HMBの機能性表示食品、届出撤回の真相(後)
<根拠論文はオープンラベル試験>
HMBを配合した機能性表示食品の届出を取材するなかで、「歩行能力の改善」の科学的根拠として、システマティック・レビュー(SR)で採用した論文に問題があることに気付いた。今回の撤回と直接関係していないとみられるが、指摘しておく。
「歩行能力の改善」を訴求した届出のほとんどが、小林香料(株)が実施したSRを使用している。筋肉量や筋力の維持・低下抑制の効果も合わせて、各社のSRの採用論文数は5~6報。そのうち、「歩行能力の改善」については1報を根拠としている。
「歩行能力の改善」の根拠とされた1報の論文を読む限り、いくつかの点で疑問が出てきた。まず、この研究のデザインは「An Open Label Randomized Controlled Trial」となっている。オープンラベル試験は、医療スタッフや被験者が何を投与されているのかを知った上で行われる。
一方、機能性表示食品の根拠として求められるのは、特定保健用食品(トクホ)制度に準拠した臨床試験。届出ガイドラインによると、SRの場合、サプリメントについては、臨床試験の査読付き論文が1本もない場合は機能性表示をうたうことができない。ここでいう臨床試験とは、通知「特定保健用食品の表示許可等について」の別添2「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」で規定する「ヒトを対象とした試験」を指す。
つまり、「試験食摂取群とプラセボ食摂取群を対照とした二重盲検比較試験とする必要がある」(同留意事項)。オープンラベル試験では、結果の客観性を確保できないため、「二重盲検」による試験を必須としている。
各社が「歩行能力の改善」の根拠とした論文は二重盲検でないため、届出ガイドラインの要件を満たしていない。本来ならばSRの採用文献リストから除外し、参考程度にとどめるのが妥当と言える。少なくとも根拠の決定打にはならない。
消費者庁では、「(一般論として)臨床試験については原則、二重盲検の群間比較試験またはクロスオーバー試験が必須となる」(食品表示企画課)と話している。
<副次アウトカムを根拠に>
2つ目の問題点は、「プラセボ食摂取群を対照」とした試験でない可能性があることだ。
届出資料にあるSRの採用文献リストの「対照」を見ると、「歩行能力の改善」については「プラセボ、又は何もしない」と記載。PICOの「C」(比較)は「HMBを摂取しない場合およびHMBの摂取前」としている。また、論文を読む限り、コントロール群にプラセボ食を投与していないと受け取れる。
つまり、機能性表示食品の届出で必須となる「試験食摂取群とプラセボ食摂取群を対照とした二重盲検比較試験」の要件を満たしていないのではないかという疑問もある。
もう1点、気になる点を指摘する。各社の届出資料で「歩行能力の改善」の根拠としている6分間の歩行距離は、論文では副次アウトカムの位置づけ。主要アウトカムのSPPBスコアなどは有意差が認められず、副次アウトカムの6分間の歩行距離で有意差があったという。
消費者庁の「機能性表示食品制度における臨床試験および安全性の評価内容の実態把握の検証・調査事業」報告書では、次のように指摘している。
「主要アウトカムにおいて群間で有意差がなく、副次アウトカムで有意差があった場合、PICOに基づく仮設からすると、『その介入では、有効とはいえない』と慎重な結論を下す必要がある」。
SRを実施した小林香料(株)に話を聞こうとしたが、取材には応じない姿勢を見せている。
(了)