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これでいいのか?日本の健康食品制度(3) 【座談会】健康被害情報と風評被害を考える

健康被害情報の報告めぐる攻防

大曲 この14年通知の改正に関しては、業界側と厚労省の間で意見交換を相当積み重ねたのです。当初、最初に出てきた案はとにかく健康被害を受けたというような話が出たら、「基本的には報告しろ。そしてその内容は公表する」というところから話が始まりました。
 因果関係とかも分からないし、しかも最初の時は、社名とか、製品名とか、そういうものまで何もかも公表するというところから始まったのです。その段階で業界側の反発が強くて、何の目的でそういうことをやるのか分からないという、完全に物別れという状態からスタートして、その後に例えば因果関係というものがきちんと認められれば公表しても問題はないのではないかという意見など、いろいろな業界の声が出る中で、今回の最終的な改正案が出てきたという経緯があります。

 その中の1つとして①情報収集対象食品に生鮮食品を除く保健機能食品が全部含まれていることをどう考えるか――という点ですけれども、実は業界側の方では意見が割れた印象があります。1つには、先ほどもありましたけれども、保健機能食品はそもそも安全性というものをちゃんと証明して出しているというところがあるのが1点。一方でなぜ生鮮食品だけは除くのかという問題。大きく分けると議論のポイントはこの2点だったと思います。
 最終的にその保健機能食品を含めるという理由として、薬事・食品衛生審議会新開発食品調査部会長が話していた内容は、実際のところ販売してみないと最終的な製品の安全性は分からないということをおっしゃったのですが、そういった理由で保健機能食品も含まれるという判断をしたということに関しては業界側にも一定の理解ができると思っています。

 それから②平成14年通知に基づき、厚労省に報告された健康被害情報というのは2年半で指定成分等含有食品を除くと20件程度と極めて少ないこと、そして③事業者も健康被害疑い情報を厚労省に報告するべきかどうかという問題――ですね。この2つですが、まず大前提として、1つは健康被害相談の報告を行うことになったのが都道府県だということと、もう1つは全部が全部、厚労省に報告するのではなく、ある程度消費者の判断が入る要否確認シートというものができており、そこが判断材料になるということで、健康被害受付処理票というものに症状などの記載がされるようになる方向だという、大前提としてまずこの2つがあります。
 この2つを踏まえると、ここまでの報告件数は正直多い少ないというのは何とも言いようがないというところはあります。いずれにしても、数というよりも実際に出てきているという点が事実なので、ここは業界として真摯に受け止めるべきなのではないかと考えます。

 ③の部分ですけれども、先ほども言ったように、今回かなり厚労省と業界団体が意見交換を重ね、それを踏まえて出来上がったのが最終的な改正通知案になっています。今の改正通知案に関しては、おそらく業界側の方は最後のパブコメのときにはほとんど意見は出していないと思います。それはそれまでのやり取りでかなり歩み寄った結果が今の内容になっているからだと思っています。ですから一応、今回出来上がった改正通知案というものが適切に運用されていることが事業者側に浸透されれば、もっと積極的に適切な報告がされていくのではないでしょうか。

唐木 そうですか。保健機能食品を入れるのは皆さん、最終的にはOKをした。生鮮食品についてはどうだったのでしょうか。

大曲 これについては反対の意見も一部あったのですが、それで例えば過剰摂取が云々と言っても、所詮はそういった生鮮食品になるので、そこはそう言われたからと言って反論というにはならなかったという印象です。

