別の問題」とまるで他人事、国立栄研は「HFNetの安全性情報を再開する予定なし」と取り付く島もない。
(一社)日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic)の告知によれば、非会員企業がNMDBの情報を使用している場合、今月31日までに現時点で消費者庁のホームページに公開されている機能性表示食品の届出情報を撤回するように迫っている。期限まであと2週間を切った。消費者庁が公開している届出の取り下げは12日現在で438件に上っている。
Jahficは3月から取材拒否
編集部にも多くの質問が寄せられている。それらを参考に編集部がJahficに質問状を送るも、3月に入ってからは回答がない。
「お世話になっております。Jahfic事務局でございます。改めて取材をご依頼いただきましたが、今回も見送らせていただくことになりました。ご入会の手続きを進めてくださっている企業様への対応に専念させていただいておりますことをご容赦いただければ幸いでございます。何卒よろしくお願い申し上げます」との回答が繰り返されている。別段、取材を申し込んでいるわけでもない。早くから対面取材は断られているために質問状を送っていわけなのだが、このようなとんちんかんなメールが返信されてくる。よほど事業者の対応に追われているのだろうか。それとも、指示系統自体が成立しないほど、社内が混乱しているのだろうか。
国立栄研が素材情報DB(HFNet)閉鎖へ
そもそも事の端緒は昨年(2023年)3月30日にさかのぼる。国立栄研がそのホームページ上で「お詫びとお知らせ」を掲載した。
「この度、素材情報データベースの情報作成におきまして、2月に不適切な事案が発覚いたしました。具体的には、『素材情報データベース』の各素材情報の一般情報の作成において、Natural Medicinesデータベースに関する利用契約(End User License Agreement)の範囲を超え、引用をしておりました。諸権利を保有する国内の関係者の方々にご迷惑をお掛けしたことをお詫び申し上げます。当法人としましては、本件を真摯に受け止め、今後は、このようなことが二度と無いよう当該データベースの運用体制の再構築を行うとともに、各研究者に対しても、コンプライアンスの徹底を図ってまいる所存でございます。メンテナンスのために素材情報データベースを一時休止する」と告知し、一方的に素材情報データベースの利用を休止したのである。
このため、一般ユーザーは国立栄研のデータベースを検索できなくなった。その後、「ここに示した情報は、無断転用、引用、商用目的の利用は厳禁です。著作権法に基づき、情報を適切に取り扱ってください。情報を閲覧する前に当ホームページの利用規約をご確認ください。閲覧により利用規約に同意したものとみなされます」などの注意書きが示された。ところがこれは単なる前触れに過ぎなかった。
「質疑応答集」問21改正
やがて運命の9月29日を迎えることになる。消費者庁はガイドラインの改正に伴い、質疑応答集の問21を改正し、それまで食経験などの安全性情報として国立栄研のデータベースを利用するように勧奨していたにもかかわらず、改正ガイドラインでは、国立栄研の利用規約を守るようにとの指針を示した。これはある意味、180度の方針転換である。この前後、国立栄研のデータベースを届出に引用した事業者は、消費者庁からの差し戻しに合っている。
1例を挙げれば、「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の素材情報データベースから得られた情報がありますが、当該データベースにおいて、現在は安全性の情報が公開されていません。また、当該データベースについては、商用目的の利用は厳禁とされていますので、適切なデータベース等を用いて安全性評価を行ってください(機能性表示食品に関する質疑応答集(令和5年9月29日改正) 問21参照)」などと同庁が差し戻しの理由を告げている。
Jahfic、事業者をターゲットに
少なくとも届出事業者は昨年9月29日以降、国立栄研と消費者庁による届出事業者への警告と締め付けに悩まされ続けたが、事はそれだけでは終わらなかった。なぜなら今度は、NMDBの東アジアにおける版権を持つ(一社)日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic、田中平三代表理事)が、国立栄研では話にならぬと判断し、事業者に対する直接アプローチを開始したのである。業界は動揺した。
そしてJahficは唐突にも同12月31日、公式サイトに①「機能性表示食品におけるナチュラルメディシン・データベースのご利用について」というお知らせを掲示し、事業者によるNMDBの無断使用をとがめた。当時、その案内を知る者は少なかったが、年明け早々、当編集部がそのことをニュースサイト「ウェルネスデイリーニュース」で報じたことで多くの事業者の知るところとなった。
