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GMPめぐる混乱~顛末は?(中) 故・大濱氏が考案「サプリメント法(試案)」とは

2004年「GMP認証」スタート

 小林製薬問題を受けて、にわかに健康食品GMP(以下、GMP)がクローズアップされることとなった。GMP認証制度で先陣を切ったのは、(財)日本健康・栄養食品協会(JHNFA、現在は公益財団法人)だった。JHNFAが2005年4月に開始、翌5月に(一社)日本健康食品規格協会(JIHFS)も募集を開始した。ここでJIHFSが1カ月遅れのスタートとなった理由に触れておく必要がある。

 JIHFSの大濱宏文理事長(故人)は、カプセル・錠剤サプリの規制緩和に尽力したNNFAジャパン(全米健康食品協会日本支部、以下NNFA)の代表を務めていた。当時、ガイドラインの公表に先立ち、NNFAでは健康食品のGMP規範をすでに完成しており、認証についても検討を進めていた。しかし、業界団体が認証を行うことの妥当性、あるいは、業界団体ではない客観的な第三者機関としての認証組織を作ることの妥当性について、「どちらが良いか迷っていた」(故人)という。結局、安全・安心な健康食品・サプリメントを消費者に届けるには、極めて厳正でなければならない。業界の利益を追求する団体による認証は妥当ではないという考えに立った上でNNFAではなく、現在の組織であるJIHFSを新たに立ち上げて、認証事業をスタートさせることになった。大濱氏は存命中、「JIHFSはGMP認証機関であり、業界団体ではない」と再三主張していた。

09年7月に第三者認証機関誕生

 その後、07年7月に「健康食品の安全性確保に関する検討会」(大野泰雄座長)がスタートし、9回に及ぶ話し合いを経て1年後の7月に報告書を取りまとめた。そして翌年、認証制度協議会が設立する。
 報告書では、製造段階における健康食品の安全性確保を図るための具体的な方策を打ち出した。「原材料の安全性の確保」、「製造工程管理による安全性の確保」の他、「実効性の確保」として、原材料の安全性および製造工程管理による安全性の確保の実施状況について、第三者機関が確認する仕組み(第三者認証)を設けることにより、消費者がより安全性の高い製品を選択できるようになり、製造事業者において安全性向上への取組が促されることに期待すると明記。その仕組みについて、認定機関を指定する第三者認証機関を設置する案が盛り込まれた。これが後に問題を引き起こすことになる(一社)日本健康食品認証制度協議会(JCAHF)である。

「行政当局も円滑な組織形成を支援」(厚労省)

 具体的には、「法令に基づく指定等の形式をとることを想定するものではないが、学識経験者、消費者、製造事業者等からなる認証協議会を組織することとし、同協議会が要件を定めて認証機関の指定や認証基準の設定等を行うとともに、認証機関の指導監督等も実施することが、認証機関による認証行為が適切になされることを担保する観点から適当であると考える。
 なお、このような位置付けであっても、認証協議会が果たすべき役割の公益的な性格にかんがみ、実際に認証協議会を設立するに当たっては、行政当局も関係者への広報周知に協力し、その円滑な組織形成を支援するとともに、設立後の同協議会の運営においても、行政当局を含めた関係者間において十分な情報交換、連携が図られることにより、直面する課題解決に努めるべきものと考える」と、後のJCAHFに対して一定の国の関与が示されている。

 しかし実際にはその後、厚生労働省がJCAHFと2機関(JHNFA、JIHFS)との間に起きたトラブルを根本的に収束することはできず、放置せざるを得なくなった。これについては次回述べることにする。

サプリメント法(試案)から学ぶ

 本稿と直接関係のある話題ではないかもしれないが、元NNFAジャパンの大濱宏文氏(故人)が後に考案した11章15条から成る「サプリメント法(試案)」というものがある。2008年5月26日、エグゼクティブ会議議長・大濱宏文として公表されたものである(同会議はその後サプリメント・エグゼクティブ会議と改称し20年3月31日に解散)。

 サプリメント・錠剤を対象とした「試案」に記された多くの事項が現在、機能性表示食品制度をもって実現されている。しかし、いまだに達せられていないのが健康食品・サプリメント独自の法制定である。
 試案の第4章「安全性に係る規定」の中には、事業者が有害事象の報告を受けた際には、「事業者は速やかに当該地域の保健所に報告し、安全性を確保するための適切な処置を取らなければならない」との規定がある。「法案解説」では品質確保についての記載もある。そこには、「原材料および最終製品に対して、品質に係る適切な規格基準を設定すると同時に、製造工程管理をGMPによって行う必要がある。GMPによる製造管理は、原材料および最終製品に及ぶものである」とある。

 この度、小林製薬問題が引き起こした健康被害も、海外とは異なり、このような独自の法律を持つことなく、一般食品と同列に扱われ続けている我が国の健康食品・サプリメント市場における無理押しな政策がもたらしたという側面がある。ある意味、大濱試案のいいとこ取りによって体系化された機能性表示食品制度も、一般食品を規定する食品表示法の中で行き詰まりを露呈したということができる。
 19日、日本科学技術ジャーナリスト会議(室山哲也会長)が紅麹サプリメントをテーマに開催した勉強会で唐木英明東大名誉教授が指摘したように、今回の事故は機能性表示食品制度が招いた事故ではなく、健康食品・サプリメントを取り巻く国の政策、業界環境、法的環境そのものに問題がある。もちろん、機能性表示食品制度が発足して以降、この問題と真正面から取り組もうとしなかった多くの業界人にも責任はある。

 今回の大事故を契機に、業界人がこれから目指さなければならないものが何か、消費者の安全確保のために役立つものは何かを今一度見直すためにも、今改めて、故・大濱氏が残した遺産「サプリメント法(試案)」を振り返ることは意義のあることかもしれない。以下にその一部を紹介する。(⇒つづきは会員専用閲覧ページへ) 

(つづく)
【田代 宏】

関連記事:GMPめぐる混乱~顛末は?(前)

    :GMPめぐる混乱~顛末は?(後)

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