唐木 確かにそうですね。生鮮食品で有害成分が濃縮したり、過剰摂取はあり得ないから除くという説明をすればそうですよね。

被害報告対象「生鮮食品」含めろとの声も

原 平成14年通知の改正に関しては大曲さんがおっしゃったように、業界側の意見を丁寧に聞いていただきながら、しっかりとコミュニケーションを取ることで、最大限歩み寄るかたちで着地できたと考えています。
 ただ、入口である健康被害の件数が少ない、実はもっとあるはずだという意見も聞きました。しかし、数年間における報告件数が20件足らずというのは、それこそ消費者と事業者がリスクコミュニケーションを取った上での件数。製品の健康被害に直面するというのは事業者ですから、事業者がしっかりそういうところで消費者とリスクコミュニケーションを取ることができている証拠なのではないかとも思います。
 そういった事業者の努力によって、重篤と思われるような報告件数をある程度抑えているという点も事業者側としては評価してほしいという思いはあります。先ほどの「定義」、「範囲」のところにおいても、事業者からは報告件数を増やしたいのであれば生鮮食品も含めた方が良いのではないか、そうすることで報告件数が急に増えるかもしれない、というような意見もありました。また、業界団体の中でも機能性を表示している一部の生鮮食品に関して、機能性表示食品をいわゆる健康食品として括るのであれば対象に含めるべきだという意見もありました。

 我われとしても保健機能食品が対象に含まれているというところに関しては、特定保健用食品や機能性表示食品の制度というところで、事業者から消費者庁に報告される情報と、事業者が消費者に受診を勧めた際に医療機関から保健所を通じて厚生労働省に報告が上がる情報と、情報が重複してしまう可能性があるという懸念が挙げられました。実際に行政との意見交換会においても、消費者庁と厚労省でしっかりと情報共有を行った上で、消費者庁側の情報と保健所を通じて厚生労働省に挙げられた情報にミスマッチがないかという点については、行政側でしっかり情報共有を行うということでした。ただ、具体的にそういった定例ミーティングですとか、行政間での連携のあり方みたいな指針はあるのでしょうか? という点に対してはこれからの検討課題ということでした。14年通知の改正と保健機能食品制度の運用において、情報の重複による齟齬が生じないように今後検討していく必要があると思います。

業界団体も専門家WGに参加

 消費者と最も接点が多い事業者や業界団体というのは、これらの通知においてすごく重要なポジションを担っていると思います。しかし、いわゆる健康食品のリスク管理の全体像を見る限り、事業者がその中核に据えられていないというか、最も情報を持っている事業者と所管の保健所との連携について重要視されていない印象がある。これも法令として、サプリメントに関するカテゴリーがないために、どの事業者が連携対象として該当するのか明文化できないという問題があると思います。そういうところで、事業者が行政やワーキンググループなどに対して積極的に意見交換をさせてほしいという業界団体の要望を受け入れていただき、実際に専門家ワーキンググループ開催の際に、日健栄協が参考人というかたちで出席させていただき、業界側の意見を述べることができたというのは非常に大きな一歩だったと思います。
 利益相反の観点から事業者はワーキンググループに参加できないとの意見が行政側からありましたが、そういう意味では事業者団体や、事業者団体から選出された第三者委員会みたいなものを立ち上げてもいいと思います。そういう実態を理解しているところがワーキンググループの委員として参画していく必要があるのではないでしょうか。

有害事象の原因は「製品」「成分」など多種多様

原 健康被害という時に、その製品に起因する有害事象と成分に起因する有害事象を混同して議論されがちであると非常に感じています。
 製品で発生する有害事象の原因というのは、消費者の利用環境によるもの、製品を製造する上での品質に起因するもの、多種多様な原材料の組み合わせなどによるものなどがあります。また、成分においては、その成分本質ではなく、原材料の製造上の品質に起因するもの、そして最後に成分本質に起因するもの、さまざまなケースが考えられます。このように、成分を原料として加工する、製品を作り上げ、商品として消費者に提供するという各段階で、安全性においてチェックすべき事項があり、同様に有害事象の原因があります。今回のリスク管理の全体像の中で、製品について有害事象が見出されたものは、指定成分への検討候補に入るという矢印が示してありましたけれども、製品が危ないからといって成分の議論をしてしまうというところにとても違和感を覚えます。意見交換会の中でも、その点は個人的に強くお話をさせていただきました。

 法令的な観点での線引きがないという背景はあるとしても、そういったところをもう少し丁寧に議論をしていく必要があるのではないか。因果関係という言葉の使い方にしても、ワーキンググループにおいて先生方が使う因果関係というものと、行政側が使う因果関係、また消費者が思う因果関係というのは非常に乖離があります。先生方が因果関係という言葉を使ったらほぼ黒に近いグレーであり、行政側の消費者に対する情報公開の中で使われる「因果関係の判定が疑われる、疑われない」ということに関しては、白に近いグレーという意味を含めての表現だとみなされかねないので、そういった言葉の使い方ですとか、定義ですとかも消費者に対して思わぬ風評被害をもたらす懸念があります。この点は食品衛生基準行政が消費者庁に移管した後も、引き続き継続的なコミュニケーションが必要になってくると思います。