リリースには、「これまで機能性表示食品制度への届出資料にナチュラルメディシン・データベース〈オンライン版〉をご利用になる場合には、自社の最終製品に限り使用許諾申請を免除しておりましたが、2024 年 1 月末をもちまして、免除を一旦廃止させていただく」と記されている。続けて、「機能性表示食品制度への届出に関連したご利用は原則、Jahfic 会員に限定したサービスに変更する」(ただし、ナチュラルメディシン・データベース〈オンライン版〉は会員特典として利用可能)と記されている。またその理由として、使用許諾を免除したことで届出資料において、届出情報が更新されていないNMDBの情報源の利用などの不適切な行為があるためと述べられていた。
要するに、更新されたNMDBの情報が届出企業の届出情報に反映されていない問題が生じているというのである。ということは、Jahficは今後、過去の届出情報にまでさかのぼって利用料金を徴収しようとしているのだろうか? そのとおりで、①―2.ご利用条件(7)には「事前の使用許諾のないご利用が判明した場合には、届出日以降の利用期間に対して別途、無断使用料(1 製品当たり年額 13,200 円、月割りなし)が加算されます」とあり、「3.ご利用料金」や「8. Jahfic 会員への移行手続きについて」には条件別に細かく料金規定が記されている。これがまた、事業者にとっては「とても分かりにくい」との不評を買っているのである。これならナルホド、質問が相次ぐのもうなずける。詐欺的通販さながらに、脚注※のまた脚注※と、超極小文字による難解な規約になっているのだから。
動き始めた事業者団体
不満の声が相次ぐ中、多くの事業者が今後、NMDBを使用しない方針に舵を切り始めている。強引な手法がNMDBにとっては裏目に出たようである。そもそも情報には対価を支払うというのが当たり前の話ではあるが、まだそこまで欧米並みに理解が浸透していない我が国においては、米国式の考え方を押し付けられることへのアレルギー反応があるのかもしれない。とはいえNMDB側に説明責任はあるだろう。書籍版NMDBの発行元である㈱同文書院の代表取締役社長・宇野文博氏はもとより、肝心かなめの説明を怠った田中平三Jahfic代表理事にも責任の一半はある。同氏は国立栄研の元理事長でもある。かつて2003年に開かれた「健康食品に係る制度のあり方に関する検討会」では座長を務め、その第9回目で健康食品の科学的根拠を示す資料としてその原典となる『ナチュラル・メディシンズ・コンプリヘンシブ・データベース』を紹介している。
もともと同データベースの翻訳権をセラピューティック・リサーチセンター(TRC)から第一出版㈱が買い取り、同社が出版した『健康食品データベース』(=写真)のデータを国立栄研がHFNetで使用したのが始まりと言われている。その後、TRC社と独占契約を結んだ同文書院が「健康食品のすべて」を06年に発刊。09年にオンラインデータベースのNMDB(日本版)を構築している。

混乱を受け、ようやく事業者団体も重い腰を上げた。(一社)健康食品産業協議会(橋本正史会長)は3月7日~15日まで、「機能性表示食品の届出に関するアンケートのお願い」を実施。昨年9月29日に起きたガイドラインの改正後の状況について、事業各社の状況把握に努めているようだ。
一連の流れの中、編集部に寄せられる質問の中には、「NMDBを使用できる会員とはどのようなものか?」、「消費者庁はこのような事態をどう捉えているのか?」、「第一出版が版権を持っているのではないか?」、「届出商品を撤回する際にNMDBの情報は変更する必要があるのか?」、「過去にさかのぼって無断使用料を徴収するのは合法か?」――などの質問が寄せられている。NMDBの代替データや事業者の対応、これからの動きと合わせて、上記の質問についてもこの後で年表を示しながら考察したい。
(⇒つづきは会員ページへ)
Jahfic「入会か否か」強く迫る
Jahficの会員制度は(1)賛助会員(2)NMデータベース会員(3)NM情報会員(4)NMHQ会員――の4つのクラスに分かれており、機能性表示食品の届出ができるのは(1)以外の3会員。しかも、その全てにおいて今後は使用許諾申請書が必要なばかりでなく、届出において他社のサポートができるのは(3)NM情報会員に限るとしている。
そして同会員になるためには、入会金11万円、年会費6万6,000円、1件当たりの使用許諾料金1万3,200円/年が必要となる。前述したとおり、利用者に明快な説明もないまま、一方的に規約変更を行ったJahficに対し、事業者の不満は募る一方だった。
その上、実際に届出を行っている原料メーカーに対して1月31日を期限に、現会員に対しては会員を継続するか否か、会員でない事業者は入会するか否か、態度表明を迫ったのである。さらに昨年12月末までに届出を行っている製品について、今年3月までに使用許諾申請書を提出し、来年3月までに届出情報の変更を行うように迫っている。となると、例えば単純計算すると、販売会社100社の製品を届出支援している原料メーカーは、入会金や年会費とは別に132万円の拠出が必要となる(実際には会員の種別によって届出可能な商品数などが細かく規定されている)。
