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エビデンス入門(69) 臨床試験の質

関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科 准教授 竹田 竜嗣

 科学的根拠の質について解説する。機能性表示食品制度が始まり、食品のヒトを用いた臨床試験は実施件数が増えている。特に研究レビュー(システマティック・レビュー/SR)での届出を目指すと考えられる臨床試験は大幅に増えており、ヒト試験の結果を公表する雑誌では、毎月、複数のヒト試験論文が掲載されている。試験デザインは、RCTと呼ばれるランダム比較試験で実施されており、機能性表示食品制度ができる前に多かった前後比較試験はほとんど見かけなくなった。そういった面では臨床試験の質は上がっているように感じることができる。

 しかし、懸念点もある。特定保健用食品(トクホ)制度では、用量設定試験、効果確認試験というように段階を踏んでヒト試験が実施されていることが多いが、現在実施されている試験では、多くの場合、プラセボと関与成分の入った試験品の2群のみで実施されており、ヒトの摂取量がどのように決まったかは記述のない場合が多い。ヒトでの摂取量を決めるにあたって、これまでの食経験(販売実績)や安全性、あるいは海外での実績などから決定すると考えられるが、それらに関する記述がされている論文は少ない。用量設定に関する記述は、本来はあった方が望ましい。
 また、トクホの試験設計のように、用量設定試験を実施してから本試験を実施するという摂取量決定の裏付けは、開発コストが許すのであれば実施した方が望ましい。しかし、コストや開発にかける時間といった制約事項があって実施できないのであれば、作用機序を裏付けることができる動物や細胞での評価を踏まえて摂取量を決めて実施し、論文の考察に加えて、ヒトで起こった事象の客観的裏付けは必要だ。

 臨床試験の結果は統計学により判定する。統計は、確率論でエビデンスの「確からしさ」を判定しており、絶対的な評価を行えない。また、スケールメリットがあり、試験の実施人数が多ければ多いほど小さい差で有意差が認められてしまう。
 体脂肪試験を例に出すと、百人程度の試験であれば、ウエストが0.5センチ程度の差がプラセボと関与成分が入った試験品で差があれば有意な差が出てしまう。そのため、ヒトで起きた事象だけでなく、裏付け材料として関与成分の摂取量により事象を観察する用量設定試験を別で実施して再現性を確認することや、動物や細胞などを用いた作用機序実験による裏付けが、臨床試験の質を結果的に高める。これらの内容は、査読付き論文に盛り込み、レフリーの判定を受けて出版されることが、臨床試験の質を高めると考えられる。

(つづく)

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<プロフィール>
2000年、近畿大学農学部農芸化学科卒。
2005年、近畿大学大学院農学研究科応用生命化学専攻、博士後期課程満期退学。
2005年、博士(農学)取得。近畿大学農学部研究員、化粧品評価会社勤務、食品CRO勤務を経て、2016年から関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科。
専門は、農芸化学分野を中心に分析化学、食品科学、生物統計学と物質の研究から、細胞、動物試験、ヒト臨床試験まで多岐に渡る研究歴がある。特に食品・医薬品の臨床研究は、大学院在籍時より携わった。機能性表示食品制度発足時から、研究レビューの作成およびヒト臨床試験など多くの食品の機能性研究・開発に関わる。
2023年1月、WNGが発信する会員向けメルマガ『ウェルネス・ウィークリー・レポート』やニュースサイト『ウェルネスデイリーニュース』で連載した「エビデンスの基礎知識」が100号に達したのを記念し、内容を改めて編集し直し、「開発担当者のための『機能性表示食品』届出ガイド」を執筆・刊行。

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