HACCPを正しく理解しよう!(後)
北海道大学名誉教授 ㈲ミクロバイオテック 代表 浅野行蔵 氏
キーワードは「Food safety」
厚労省では、複数の異なった意味を同じ用語で使い回して記述しており、なんとも語彙の少なさを痛感する。CODEXの元の文章には、「Food safety」が使われているが、厚労省では「衛生管理」を使っており、これがHACCPへの理解が進まない大きな原因を作っていると考えている。
Food safety は、HACCP理解へのキーワードなのだ。CODEXでもアメリカのFDAでもFood safetyが強調されて文章の中には何度も繰り返し使われ、安全の目的を常に強調している。
ところが厚労省の発表には、「管理」という語を繰り返し使い、食品安全とか食品の安全などの用語はほとんど使われていない。これでは、日本国民は管理をすることが目的と受け取ってしまう。食品事業者にとっては「法律による締め付けが増えるのではないか」という懸念につながっている。
一方、CodexやFDAの表現では「食品安全」を強調している。「食品安全が大切である」、「食品安全に向かって進むための手法がHACCPである」という姿勢が明確に示されている。「管理を強調する日本の厚労省」と「安全を強調する諸外国」の姿勢の差を感じる。
内閣府に食品安全委員会があるが、食品の安全という言葉は内閣府なら使えるが、厚労省は使えないという掟があるのかもしれないとさえ思いたくなる。
EUでは、2006 年からHACCPを制度化しており、導入後10 年を機に導入状況と問題点をまとめたレポート“Overview report Better HACCP implementation” を作成した。このレポートでは、food safety management(食品の安全管理)という言い回しが繰り返し使われている。また、「HACCP based food safety management」、素直に日本語に訳すと「HACCPに基づいた食品の安全管理」という表現もある。これを厚労省の表現にすると②「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」や①「HACCP に沿った衛生管理となる。厚労省の「衛生管理」という用語は,「食品の安全管理」にCODEXに準拠して正しく入れ替えることによって、随分と誤解は減るだろう。
HACCPを合理的に運用する
HACCPを理解するには、コンサルなどを入れたり、コンサルに丸投げする前に、1つの自社製品を決めて、HACCPの手順どおり、12のステップを仲間とチームを作って実際にやってみることが一番である。そのときに参考になるのは、厚労省のホームページにあるA3見開きのリーフレットのイラストである(図参照)。手順を1つずつ実施して行くことでチームが成長し、より深くHACCPを理解した安全管理チームへと育って行く。
厚労省が、「管理、管理」と繰り返すと、まじめな企業は書類をたくさん作ることが正しく実施していることを表現する手段と勘違いしてしまう。廃止されたマル総(総合衛生管理製造過程)が、その誤りを誘発していた。ある企業では、わずか4品目の対象商品なのにマル総の書類は、ファイルを並べると5メートルを超える膨大な量になっていた。読んで活用できるレベルを超えており、貯まり行く紙となっていた。これらの作成のためには膨大な試験や測定、それらの人件費と大きな金額がかかっている。にもかかわらず、食品事故が発生して多くの患者が発生し、ついに会社は解散となり、多くの従業員の職は奪われた。膨大な手間と費用は会社も従業員も救えなかった。何のためのマル総だったのか? HACCPが同じ轍を踏まぬように気をつけて頂きたい。
自社HACCPが正しく作られたか、運用できたかを判定するには、製造現場が「働きやすくなった」、「商品に自信が持てる」と感じることができれば成功で、面倒になった、作業が増えて時間内に納まらないなどの声が出たら、御社のHACCPプランは根本的なところに問題がある。
(了)
参考文献
(1)厚労省HACCPリーフレット
(2) General principles of Food Hygiene Codex Alimentarius 2020
(3)https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/61246685-8e88-11e5-b8b7-01aa75ed71a1
(4)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/haccp_leafb_24.pdf
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