また、入会を希望しない場合は「指定された期限までに届出資料から情報を削除。別途、過去のご利用に対して無断使用料を請求」(Jahfic)されることとなる。
届出事業者の反応はさまざま
態度表明を求められた原料メーカーの話によれば、Jahficは届出を行っている原料メーカーの履歴を消費者庁のホームページで洗い出し、届出情報の内容をつぶさに調べ上げているようである。業界の困惑はさらに深まった。編集部には、Jahficの通告を無視するという事業者、申し出に従わざるを得ないという事業者、その他さまざまな声が聞こえてくる。しかし、申し出を無視したままで事はそのまま収まるとも考えにくい。規約違反や著作権法違反など、法的手段に訴えられる恐れもある。まして米TRCがバックに控えているとすればさらにややこしそうだ。
残される選択肢は、NMDBを使用するかしないかの2つである。また、販売していない商品については撤回して難を逃れる手も考えられる。100社を超える事業者の届出支援を行っている受託メーカーは、「基本的に原料会社の意向に従うつもり。当社が届出を行っている製品についてはすでに当社で届出の変更を進めている。しかし、そうでない製品については原料会社の判断を待つしかない」と語っている。そして、販売会社に使用許諾料を負担させることはできないという苦しい胸の内を明かしている。
ある通販会社は、「取りあえず商品を撤回した。撤回商品は終売商品のためNMDBは変更していない。届出を残す商品については原料メーカーに確認の上、安全性に関する変更届出資料を用意できる商品は1年以内に変更手続きを随時進める」という。「Jahfic会員の申し込みも並行して進めており、会員の期間内に変更、撤回などの作業をする方針」(同社)。
すでに撤回を済ませたとする原料メーカー、受託メーカーも複数あり、変更届を出した後に撤回したという声が多い。
情報は更新されるものと考えた場合、古いNMDB情報を残したまま撤回したところでいずれその情報も更新される運命にあると思えば、変更手続きをせずに撤回しても問題ないのではないか?また、「過去にさかのぼって無断使用料を聴取するのには無理があるのでは」との法曹関係者の話と考え合わせれば、そのまま撤回しても問題ないのではないかと推測できるが、筆者の周囲ではそれでも、万全を期すという事業者が多いようである。
そもそも、前述した第一出版の権利もその時期に限られたもので、その後、『ナチュラル・メディシンズ・コンプリヘンシブ・データベース』は更新された。その更新情報を新たに買い取ることで今のNMDBは存続ししている。
NMDBの代替は可能か?
では、NMDBを利用しない場合、どのような手立てがあるのか。多くの届出事業者が今、「届出様式(Ⅱ)」の喫食実績などの安全性情報について一次情報を探し出すなどして差し替えを進めている。食品安全委員会「食品健康影響評価書」、(一社)日本医薬情報センター(JAPIC)、医中誌、パブメド、Google Scholar(グーグル・スカラー)等々。中には米国TRCと契約を結んだという事業者も。
ただし、悩ましいのは医薬品との相互作用の評価である。NMDBはこれまで、相互作用について貴重な情報源とされた。城西大学が公表している「食品―医薬品相互作用データベース」もまだサンプル数が十分ではない。NMDBを参照せずに果たして一次情報を検索できるのか。事情に詳しい識者は、「調べる手段が限られているため、新規届出商品において健康被害が心配」との懸念を示している。
仮に消費者の健康被害が危惧される事態となれば、消費者庁の動向も気になるところだ。すでに「国立栄研とJahfic」、「Jahficと届出事業者」だけの問題ではなくなりつつある。これまでは「形式的なチェック」を盾にし、ガイドライン「質疑応答集」を小手先で塗り替えて知らぬ存ぜぬを決め込んできたが、そもそも国立栄研同様、NMDBの無断使用を推し進めた共犯者と言える。同庁の責任さえ問われかねない事態に、何らかの指針を示すべきではないのか。しかし先に述べたとおり、消費者庁の回答はにべもない。
「事業者が困惑している中、他のデータベースの使用などについて妙案はあるか?」との編集部の問いに対し、「著作権についてはガイドラインで示したとおりなので、そちらを参照してほしい。事業者個別の問題なので消費者庁は関与しない」と相変わらずだ。
国立栄研にも聞いてみた。「貴研究所では安全性情報の整備を進めているか? 混乱を招いた責任の一般は貴研究所にもあると思うが、これについて釈明などがあるか?」という問いに対し、「現時点では素材情報データベースの安全性情報を再開する予定はない。当所の責任について、著作権者の判断によるものであり、コメントは差し控える」とこちらも裏金政治家並みの回答だ。
健康食品産業協議会が情報提供
それではこういう不測の事態に対して、事業者団体の対応はどうか?
