GMPめぐる混乱~顛末は?(前) 平成17年通知から小林問題まで、そしてこれから
小林製薬㈱(大阪市中央区、小林章浩社長)が製造・販売した紅麹原料を配合した機能性表示食品による健康被害が拡大した事故をめぐり、にわかに健康食品GMP認証(以下、GMP)に注目が集まっている。
同社が昨年12月に閉鎖した大阪にある原料製造工場は、HACCPによる衛生管理は実施していたもののGMP認証は取得していなかった。同工場では、紅麹原料の培養から粉砕、包装に至るまでの製造過程を管理しており、その後は外部の受託工場に打錠などの加工を依頼していた。ただし、委託先の工場はGMP認証取得工場だった。
「被害情報の広告」「GMP」義務化へ?
マスコミを通じて大阪工場がGMP認証を取得していなかったことが大きく報道され、健康被害情報の報告義務化とともにGMPの義務化も諸所方々で叫ばれるようになった。
機能性表示食品制度のガイドラインでは、GMP工場での製造が推奨されているため、今後、同制度にGMPの義務化の規定が盛り込まれても大きな反対はないものと思われる。しかしそのためには、一般食品と同一に扱われている現在の健康食品をきちんと定義付けして一般食品と区別しないことには、全食品に対してGMPを義務化しなければならなくなり、大きな混乱を生むことになる。
2022年6月6日のリリースが引き金に
混乱と言えば、(一社)日本健康食品認証制度協議会(JCAHF、信川益明理事長)が2022年6月6日にPR TIMESを通じて配信したプレスリリースがきっかけとなり、業界に混乱を招いた一件はその後どうなったのか? 筆者は同年11月から昨年5月にかけて9回にわたり、「6・6プレスリリースの怪」としてウェルネスデイリーニュースで報じている。
しかし最終回の年表は5月8日でストップしたままだ。奇しくもGMPによる製造工程規範が策定されるきっかけを作った「アマメシバ事件」以来、とうとう死者まで出した小林製薬問題においてGMPが再びクローズアップされたことは、皮肉というよりもある意味、至極当然の成り行きだといえる。
食の安全にとって重要なポジションを占める製造工程管理プロセスが果たして適切に機能していたのか、新たに3月14日に発出された平成14年および17年の改正通知が適切と言えるのか、議論する余地は十分あると思われる。機能性表示食品制度の肝ともされてきた届出制度のあり方自体にも疑問の目が注がれている。
健康被害が発生した時の対応について、同制度のガイドラインに「健康被害が発生した際には、急速に発生が拡大するおそれが考えられる。そのため、入手した情報が不十分であったとしても速やかに報告することが適当である」(原文ママ)としか記載がないのも、同食品に対する明確な定義がないことからくる苦し紛れの表現であることは容易に想像できる。性善説に立った事業者の自主性に任せ切ることの危うさに対し、行政がいかなる権限を行使し、責任を果たすことができるのか、これはこの1年半のあいだ混乱の渦中にあったGMP認証制度においても問われ続けた課題だったはずだ。そういう意味で、国の関与のあり方も問われかねないJCAHFをめぐる混乱は、GMPを要とする健康食品・サプリメントの将来を考える上でも振り返る価値のある問題だと思われる。
「あり方検討会検討会」GMPが俎上に
これまでウェルネスニュースグループのセミナーを聴講した読者はご存じのことと思うが、GMPの誕生をひもとくには20余年前にさかのぼる必要がある。2000年4月、46通知が改正されて錠剤・カプセル形状の食品が市場で流通できるようになった。03年4月~04年5月まで、13回にわたり有識者会議「健康食品に係る制度のあり方に関する検討会」(あり方検討会、田中平三座長)が開かれた。この時、特定保健用食品(トクホ)の審査基準が一部緩和されて「条件付きトクホ」、「規格基準型トクホ」を導入、「疾病リスク低減表示」も容認されることとなる。「バランスのとれた食生活を心がけましょう」の表示義務や、ダイエット用食品における栄養機能食品表示の禁止、栄養機能食品における栄養成分名の表示義務などもこの時に定められた。
また、本稿のテーマである「適正製造規範(GMP)自主点検ガイドライン」を策定することにより、錠剤、カプセル状食品の原材料の安全性確保が求められることとなった。この間、2002年8月に中国製のダイエット用食品で女性が死亡、03年8月にアマメシバ葉の抽出物を摂取した人が重度の健康被害を発症している。
上述したあり方検討会における提言を受けて05年2月1日、厚生労働省医薬食品局食品安全部長名で「錠剤、カプセル状等食品の適正な製造に係る基本的考え方について」および「健康食品のGMP及び原材料の安全性確保のための自己点検ガイドライン」、いわゆる平成17年通知が示されたことにより、いよいよGMP認証制度が始動することになった。
(つづく)
【田代 宏】
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