難しい因果関係の確定、風評被害の恐れも

大曲 言い忘れたのですが、この問題は業界側からすると風評被害という問題を軸に据えてしまうのですね。別に健康被害とかが起こっているわけじゃないのだけれども、何となく健康食品全体が悪者になるようなかたちに持っていかないようにしてもらいたいとことを繰り返し説明して今に至ったという経緯があります。
 例えば、因果関係をしっかり調査した末にそれはもう黒だねという話になればそれはそれでやむを得ない話だが、中途半端でそこがはっきりしないにもかかわらず、いたずらに報告が上がるとなると、当然、そこに携わる事業者にも影響が出ますが、それだけじゃなく、おそらく業界全体に関しても何かしらの影響が出てくると思われます。例えばかつてのアガリクスの問題とか、いろいろな問題があったということについては厚労省の皆さんにもお話しさせていただきました。その点を徹底的に保護していただきたいと、強く求めたのが業界側の反応でした。

唐木 結果としてはある程度満足するようなところに落ち着きましたか。

大曲 そうですね、そういう意味では最初に比べるとだいぶ変わったかなという印象を持っています。

唐木 そうですか。

武田 実際にアガリクスは500億円の市場が一気になくなってしまいました。それぐらい影響が大きいのですよね。それだけに情報の出し方というのは慎重になってもらいたいと思いますね。

唐木 確かにそうですね。アガリクスの問題と、大阪で起きたカイワレ大根の食中毒ね。似たような風評被害で業界が1つ吹き飛んでしまいますからね。

原 14年通知改正と17年通知改正、全体の課題としては、4月以降、食品衛生基準行政が消費者庁に移ることで、基準行政を行う消費者庁と、監視行政を行う厚労省で分かれてしまう。実際問題として、これは運用上どうなっていくのか。我々事業者団体としては今後、誰と対話をしたらいいのか、というところは非常に懸念しているところです。ルールを作る人とルールを使う人が分かれてしまうというのは、何か問題が発生した場合に対応が難しい。まず重要なのは「この通知を使わない」という意識。厚労省がこの通知を使うことなく、指導が実施されずに、いかに事業者や業界団体が未然に防止していくことができるかが非常に大事だと思います。そういう意味では、消費者庁のみならず厚労省とのコミュニケーションも継続的に行っていく必要がありますので、今回の通知発出後の一番の課題はそこだと感じています。

唐木 これは都道府県と厚労省宛ての通知ですね。事業者は対象ではない。おそらく事業者は被疑者という考えですよね。ですからここに入れるのは利益相反になるという考え方は消費者にとって分からないわけではない。
 ただ、それは、疑わしきは罰せずではなくて疑わしきは疑うということになり、風評被害にもなりかねない。実は因果関係の確定は極めて難しい。健康食品で被害が出たのは、1つは過剰摂取、例えばプエラリア・ミリフィカのようにかなり作用が強いものを過剰に摂取すれば健康被害が出る。もう1つは、特異体質で、他の人は誰も出ないのに、私だけ出てしまったということがある。もっと難しいのは慢性毒性で、3~5年経ってから腎臓障害が出た、肝臓障害が出たとなると、これは何が原因か分からないことが多い。こういう難しい問題が絡んでいる中で、この通知だけでうまく整理ができるのかというのはなかなか難しい問題ですが、そういうことがあり得るのだということを行政もきちんと考えて対応しているものと思います。

 報告数が多い少ないという問題ですが、お客様相談室に届くクレームの多くがカスタマーハラスメントのようなものという話も聞きます。本当の健康被害なのか誰がどこでどうやって判断するのかという難しい問題があるだろうと思います。問題ばかりですが、システムとしてはこんなところかなというのが皆さんのお考えなのかなというふうに受け止めました。

(つづく)
【文・構成:田代 宏】

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