「こういう時にこそ業界団体が声を上げて行政に働き掛けけてほしい」事業者の悲痛な声が聞こえてくる。
(一社)健康食品産業協議会が3月7日~15日にかけて、公式サイトで届出に関するアンケートを募っていることは先ほど述べた。その他に、「機能性表示食品の既存情報による安全性の評価方法について」という情報提供を会員向けに行っていることが判明した。
14日付のA4判2ページにわたるリリースには、届出を行う食品の喫食実績の情報により安全性が十分に確認できない場合の公・民間データベース29項目のインデックスが網羅されている。そこには公的機関として、「医療用医薬品の添付文書情報(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)」、「国民健康・栄養調査 (令和元年)(厚生労働省)」、「食品の安全性に関する情報 「食品安全情報」(国立医薬品食品衛生研究所)」などの他、「Compendium of botanicals Botanical Summary Report」、「Food and Feed Information Portal Database (EC)」などの海外の機関の報告書やデータベースの名もある。国内の情報を紹介したものには「食品図鑑(女子栄養大学出版部)」、「医薬品との併用に注意のいる健康食品(一般社団法人愛知県薬剤師会)」、「食品図鑑(女子栄養大学出版部)」、「CAS STNext登録データベース(一般社団法人化学情報協会)」などがあり、もちろんNMDBの記載もある。実際の届出にどこまで役立つかは分からないが、利用規約を確認した上で適切に利用するように注意喚起し、「利用できるデータベースがない場合や2次情報では十分な安全性の評価が困難な場合は1次情報の検索で評価を行ってください」との但し書きが添えてある。
混乱する事業者のために情報提供を行うのはまさに業界団体の役割としては当然のことだが、残念ながら対象は会員に限られているようである。協議会が会費で成り立っていることは理解できるものの、公的な役割を担っている非営利団体の一般社団法人にしては少々物足りなさも感じる。先のアンケート調査は会員以外にも広く行われていた。そこで収集した情報が生かされているとすればなおさらのことだ。
いずれにせよ、会員・非会員の別なく広く業界に周知することで、同じ一般社団法人を名乗るJahficとの違いをアピールし、業界を背負っている団体であることを強く内外に示してほしいものである。
また同協議会がJahficを招いて説明を聞くことになったという情報も入手した。真偽については確認中だが、仮にこのことが本当だとしたら、その事実と結果を広く公開した方がよい。そもそも国立栄研のデータベースをめぐる騒動は、同協議会を含めた業界団体と消費者庁の間で行われた情報交換会で交わされた内容をうやむやにしたことにも起因している。これは当編集部が消費者庁に対して行った情報開示請求で明らかになった。分かり切ったことだが、前轍を踏まないよう情報の透明性を保つことが業界の健全化への第一歩となる。また、その後の情報交換会でNMDBについて話し合われたようなことがあったとすれば、そのことも広く業界に周知すべきだろう。でなければ、何度も情報開示請求をかけなければならないような状態を招くことになりかねない。これらのことは、最終的に消費者の安全に関わることだという点を肝に銘じてほしい。
【田代 宏】

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関連動画:W放談10「Q&A問21問題」(YouTube「ウェルネスデイリーニュース」より)
:W放談12「行政開示文書公開」(同上)